0208・呪いのアンズルとの戦い その2
Side:イシス
俺が死んでいないからか、それとも聖銀の盾が嫌なのか。
どちらかは分からないが、猛烈にプレッシャーを放ってくる呪いのグレイ。
俺もまた盾を構えながら前に出て、相手の攻撃を止める為に集中する。
そして相手の動き出しが始まったのに合わせ、俺も盾での防御の為に動き出す。
ちなみに俺が作った盾はラウンドシールドと呼ばれる丸い盾となる。
色々と悩んだんだが、相手を確認するのと防御のしやすさでコレを選んだ。
タワーシールドや二種類のカイトシールドにヒーターシールドもあって面白かったのだが、最終的に選んだのは使いやすかった物となる。
タワーシールドとは上下両方が平らで長方形をしており、左右が内側へと反るように緩やかに湾曲させてある盾だ。
古代ローマだと<スクトゥム>と呼ばれた体を覆い隠すほど大きい盾になる。
カイトシールドとは上部が丸く、下部が三角形に尖っている盾で、凧の形をしている為にカイトシールドという名が付いた盾だ。
ちなみに上部が丸い物の他に平らな物もあり、どちらもカイトシールドであるらしい。
主に騎兵が使っていた盾なので、思っている以上にデカい。
ヒーターシールドはカイトシールドを歩兵用に小型化した物で、取り扱いがしやすくなっていた。
実際にこのヒーターシールドにしようか迷っていたのは事実で、それぐらいに優秀そうな盾だった。
ちなみにラウンドシールドに決めた最大の理由は、扱う際に邪魔にならないからだ。
ゲームとかアニメでカイトシールドなどは見るが、あれらは上手く扱う為に訓練を必要とする。
ヌンさんにそう言われて使ってみたのだが、確かに扱い難かった。
視界の邪魔をするし、足にぶつけたりもする。
特に戦闘に集中していると、それが顕著に出るとヌンさんに言われたわけだ。
唯でさえ盾の扱いに慣れていないのに、そこまで器用に扱える訳が無い。
そういう理由で考えると、訓練をあまり受けていない兵に支給されていたというラウンドシールドの方が、当然だが俺には合っている。
そもそも盾を使いたいと思った事も無いし、今回も達人のような相手だから持っただけだ。
ヌンさんいわく、慣れていなければ扱えない物を無理に使っても意味は無いとの事。
むしろ却って動きを悪くするから持たない方がマシだとまで言っていた。
それぐらい実戦で慣れていない物を持つというのは死活問題となる。
という事で、慣れていない俺でも使えるラウンドシールドにしたわけだ。
そしてそれを今、如実に感じている。
キン! ギン! ギィン!!
袈裟切り、切り上げ、突き。
相手の攻撃が縦横無尽に飛んでくるが、その全てを俺は流して弾いて防いでいる。
左半身で盾を前にし、確実に敵の攻撃から身を守り続ける事が出来ていた。
おそらくだが、こういう状況を予想できたからこそ、呪いのグレイはプレッシャーを放ってきたんだろう。
バステトとハトホルの浄化も効果は多少出ているし、帰還のアナウンスが来たらノータイムで許可を出している。
俺が前で確実に防ぎ、後ろからの援護を受けて確実に敵を倒す。
俺が前に居る所為で、後ろのバステトやハトホルには攻撃できまい。
仮に後ろへ呪いを飛ばされても、<ムンガ>の時と同じように浄化するだけだ。
飛ばす分どうしても呪いの密度は減るし、減ればその分だけ浄化しやすくなる。
それは<ムンガ>も行った悪手でしかない。
もちろん目の前の敵は、そんな悪手を行ってくれるほど甘くはないがな。
そう考えると<ムンガ>は人間味溢れるヤツだったんだと分かる。
あれだけ人間を怨んでいたが、やはり<ムンガ>も人間だったんだ。
それは間違い無い。
ギィン! キン!! ガッ!
地面に剣が落ちた今がチャンスだ! そう思った時にはメイスを振り下ろしていた。
そしてそれは狙いを過たずに剣に直撃する。
『ギャァァァァァァァァァァァァ!??!!?』
「!?」
ビックリしたじゃないか! 脅かすなよ!!
どうやらあの呪いの剣には意識みたいなものがあるらしい。
そして聖銀のメイスは良く効くようだ。
わざわざ星型メイスにしただけはあったという事だろう。
ちなみに星型メイスというのは、メイスの先端部分が星のようにゴツゴツした物で出来ている。
フランジのように刃の形ではなく、四方八方に突起が出ている塊と考えれば分かりやすい。
つまり金平糖の形だ。
生き物を殺すならフランジ型のメイスの方が良いらしいが、何かを破壊するのなら星型メイスの方が良い。
ヌンさんからのアドバイスに従ったんだが、結果は相当に良かったらしいな。
俺はバックステップをして距離をとり、再び呪いのグレイと対峙する。
しかし先程の一撃が効いたのか、呪いのグレイは動かない。
そうして対峙していると、北側からモルドン王国の兵士が追加でやってきた。
「何と!? 我らが一番乗りではなかったか! しかしまだ王城には辿り着いておらぬと見える。我らが一番乗りをするぞ! 王城の宝物を全て奪うのだ!!!」
「「「「「「「「「「おおーーーっ!!!」」」」」」」」」」
「!!!」
何か理由があるのか分からないが、呪いのグレイは俺に背を向けた。
そしてモルドン王国の兵の方へと向かい、呪いを撒き散らしながら虐殺を始める。
多くの者がそれを見てビックリしている隙に、俺達は<時空の狭間>へと帰還した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「やれやれ。何が起きたのかは知らないが、とにかく回復するチャンスだったからな、素早く帰って来れて良かった。皆、ここまでお疲れさん」
『おつかれさまー』
『おつかれさまです』
「……成る程。イシスと戦っていたのに、急に北側から来た軍の方に行ったと。それにしてもイシスが言っていた通り、相当の実力者のような動きですね。手加減されていたのがよく分かります」
「だろ? あの呪いのグレイ、意味が分からないレベルの強さだったぞ。今の内に装備を整理して改良しておく。周りの連中の目なんぞを考えている場合じゃない。アレを倒すのが先だ」
俺は<物品作製装置>の部屋へと行き、アイテムバッグの中の防具や服を全て箱の中へと入れる。
そしてオーガの皮と蠍の甲殻を使用したスケイルアーマーを作製、レザーアーマーから切り替えた。
そしてそれだけではなく、首を守る防具も作る予定なのだが……。
いったいどうするかを悩む。
というか首限定の防具ってそもそもあるのか?
「一番簡単な物を考えるならコイフですかね? いわばチェインメイルというか、フードのメイルと言えば分かりやすいかと思います」
「ああ、鎖帷子のフードって事な。………悩むところだ。あれっていちいち中に布製の物を着込まなきゃいけないんだろ? 衝撃緩和や髪の毛を巻き込まない為に。そうなると重いし暑いよな?」
「でしょうね。とはいえ首を切り落とされるよりはマシですよ?」
「そりゃそうだが……。ゲームとかアニメの鎧みたいに、襟を立てるような形に鎧を作れないかな?」
「わざわざそんな事をするくらいなら、兜を被るか、それとも綿甲を身に着けるべきでしょう。襟を立てた程度の物では防げませんよ」
「兜はともかく、めんこう?」
「綿甲とは、服というかコートやローブをイメージして下さい。その内側に金属の小札が沢山止めてある鎧です。服なので着込む事で簡単に脱ぎ着できますし、その割には金属が使われているので防御が高いのが特徴です。欠点は暑い場所では使えない事ですね」
「成る程。ローブの内側がスケイルアーマーって事か。確かにそれは便利だし、蠍の甲羅なら硬いし金属より軽い。よし、それでいこう! 暑さは我慢すればいいし、代わりの物は別の時に考える」
俺はスケイルアーマーを箱の中に入れ、代わりに綿甲という物を作製。
出てきた物を着てみたが、確かに脱ぎ着は凄く楽だった。
どうやら二枚の布の間にクッション材と小札が付いているらしい。
肌に触れる部分は布なので嫌な感じはしない。
これ……思っているより便利だな?
暑いのが欠点だけど、重さはそこまでじゃないみたいだ。
金属鎧を作った事が無いから、本当に重い鎧は知らないが。
「こんな便利な鎧があったんだなー。名前的に中原っぽいけど」
「イシスの故郷にもありましたよ? 759年に大陸から遣唐使というのが持ち帰り、762年に作製を大宰府に命じたという記録が残っていた筈です。いつから使われなくなったのかは判然としないようですが……」
「759年って、平安時代より前かよ」
大宰府って聞いた事があるというか、勉強した記憶があるが………なんだっけ?




