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0164・ソーリャの歴史




 Side:イシス



 俺達は<コーヴァー>という人物に案内されて、今は店の中の商談を行う部屋へと連れて来られている。

 部屋の外には先程の屈強な連中が居て、ある意味では逃げられない形だ。

 こいつは商人じゃなくてチンピラだな。


 俺が心の中でそう評していると、口を開いたので話を聞く態勢に入る。



 「はぁ……最近の若いヤツはどうしてああも使えねえんだ。オレの店の看板に泥を塗っておいて、まだ頭を下げりゃ許されると思ってやがる。どれだけ甘ったれりゃ気が済むのやら」


 「というより、店主に聞きもせず勝手に物事を決めてる時点で論外だろ。いつからこの店はあの店員の物になったんだっていう話だ。それだけの事をやった事すら欠片も理解してなかったぞ。あのバカが俺達を逆恨みしてきたら殺すからな?」


 「好きにしろ。ありゃもうウチとは何の関係もねえ。むしろ下らねえ噂が出る前に始末してくれると助かる。ウチが手を下すと面倒な噂が立つ可能性があるんでな」


 「何処の世界でも、誰かの足を引っ張って引き摺り下ろそうってのは居るからな。中には商売より、そっちの方が上手いヤツも居る」


 「ははははは、違えねえ。……それで、蜂蜜だったな。どれぐらいだ? オレがわざわざ出たんだ。手間をとらせる価値も無いってんじゃ、覚悟をしてもらうぜ?」


 「それがどれだけの量なのかは知らんが、持って来たのは蜂の巣一つだ」


 「………は?」


 「は? じゃなくて蜂の巣一つだ」


 「お前、頭がおかしいのか?」


 「正気なうえ、嘘なんぞ吐いてねえよ。正真正銘、蜂の巣一つ分だ」


 「……はははははははは! いや、凄え! それが本当ならお前は凄えバカだ!! もちろん褒めてるんだぜ? そんなメチャクチャな事をしたヤツは初めてだぞ!!」


 「昨日3階でジロジロ見てきたり、俺達を襲ってきた盗賊が居たが、あれってダンジョンに入ってる奴らからしたら、あり得なかったからか。成る程な」


 「くくくくくくくく……。お前さん凄えなぁ、本当によ。おい! 収納鞄を持って来い!!」


 「ハッ!」



 扉の外に声を掛けた後、俺達は少し待たされたものの、すぐに屈強なヤツが収納鞄ことアイテムバッグを持って来た。


 ちなみに放り出された店員も、俺達を襲ってきた盗賊の姿のも<アンズル>だ。

 しかし屈強な連中は全員が獣人である<リグン>であり、どうやら側近に<アンズル>は使ってないっぽいな。


 俺はアイテムバッグから次々に切り分けた蜂の巣を取り出し、それを見た<ソーリャ>が大爆笑。

 <リグン>の連中は唖然とした顔をしている。



 「あはははははは! こんな愉快な事が他にあるかよ!! こりゃお前、とんでもねえ財産だぞ。あの<城魔蜂>がどれだけの開拓者を貪ってきたかを考えりゃ、端金はしたがねじゃ買えねえ代物だ」


 「それであの盗賊の連中は襲い掛かってきたのか。問答無用って感じでこっちを襲ってきやがったからなぁ」


 「そりゃそうだろ。命を掛けてでも奪い取りゃ、十数年は遊んで暮らせるような金が入るんだ。盗賊どもが目の色を変えるのは当たり前のこった。これだけの取り引きを他所に持ってかれちゃ、どれだけの損をしたか分からねえっての」


 「それで、全部で幾らになる? 大雑把で構わない。俺達は今日も採りに行くしな」


 「うははははははは! これを今日も採りに行くってか! あんたら凄えよ、オレは今まであんたらみたいなのと会った事もねえ。……そうだな、商人の矜持として価格は出す。少し待っててくれ」



 そう言って<ソーリャ>は部屋を出た。

 既に俺達は蜂の巣を渡しているので、持って逃げられたら大損だろう。

 しかし、俺達にとってはそこまで労力の掛かるもんじゃない。

 今日は魔力も多いから昨日よりも楽だしな。


 そう思いながら待っていると、意外に早く戻ってきた。



 「いやー、部屋ぁ引っ繰り返して頑張ったぜ。これでどうだ? しめて200000ルルだ」



 商人<ソーリャ>がテーブルの上に置いたのは、金貨40枚だった。

 俺としては驚くしかないが、蜂の巣一つでそんなにするのか。



 「驚きだが、あの蜂の巣一つでそこまでの値段がするのか? 確かに巨大だし、蜂蜜は多そうだが……」


 「それだけじゃねえのさ。中に女王蜂が凍って入ってたが、あの女王蜂は病に効く薬の素材の一つなんだよ。あれだけで100000ルルはする。何たって呪いまで治せる薬の素材だって聞くからな」


 「呪いまでか、そりゃ凄いな」


 「そうさ。さっきの蜂の巣は確定で王家が買い取ってくれる。正直に言えば蜂蜜と女王蜂だけで、確実に200000ルルは行く。後はどこまで上がるかだが、こんな凄いもんは誰にも分からねえ。オレも40枚が限界で、これ以上はどう頑張っても出ねえのさ」


 「となると、採ってきても誰も買えないか」 


 「小分けにした蜂の巣のブロックそれぞれなら買えるヤツも居るだろうが、ウチみたいに王家に伝手も無い連中は手を出さないだろうな。<城魔蜂>の蜂蜜を持つっていうだけで、誰に狙われるか分からねえから危険ってのもある」


 「そんなにか?」


 「お前さん知らないみたいだから言っておくが、あの蜂蜜は魔力を回復する事が出来る貴重品の一つだ。他には<魔力草>と<魔木の滴>しか無いんだよ。つまりあの蜂蜜は軍需物資にもなる。ヤベエのが分かるだろ?」


 「そりゃヤバイわ。ゼンス王国の連中が手を出してくるに決まってる。ここチャルタンに居るのかは知らないが、居ると考えた方がいいだろうな。王都でも出たし」


 「あん? そりゃどういうこった?」



 どうやら知らなかったみたいなので教えてやると、目の前の<ソーリャ>は憤怒の表情で怒り狂った。



 「あんのゴミどもめ!! オレ達<ソーリャ>を殺し回って奪っただけじゃ飽き足らず、あの由緒正しい【死霊術】で死体を玩具にしやがって!! 元々あれは同胞を連れ帰る為のものなんだぞ!」


 「同胞を連れ帰る?」


 「ああ。旅先やどこかで死んだ同胞を、同じ同胞の場所へと連れ帰る為のものだ。そこで死体に戻し、同胞が火葬を行って御霊を精霊に返すんだ。その為には危険な所からも同胞の死体を持ち帰る必要があった」


 「成る程。元々は鎮魂の為の技術が【死霊術】だったのか。それをゼンス王国は奪って悪用しているというわけだな。どのみち他国にまで食指を伸ばして拉致誘拐を当たり前にするような連中だ、碌なもんじゃないのは分かってる」


 「本当にクソッタレの最低な連中だぜ。そもそもだが、恨むならあそこに住み始めた祖先を恨めってんだ!」


 「どういう事だ?」


 「お前さんは知らねえか。今ゼンス王国がある所は、元々オレ達<ソーリャ>の国があった所なんだよ。そこは大繁栄した国だったらしいが、祖先達はおごったらしくてな。何があったかは分かってないが、祖先は神々から天罰を受けたらしい。その結果、国ではまともに作物が育たなくなったそうだ」


 「もしかして今<ソーリャ>が散り散りなのは……」


 「そうだ。かつての国では作物が育たず食えなくなったからだし、新たな天罰を怖れて散り散りになるしかなかった。どこかの同胞が滅んでも、他の同胞が生き残れば<ソーリャ>は滅びずに済む。だから散り散りに生きてるんだ、オレ達は」


 「そんな過去があったのか……。そしてゼンス王国は天罰を受けた土地に入り込んで国を興した」


 「そうだ。だから未だにあそこは作物の育ちが極めて悪い。碌な物が育たねえって分かってるが、それでもオレ達のように逃げられないのさ。自分の国が無くなると困るヤツが多いからだろうな」


 「神の罰じゃ、何をやっても良くはならないだろうよ」


 「ああ。それをゼンス王国の奴らは分かってねえのさ。同胞だっておそらく口を開かなかったろう。奴らの国に連れて行かれるという事は、古の<ソーリャ>の国があった所に連れて行かれるって事だ。口に出すと今度はどんな罰が同胞に落ちるか分からない」


 「多分、今は罰を落とされないとは思うがな。おごっていた祖先は居ないわけだし」


 「オレもそう思うが、神様方がどうお考えなのかなんて、下々のオレ達にゃ分からねえからな。それよりそろそろ店の事をしなきゃならねえし、蜂蜜を売る用意もしなきゃなんねえ。すまねえが……」


 「悪い、貴重な話をありがとう。俺達はすぐに出て行くよ」



 そう言って俺達は<コーヴァー>の店を出たが、そんな歴史が<ソーリャ>にあったとはなぁ……。

 今を生きているヤツは関係ないと思うんだが、神にとっては違うのかねえ?


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