0207・呪いのアンズルとの戦い
Side:イシス
呪いが簡単に減ってくれず、バステトとハトホルも回復して復帰したが、しかし依然として呪いが強固で殆ど削れない。
このままだとマズいと思いつつも、解決策が全く無いのが現状だ。
削るにしたって、このまま亀の歩みの如く削り続けたところで、その終わりがいつになるかは誰にも分からない。
かといって突破口になる何かがある訳でもないし、どうすればいいのやら……。
ギィン! キン! ガキッ! ギィン!
何とか相手の攻撃を防いでいるけど、体力的に限界が来てもおかしくない。
無限のスタミナを持つ相手と比べたら、こっちには限界があるんだから、最後は必ず負ける。
その時間が刻一刻と迫ってきていた。
その状況において打てる手は無く、帰ってきたバステトやハトホルが時間稼ぎの為に【ヒートバレット】などを放つも意に介さない。
そもそも当たっても意味が無いというか、防具で受けてしまうので効果が無いんだよ。
おかげでこのままだと二度目の死亡となるな。
そう思った矢先にモルドン王国の兵が数名ほどやってきた。
そして呪いのグレイを見つけた連中は、何故か俺の方に魔法を飛ばしてくる。
俺は慌てて緊急回避を行おうとするものの、その隙を突かれて首を切られてしまった。
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「あー、くっそ!! 殺されたのはこれで二度目か!! しかも綺麗に首を切られたぞ! 相手がアンデッドで無限のスタミナなのは反則だろ。ジリ貧で負けるに決まってるじゃないか!」
「裸だという事は本当に殺されたようですね。いったい何があったので?」
俺は<物品作製装置>の部屋へと移動しながら、ヌンの質問に答えていく。
「簡単に言うと、呪いの武具を四つも持つアンデッドのグレイが居たんだよ。そしてそいつが達人みたいな剣の腕前でさ、どうにもならない訳だ。………今思えば俺は手加減されていたのかもな。俺自身はそこまでの実力は無いし」
「訓練はしているんですから、そこまで下手な訳ではありませんよ?」
「いや、相手は達人みたいなもんだ。攻撃も防御もギリギリはおかしい。そうなるように手加減されていたと考えるのが妥当だろう。それはともかく、そんなヤツ相手に勝たなきゃいけない訳だが、勝つ為の策が全く無い」
「そこまでですか?」
「そこまでだ。向こうはこっちより遥かに腕が良く、無限にスタミナがあり自立行動をしている。呪いの武具を装備していて、呪いが複雑に絡まり合っているからか、殆ど浄化が出来ないんだ。魔力を流しても微々たる量しか減らない」
「それほどとなると、相当に呪いが濃く絡み合っているのでしょう。簡単には祓えませんね。こちらも色々な物を用意して対抗するしかないでしょう。それで対抗できるかは知りませんが」
下着や服を作って着たら、ブーツを作って履く。
ここまではいいとして、問題はここからだ。
何の装備を作ればヤツに勝てるのか、そもそもヤツを相手にして勝つ事はできるんだろうか?
そこが俺には分からない。
もし作製しても勝てないなら根本的に作っても無駄って事になるが……。
とりあえずウィンドウを見て色々と確認しよう。
…
……
………
駄目だ。
対抗できそうな物が見当たらない。
相手は呪われた武具であり、呪いの何かを埋め込まれたグレイだ。
しかも剣の達人。
それに対して対抗できる物なんてあるのか?
俺は色々な物を確認していたが、その瞬間に気付いた事がある。
ヤバい、アイテムバッグが向こうだ。
となると【ストレージ】に入れるしかない。
向こうで全て回収してから戻る?
いや、そんな隙を晒したらまた殺されるだけだ。
ならどうする?
………まずは聖銀の杭を止めよう。
あれは大型の呪いのアンデッドに突き刺す事を前提にした物だ。
小型というか人型と戦う事を想定した武器じゃない。
人型相手として再度考えよう。
人型相手で攻撃と防御。
それを考えると…………相手が持っているのは呪いの武具なんだよな?
それを破壊できないだろうか……?
仮にそれをするというなら、持つのはメイスか?
それと………あの剣を防ぐ盾かな?
浄化の魔力はバステトとハトホルに任せて、俺は【身体強化】を使いつつ戦うか。
それなら前での戦いも維持できる筈だ。
更には【身体強化】の使い方も工夫しないと駄目だ。
もっと瞬間的に使ってすぐ解除。
そうする事によって燃費を良くして戦いを継続できる筈。
よし、まずはそれを十分に練習するか。
…
……
………
「それで十分に戦えると思いますよ。それに呪いの武具を壊すという考え方は良いものです。おそらくですが、イシスの言う呪いの剣が達人の動きをアンデッドに与えているのでしょう」
「あー……呪われる代わりにってヤツか。そこは考えてなかったな。とにかく相手の方が上なんだから、防御を厚くして攻撃を防ぐしかないという考えしかなかった。だから聖銀の盾を作ったんだし」
「メイスも聖銀ですしね。今のところはそれ以上の対抗素材がありませんから、聖銀で何とかするしかありません。後はゆっくり休んで回復し、万全の態勢で向こうに行くだけです」
「ああ、そうだな。とりあえず仮眠をとってくる」
…
……
………
「よし、準備はこれで万全だな。向こうに行ったら死んだ瞬間だろうから、素早く【ストレージ】に全て回収しておかないといけない。殺された事はバレないだろうが、不自然な事がバレる」
「でしょう。とりあえず剣で切られたのならば、剣が通過した場所に肉体を下ろすといいですよ。そしてすぐに【ストレージ】に確保してください。それで違和感は最小限に減らせる筈です」
「分かった。しっかし久しぶりに殺されたが、殺される時はあっさりだよなぁ。何かこう、劇的な何かっていうのは無いんだよ。普通に死っていう感じ」
「普通はそういうものです。娯楽のように劇的な死に方なんて普通はしません。あ、死んだ。という感じです」
「それも悲しいが、事実として死ってそういうものなんだよ。自分が二度も死ぬと、それがよく分かる」
そんな話をヌンとしつつ、俺は魔法陣の上に立つ。
久々に死んだからか、やり直しのウィンドウが出てビックリしたものの、冷静に自分の体を何処に下ろすか指定する。
俺が指定したのはヌンが言っていた剣の通過した直後の空間。
つまり剣のすぐ隣だ。
とはいえ通過していく方向とは真逆なので安全ではある。
俺が死んだ場所が場所なので、ここじゃないと俺の装備やら何やらが回収できない。
なので敵に近いところにならざるを得ないわけだ。
流石におかしな光景を見せる訳にはいかないしな。
それじゃ、行くぞ!
俺は惑星に下り立った瞬間、外れた自分の物を全て【ストレージ】に回収して左後方に跳ぶ。
これでモルドン王国の魔法も回避だ。
回復したからか頭が随分とスッキリしたなぁ。
やはり疲れている頭は動きが鈍い。
俺はすぐに【ストレージ】から盾とメイスを取り出して構える。
それを見た呪いのグレイは俺に向かって構えるも、その構えのまま動こうとしない。
さっきまでの俺じゃないと気がついたか?
どうやらヌンが言っていた通り、呪いの武具が本体と考えていいみたいだ。
ただそれが本当に当たっているかは分からない。
俺も練習中に考えたんだが、それぞれが体を使うようになったら厄介だと思う。
例えば剣を壊したら次は鎧だとか、それが終わったら次は兜だとか。
そうやってズルズル続くというのは御免被りたい。
なので出来れば剣だけで終わってほしいところだ。
『『イシス!?』』
バステトとハトホルの焦った声が聞こえたが、おそらく俺が一度死んだと分かったんだろう。
だから焦っているんだろうが、俺は蘇るし呪いのグレイは強い。
正直に言って死んだのは仕方がないと言えるくらいだ。
だから焦る必要は無いし、自分のやるべき事をやってほしい。
その方が俺も助かる。
とはいえ、そう声を掛ける事も今は出来ない。
何たって凄いプレッシャーを放ちながら、ジリジリと近付いてくるんだよ。
さっきまでと違いすぎるだろ、コイツ!




