0206・王都の中心で戦いを始める
Side:イシス
「ふざけるな! 我らが祖先が悪いだと!? 貴様らのような愚か者に何が分かる!! しょせんは我らを貧しき者と見下すだけの蛮族どもが!! さっさとあの者どもを皆殺しにしろ!!」
「あいつらの祖先が悪いって言ってるのに、見下すだ何だという話にすり替える。反論が出来ない証拠だな。それよりあの呪われた武具を身に着けているヤツが来るから下がれ」
「すまぬが、頼む!」
悍ましい気配を垂れ流しにしているのは、呪われた剣や鎧を身に着けているグレイだ。
間違いなく<アンズル>の死体を使っているのだが、呪いの武具を身に着けているうえ、呪いの何かを埋め込まれているんじゃないかと思う。
呪いの気配を異常なまでに放出し過ぎているんだ。
あまりにも異常過ぎて、前の星の<ムンガ>レベルにヤバい存在になっている。
よくもまあ、ここまで呪いの武具を集めたもんだ。
「また<アンズル>の死体を利用しているのか! 貴様らは狂っている、最早まともではない。ここまで狂いきった連中を生かしておく訳にはいかん。なぜなら放っておけば同じ事を繰り返すであろうからな!」
「五月蝿いわ! 戦いもせず勝者のつもりか!! 貧しき者は常に敗者だとでも言うつもりであろう!!」
「貴様は公爵であり贅沢をしてきたのであろうが! それを言う資格は貴様には無い! この国の国民に謝るがよかろう!!」
「ええい、うるさい! うるさい! うるさい! さっさと奴らを皆殺しにしろ!!」
「子供か、貴様は。しょせんは己に都合の良い事しか考えず、国を救うフリをして己の欲を満たそうとしただけであろうが! 野蛮なのは貴様ぞ! アルハム・ゼオルキンス!!」
「うるさいわ! さっさと殺せーーーー!!」
それ程に声を張り上げてアルハムというヤツが喚くが、何故か悍ましい気配のグレイは動かない。
先ほどからずっと濃厚な呪いの気配を垂れ流し続けているが、何故か全く動かないのだ。
もしかして俺が持つ聖銀の杭を警戒しているのか?
俺は聖銀の杭を構えながらも、少しずつ呪いの気配に近付いていく。
アレはそもそも俺達がどうにかしないといけないものだ。
そう思い近付いて行くと、ある距離を越えた所で突然動き出した。
そして……
「さっさと動け! 動かんか! この役立たずぐぶぇっ!?」
呪いのグレイが、持っている剣で公爵の胸を突き刺した。
それはあっさりと体を突き抜け、そしてグレイは当たり前のように抜く。
おそらく心臓の位置だっただろうから、あれは死ぬしかないだろう。
「「「「「なっ!?」」」」」
「驚くな! あれだけ濃厚な呪いの気配を垂れ流しているヤツだぞ! 最初から自立していると思っていた。つまり、アレはもはや<死霊術士>を必要としない。おそらく自立して勝手に動き回る存在だ」
「勝手に動き回るだと!? それでは誰かがアレを倒すしかないではないか!」
「だからお前らはさっさと離れろ! あれを倒す際にお前らは邪魔だ!!」
俺がそう言うと、第二王子を始めとした連中は一斉に離れた。
俺達の戦いの邪魔をする気は無いんだろう。
そして俺は一気に駆け出して呪いのグレイに攻撃を仕掛ける。
ここは真っ直ぐに突きからだ。
ギィン! キン! キン! ギィィン!!
俺が真っ直ぐに突き出すと、呪いのグレイは剣で滑らせるように流す。
しかし体まで流される俺ではなく、引いて再び突き出す。
こいつ相手には隙のある攻撃は使い難い。
どういう訳かは知らないが、立ち姿に隙が無いんだよ。
しかしこんな剣豪グレイなんて見た事が無いし、スケルトンじゃなくてゾンビな時点で死体がそこまで古くは無い。
しかしこの惑星に剣術みたいなものが在ったというのは聞いた事が無いんだがなぁ。
キィン! ガッ、ギィン!!
俺の突きと呪いのグレイの防御の音しかしない。
周りは俺達を見ているだけで、声を出したりはしないようだ。
北門と南門での戦闘音は聞こえてくるが、それ以外の見守っている連中は黙っている。
戦いながらも魔力の紐を伸ばしているんだが、削れる呪いの量は微々たるものでしかない。
剣に鎧に兜に篭手。
それらが濃厚な呪いの気配を出しているので、呪いが複雑に絡み合っている感じだ。
そのうえコイツの体からも呪いの気配がする。
魔力の紐を触れさせた際に、奥に何かもう一つある感触がしたんだ。
おそらく間違い無い筈なんだが、呪いが複雑過ぎて分からない。
っていうか、この国のダンジョンって呪いの武具多すぎ。
「ふっ! は! シャッ! むんっ!!」
「………」
何も喋らないが、異様なまでに反応速度は速い。
訳が分からないが簡単には攻撃が届かないようだ。
綺麗にガードとパリィをされているというか、何故か防御に集中されている。
その所為で突破できない。
現実的にもそうだが、相手が防御に集中すると、その防御をこじ開けるのは相当に難しくなる。
特に技術的に差が無い場合は極めて厄介だ。
そして目の前に居る呪いのグレイは下手クソじゃない。
むしろ、かなりの達人だ。
俺がヌンさんからの訓練を受けてなかったら、普通に殺されていたと思う。
俺もヌン程には上手くなくて当然だが、それでもコイツはヌンさんの動きより遥かに下だ。
それは間違い無い。
何故ならその御蔭で戦っていられるからだ。
この呪いのグレイがヌンさんレベルだったら、俺はとっくに殺されているだろう。
それぐらいにヌンさんは桁がおかしい強さをしている。
伊達に数千年や数万年の暇を持て余した知性体じゃない。
何かを極める事を遊びのようにやっているのが知性体なのだから、そもそもがそういう領域なんだよ。
ヌンさんは。
その御本人はやる気の無さそうな感じで浄化っぽい事をしている。
バステトやハトホルは本気で浄化してくれているが、ヌンさんはやる気なし。
おそらく俺達で何とかしろって事なんだと思うが……。
あまりに呪いが濃すぎて早々簡単には終わらないぞ、コレ。
俺が前で防いでいる間に回復してもらいながら戦い続けるしかないな。
そう思っていたら呪いのグレイが突っ込んできた。
今度は俺が防戦かよ。
ギィン! キン! キン! ガキン!!
鍔迫り合いにならないように、俺も呪いのグレイと同じく弾いたり流したりし続ける。
呪いの剣と鍔迫り合いなんて勘弁してほしいからな。
嫌過ぎる。
そんな戦いを繰り返していると、魔力が相当に減ってしまっていた。
それでも前で防ぐのは俺なので、簡単に<時空の狭間>に帰る事が出来ない。
それをすれば戻ってきた時に切られて死ぬ。
なのでどうしても帰るタイミングが欲しいんだが、そんな隙が目の前のヤツにある筈も無く。
そしてアンデッドだからか無限に動いてくる。
そもそもスタミナ無限の時点で反則じゃないかと思うよ? 俺は。
そんな事を考えても仕方ないのだろうが、弾いて流していなす。
それを繰り返して呪いの剣には当たらないようにする。
あれ多分だけど、切られた時点で呪いに汚染されて死ぬと思う。
それぐらい濃厚な呪いの気配なんだよ。
そもそも近くで戦いたくないレベルで悍ましく、それに耐えながらの近接戦は大変だ。
それに隙を見せる訳にはいかないし、相手は達人のような相手となる。
尚の事、危険な事はできない。
必死に防ぎながら立ち回っていると、北門から大きな声が聞こえてきた。
どうやら北門を開ける事に成功したのか、モルドン王国軍が王都に雪崩こんできたらしい。
そろそろ戦争も佳境かな?
こっちはそれどころじゃないが。
そんな事を考えていたからだろうか、バステトとハトホルが回復の為に帰るとアナウンスがあったので許可を出す。
惑星に居る側からすれば一瞬だが、俺としては二人の援護が消えるので気が気じゃない。




