0201・町の抵抗と策
Side:イシス
明くる日の朝。
俺達は西に出発を始めた。
輜重は後ろからどんどんと運ばれてくるし、元々オムテス王国は食料の備蓄が多い国なんだそうだ。
なので中央は西進を命じてきたんだろう。
俺達が西に進んで行くと、村から村人が出てきて鍬や鎌を持ってこちらと対峙しようとする。
しかし手を出して来なければ手を出さない事を言うと、農民達は体から力を抜き村へと戻って行った。
どうやらこちらの言う事を信じるみたいだな?
『珍しいですね。他国の、それも軍の言う事を素直に信じるなんて……。何かを狙っている感じでもありませんでしたし、単純に疲弊しているだけでしょうか? それとも動員されたから村人が残っていない?』
『可能性としては高そうですね。そもそも砦に攻めて来た兵士も農民みたいな者達ばかりでしたし、貧しい国ならそもそも農民を兵にするくらいしか無理なのではないでしょうか』
『そもそも兵士を養えないから、大半を農民兵に頼るしかないって事ね。それじゃ<死霊術士>が居なければ元々満足に戦えないじゃない。訓練を受けた兵士と農民兵じゃ戦いにならないでしょ』
『農民に三日槍を持たせれば武者をも殺す、とは言うけれどなぁ……。訓練を受けている者とそうでない者の間には物凄い差があるぞ。俺だって最初はウサギに噛み千切られて死んだしな』
『その後は死んでいないのですから、イシスはよくやっている方ですよ。歴代の<時空の旅人>には多くの死を重ねた者も居ます。それに比べれば一度目以降は死んでいないのですから、上手く戦えていると言えますよ』
『むしろ何度も死ぬってどういう事なの? って思うけどね。そんなに何度も死ぬものなのかしら?』
『単に真剣味の足りない者だっただけですよ。ですから何度も死ぬ経験をして、やっと終われないと悟ったのです。ある意味で<時空の旅人>という現実から逃げていただけですね』
『いきなりだからなぁ……。逃げたくなる気持ちも分からなくもない。とはいえ、それで死にまくっても何の解決にもならないが』
『本当にそうなのですよね。まあ、その結果と言えるでしょうか。その者は戦闘能力だけで言えば、歴代の<時空の旅人>でもトップですけどね。現実を見つめ努力した後に、戦いというものにハマってしまったので』
『現実から目を背けていたのに、戦闘に嵌まって狂戦士と化したのか。何がどうなるかは本当に分からないもんだ』
西進と言っても進軍時はこんなもので、適当な雑談をしながら歩いて進むだけだ。
北のモルドン王国や南のヤンマ王国が何処まで進んだのかは知らないが、こっちは急がないと間に合わないだろう。
問題はそれでも間に合うかが分からない事なのだが、そこを心配しても仕方がない。
それに町を本当に無視できるかは定かじゃないしな。
頑強に抵抗してくる町もあるだろう。
そこでも足止めを食う筈だ。
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西進して二つ目の町。
なんとか伯爵の町らしいが、ここは徹底抗戦だそうだ。
こういう町も出てくると分かっていたので戦うが、明らかにこちらの兵士にやる気が無い。
手痛い反撃を受ける可能性が高いな。
やる気が無い理由は、今まで戦闘もせずに進んで来れたからだろう。
何でいちいち……などという感情が出てくるのは分からなくは無い。
しかしながら、それが足を掬われる原因になったりするんだがな。
流石にマズいと思い、俺は第二王子や将軍に話をする。中身は簡単な策だ。
しかしそれを聞いた第二王子と将軍は喜び、ウェロヌ達はジト目を向けてきた。
俺はどこ吹く風とばかりに受け流し、元の場所へと戻っていく。
そして第二王子と将軍は兵士達を整列させると出発。
町を無視して迂回し、そのまま西へと進んだ。
そもそも町と戦う必要は無いんだよ、俺達。
そのまま町を通り過ぎて進むものの、誰だってこのまま終わるとは思っていない。
当然ながら敵が後ろから追いかけてくるのは確実である。
だからこそ整列させ、最初から戦闘を前提にした陣形のまま歩いているのだ。
そして後ろから追いかけてきた町の軍勢に対して、こちらは立ち止まって方向を転じる形で応戦。
最初から戦闘陣形なので慌てる事無く戦闘へと移行。
ついでに兵士達にも知らせてあった為、兵士達もいきなりで浮き足立つ事は無かった。
敵はあっさりと戦闘態勢を整えたこちら側を理解したものの、既に追いかけて攻め込んだ以上、いきなり行動を変えられない。
こちらは正しく迎撃を行い、その結果ほぼ死者を出す事なく敵の撃退に成功した。
こちらは3000の軍勢に対し、向こうは民兵が400程度。
そもそも相手にならないのだが、町攻めをしていれば被害は大きかっただろう。
とはいえ町の者が外に出てきた以上は野戦であり、数の少ない軍なんて大した相手じゃない。
「当たり前にこういう策を出してくるのが恐いのよ。町を素通りするって何を考えているのかと思ったら、町に閉じ篭もる相手を誘い出す為とはねえ……。そりゃ素通りされたら貴族の沽券に関わるでしょうよ」
「それが分かったうえで、最初から陣形を整えての移動だもんな。いつでも来いよと言わんばかりだったが、あの町の伯爵とやらには理解できなかったようだ」
「相手は民兵であり職業兵ではないし、それもあってこちらは殆ど被害を受けてはいない。町攻めなぞしていたらどうなっていたか分からんが、それと比べて上々の結果なのは間違いなかろう。上手くいったな」
「それよりさっさと先へと進もう。こんな所で立ち止まって喜んでいても仕方ない」
俺はそう言って浮かれる連中から離れ、殿の位置に戻る。
俺達の位置は常にこの場所であり、一番危険な場所に俺達が居るからか、割と後ろに居る連中は不満を持っていないらしい。
後ろからアンデッドが来たらと思うと恐いのだが、俺達が居るので安心なんだとさ。
それは悪い事じゃないんだが、俺達が居れば絶対に勝てると思われても困る。
純粋に数で来られると守りきれないのは当たり前で、そこから瓦解するかもしれない危険性が拭えない。
実際に崩れる時は一瞬で崩れるとは思うが、その時になってみないと分からない事が多いんだよ。
数が少なければ守りきれるし、そこまで<死霊術士>も残っていないと思いたいんだが……。
『希望的観測は止めた方がいいでしょうが、先ほどの策は見事に嵌まりましたからね。余計に期待というか信頼をされていると思いますよ』
『あれは徳川家康が武田信玄に<三方ヶ原の戦い>でやられた事なんだよ。城の前を素通りされて激怒した家康が出陣。実は罠で、待ち構えていた武田軍にボッコボコにされて敗走したっていう戦いだ』
『つまり元となる戦いがあったわけね』
『そりゃな。俺は武将じゃないし、そんなに上手く思いつくような戦闘脳はしていないよ。実際に敵を城というか、立て篭もってる場所から引きずり出すには良い策だと思っただけさ。それに許可を出したのは第二王子と将軍であって、俺じゃない』
『『………』』
『そうですね。最終的に責任をとらねばならないのは、許可を出した王子であり将軍です。イシスはあくまでも提案しただけですので』
『まあ、そうなんでしょうけど……』
『なんというか、ねえ……』
『上に立つ者が責任を負うのは当たり前だ。だからこそ上に立つ者が功も得るんだからな。責任を下に押し付けて功だけ得るクズも居るっちゃ居るが、こういう時代だと下っ端の暴走で殺されかねないだろ』
『具体的に居そうな言い方ね』
『元の星の歴史上には、そういう人物が沢山居たんだよ。誰とは言えないぐらいにな。特に中原』
『『???』』
あそこはなぁ……。
古い時代の歴史を見ると、駄目人間のオンパレードなんだよ。
あまりに酷すぎて笑いが出てくるレベルで。




