0161・ダンジョンの盗賊
Side:イシス
俺達は二階の階段のすぐ左側にある蜂の巣を狙う事にした。
まずはそこら辺を飛んでいる蜂の近くに寄り【フリーズウィンド】を使って確実に弱める。
その後は近付いて首を刎ねて始末していく。
何度か近くの蜂がこちらを襲おうとしてきたものの、最悪の場合は【ワールウィンド】を駆使する事で凌げた。
とりあえず空中を飛べなくしてやれば応急の対処は可能なようだ。
良かった、良かった。
その後も倒した蜂は回収しながら戦っていき、十分に働き蜂を減らせたら蜂の巣に近付く。
ここからが蜂との本当の戦いだ。
俺達が蜂の巣に近付くと中から働き蜂が出てくるも、その数が多いので蜂の巣の入り口に向かって【フリーズウィンド】を使う。
正直に言って巣がメチャクチャ大きくで若干引く。
遠目でデカい事は分かっていたが、近付くと改めてその大きさが分かる。
縦に8メートルほど、横に15メートルほどもあり、まるで砂山のような形をしていた。
明らかに元の星で見た様な蜂の巣じゃない。
その入り口部分から「ブブブブブブ!!!」という嫌な羽音が聞こえている。
どうやら冷えて弱った奴らが支えている為、外に出てこられないらしい。
これはチャンスだと思い、もう一つの【冷却魔術】である【ブリザード】を使用した。
こっちは更に魔力の消費が激しいのだが、それでも一定範囲を一気に冷やす事が可能な【魔術】となる。
俺、バステト、ハトホルで一気に冷却し、中の蜂ごと全滅させた。
周りの花もカチンカチンに凍っているが、それはこの際気にしない事にする。
俺は素早く蜂の巣に近付き、この巨大な蜂の巣の解体を始めた。
俺が薙刀で切り裂きブロック状に分け、それをヌンがアイテムバッグに収納していく。
収納自体はすぐに終わるので、切り分ける作業の方が大変だ。
バステトとハトホルには周囲を警戒してもらっている。
途中で【身体強化】を使いながら、なんとか切り分けて全て収納する事が出来た。
いやー、本当に時間が掛かったなぁ。一つの蜂の巣でコレかよ。
もっと効率的なやり方をしなきゃ駄目だな。
バステトとハトホルが周囲を警戒していてくれたからか、襲われる事はなかった。
やれやれだと思うも、二匹から面倒臭い事を聞かされる。
『私達が見ていたからかどうかは分からないけど、少なくともこちらをジッと見ている連中は居たわよ。もし私達が居なかったら襲ってきていたかもしれないわね』
「欲に濁った連中が出てくるとは思ってたが、案の定出てきたか。バステトやハトホルが居たから襲ってこなかったか、それとも後で襲う気なのかは判断が付かないな。とはいえ、ここの蜂蜜なんかは襲ってでも奪う価値があるってこった」
『それはそうなんですけど、面倒な事このうえないです。どうして自分達で採ろうと思わないのでしょう。そして採れる相手がどれだけの強さをしているか考えないのでしょうか?』
「考えられたら開拓者を襲うバカは居ないさ。バカだから数を揃えりゃ勝てるとか安易に思うんだよ。ま、頭が悪い奴はどこにだって居る。これはもう仕方がないと諦めるしかない。どれだけ時代が過ぎても居るんだからな」
『本当に愚かな者は愚かなままですし、新たに愚かな者が生まれてくるんですよね。知恵ある生き物というのは、知恵があるだけに愚かなのですよ。情けない事に』
ヌンさんが辛辣だが、正しいので何とも言えない。
しっかし魔力反応で調べたら引っ掛かるマヌケが居るなぁ。
そもそもここは花畑だから見えてるってのに、その程度の事も分からないのかよ。
呆れてくるが俺達は意図的に無視し、更に左の蜂の巣を狙いに行く。
そこへと移動していると、後ろの反応もこちらへと移動してきた。
バカ丸出し過ぎて笑いそうになるが、何とか堪えて歩いていく。
そして俺達は遠回りにしながら蜂の巣を通り過ぎた。
そして後ろを振り返る。
すると、蜂の巣の向こうにバカどもが見えた。
「気付かれないと思っているとは、頭が悪過ぎるだろ。あのアホどもはどうしてくれようか? 一発だけなら誤射という言葉もあるしなー、【ヒートバレット】で狙うか」
『それでも良いですが、あの者どもに蜂を嗾けたいですね。何とか上手く出来ないものでしょうか?』
ヌンさんも容赦がないねー、気持ちはよく分かるけど。
バカどもも流石に俺達が気付いていたと理解したのだろう、俺達を襲おうかどしようか迷っているようだ。
この時点で迷っているというだけで、連中が三流や五流のザコだという事が分かる。
一流なら気付かれている事に気付いて追わない。
二流なら気付かれていたと分かった時点で撤退する。
しかし奴らは三流以下であり、だからこそ欲の諦めがつかない。
一流ほど欲に流されないが、諦めが付かない時点で三流であると気づくべきなんだが……。
それが出来ない時点で三流以下は確定だ。
今のところは連中をどうにかする手段が無いので先送りにし、俺達は余裕の態度で連中を見ている事にした。
おそらくこれで撤退する筈だ。奴らとて俺達と睨み合いをしていても仕方ないんだし。
その予想は当たり、連中は徐々に離れていった。
だが諦めてない感じなのは丸分かりで、歩きつつもこっちを振り返っている奴らが多数だった。
そして真ん中のヤツに怒鳴られている。
俺達はそれを見送ると、更に左の方の蜂の巣へと移動する。
元々狙いは一番奥の蜂の巣だ。
俺達はそれを前にして一度<時空の狭間>へと戻り、<物品作製装置>の箱へ手に入れた物を全て入れる。
それが終わったら食事と休憩を行い、魔力も十分回復したらダンジョンへと戻った。
ヌンに警戒を任せ、俺達は蜂を倒していく。
ここまでは問題なく進み、その後は蜂の巣全体を凍らせていく。
ヌンから警告も無いので、今のところは問題ないらしい。
なら早い内に凍らせてしまうか。
そう思い【ブリザード】で凍らせた後だった、ヌンから警告が飛んできた。
『イシス、バステト、ハトホル。後ろから連中が近付いてきましたよ!』
俺達が振り返ると、20数人の奴らがこちらに近づいてくる様子が見えた。
俺は<魔力操作補佐杖>を取り出すと、ヌンにアイテムバッグと薙刀を預け、素早く蜂の巣を回収するのを頼む。
そしてバステトとハトホルを連れてバカどもの前に出た。
「お前達、それ以上近付けば賊として殺す。……もう一度だけ言ってやる、それ以上近付くと賊として殺す。その覚悟を持て」
「おーおー、随分と張り切ってるじゃねえか。この数が見えねえのか? ああん?」
「お前達こそ見えないのか? 俺達が蜂を全滅させているのを。それが出来る俺達が、お前達如きに負けるとでも? 頭が悪すぎるぞ」
「チッ! ちょっと実力がある新人っつーのは、すぐに調子に乗りやがる。ここチャルタンの掟をオレ様が教えてやるぜ」
「成る程。ならば俺は<弱肉強食>という言葉を教えてやろう。弱ければ食われるしかないという、自然の掟をな」
「ハッ! 調子に乗ってんじゃねえぞ! 野郎ども、ブッ殺せ!!」
「「「「「「「「「「おおっ!!!」」」」」」」」」」
何でこうも頭が悪い連中が絡んでくるんだろうと思いつつも、距離がある状態から【ヒートバレット】を乱射する俺達。
それは盗賊どもの足を直撃し、次々に戦闘不能へと追い込んでいく。
そもそも連中は粗末な革鎧と、斧や棍棒などしか持っていない。
徒党を組む事で何とかしてきた連中なのだろうが、その数の優位は俺たち相手だと無意味なんだよな。
俺が<時空の旅人>だから。
普通なら狼のように狩りをすれば、少数の側を追い込む事は出来る。
しかし<時空の旅人>である俺達は、時間を止めて回復が出来るわけだ。
どう考えても回復できない側が不利にしかならない。たとえ多数でもだ。
その事を理解している俺達は、だからこそ余裕の態度で居られるし、だからこそ余裕で盗賊どもの足を潰していく。
もうすぐ終わりそうだが、こいつら弱いなぁ……。




