0152・王城への道の上で止めを刺す
Side:イシス
俺達は襲撃者を退け、ギルド長こと第三王子が後を騎士と兵士に任せたので、さっさと王宮へと移動する。
まあ、王城でも王宮でもどっちでもいいのだが、目の前に見えている大きな城へと行くという事だ。
王宮と言うと王が生活している所というイメージがあり、王城と言うと王が住んでいる防衛のしっかりした城というイメージがある。
しかし王城の中で政治もしているので、実際には王城の中に王宮があるという感じだろう。
城と言っても実際には城下町を含めた全体を王城というのだし、この王都も王城の一部だと言える。
うん? ……という事は目の前に見えているあの城は王宮か? それとも王城か?
いったいどっちなんだ?
「なに頭を捻って考え込んでるの? 何か疑問に思うような事でもあった?」
「あの目の前に見えている城。あれは<王宮>か? それとも<王城>か? いったいどっちなんだろうと思ってな」
「………また、どうでもいい疑問を。確かに王宮と言えば王宮だし、王城と言えば王城よ。どっちでもあるし、どっちかって決めなくても良いんじゃない? そもそもどっちでも陛下のいらっしゃる場所だし」
「まあ、陛下のおられぬ城は唯の城だしな。それに王子宮はそれぞれの宮としか呼ばれん。陛下がいらっしゃるからこそ王城なのであり王宮なのだ。それは間違い無い。まあ、どちらでもいいのではないか?」
「やっぱりどちらでもいいのか。一応は城下町を含めた全てを王城、王の暮らす宮を王宮と言うんだと思ってたんだが……」
「知ってるんじゃないの。だったら聞く必要あった?」
「いや、城に住んでいる王も居るだろう? なら城が王宮になるのか? それともそこは王城なのか? それが分からないわけだ。そもそもオムテス王国の王が専用の王宮に住んでいるのか、それとも城に住んでいるのかは知らないし」
「かつてあった古代の国には城に住んでいる王も居たらしいが、今は専用の宮を持っていらっしゃるから、住んでいる場所は王宮だな。だが普段の政務は城でしているので王城でもある。確かにややこしいな」
「もう、どっちでもいいじゃない。それよりもイシス、ごめんなさいね、アンデッド討伐の報酬の件。ディネーの事で頭がいっぱいで忘れてたわ。魔車の中の鞄に入っているから、後で本当の報酬を渡すから」
「ああ、アンデッド200体を倒したのに、250ルルの報酬だったヤツな」
「なんだそれは? 正気か? アンデッドを200体も倒したのに、たった250ルルしか払わなかっただと?」
「ちょっと語弊があるわ。元々ウチの母の所為なんだけど、多くの者達で戦う予定だったのよ。その参加人数は40人を予定していたの。領都の開拓者のほぼ全員だったんだけど、この参加人数の場合の一人頭が250ルルなのよ。でもイシス達は一名……じゃないけど三名で解決した」
「つまりウィーグン家は10000ルルを用意したが、イシス達には一人頭の最低金額しか支払われず、貴様は女の事で頭が茹だっていたという事だな?」
「まあ、ハッキリ言われたらそうね。ちなみにディネーはゼンス王国の<死霊術士>であり、捕縛した後でウチに連れ帰って皆で可愛がってあげたのよ。もちろんメフィアも可愛がってたわ。だってイイ声で啼くんだもの」
「………」
ギルド長が頭を左右に振って溜息を吐いているな。
ディネーというのが女<死霊術士>だという事は分かったが、メフィアというのは誰だ?
急に聞いた事が無い名前が出てきたぞ。
「ああ、メフィアの事が分からないのね。メフィアはこの国の第一王女殿下で、ここに居るギルド長の姉よ。ちなみにウチの甥であり、次の当主に決まっているカルロンの結婚相手ね」
「は? なんだと!?」
「はいはい。お姉様大好きの貴方ならそうなるんでしょうけど、前から陛下と正妃様からは許諾があったのよ。ついでにメフィアもウチのカルロンならいいって言ってるしね。本人がいいって言ってるんだから問題無いでしょうよ」
「しかし……!」
「そこはどうでもいいんだが、あの領都のギルド長はそのままか?」
「ああ、ウチの母さんならギルド長を辞めさせられたわよ。言っては悪いんだけど、ウチの中では庇う者も居ないのよね。正直に言って邪魔だったから。ギルド長を領主の妻が続けていたのも、単なる母さんの拘りであり伝統と言い張ってただけだもの」
「そういえば、そんな事を聞いたような気がするな。しかし、家の誰からも疎まれてたのかよ」
「ウチが10位貴族家なのも半分以上がその所為だったし、母さんは知らなかったけど、その所為でカルロンの結婚は先延ばしになってたのよ。流石に孫の結婚を邪魔するのはねえ……」
「そりゃ駄目だな。しかも次期当主であり、結婚相手は王族だろう? それを邪魔してるってシャレにならないぞ」
「いや、やっぱり私は認めん。そもそも姉上はモルドンの1位貴族に酷い目に遭わされたのだ。男嫌いになってしまった事もあるし、そんな姉上を男の下になど……!」
「残念。そもそもメフィアは既に回復してるし、自ら閨にカルロンを招いたわよ。既に結婚が決まってるんだから何の問題も無いしね。一応なにかあった時の為に私達が部屋の外で待機していたけど、普通に甥に抱かれて悦んでたわよ?」
「………」
「それは良かったと思うが、あけっぴろげ過ぎないか? ここは天下の公道、王城へ行く道の上だぞ」
「それは申し訳ないけど、メフィアからも言われてるのよ。「私はここで幸せを謳歌するから、あの姉好きの子に止めを刺しておいて」って」
「第一王女の頼みかよ、そりゃ言わざるを得んな。誰かさんは虚無になってるが……」
「………」
「まあ、子供の頃から好きだった人に「止めを」と言われたんだもの。ある意味で本望じゃない? そろそろ現実を見た方が良いし、そんなに綺麗な世の中じゃないわよ」
「綺麗……? もしかしてモルドンで酷い目に遭ったっていうのは、まさか……」
「それ以上は口にしないようにね。上の方がお決めになった事だから。ただしメフィアはその役目を受け入れたし、そもそもあの子って昔から男女両方いける口なのよ。だから私の所為じゃないのよね」
「………」
「ついに黄昏モードに突入したぞ? 自分だけが知らされずに踊ってたっていうのは厳しいが、しっかりしてもらわなきゃ困るんだがな。<死霊術士>を運んでいるっていう自覚あるのか?」
「………」
「これは重傷ねえ。止めを刺すのは後の方が良かったかしら?」
「そりゃそうだ。憧れのお姉さんが腹黒だと知ったら色々と心にダメージを負うと思うぞ? ただし相手は王女殿下なんだから、政治的な闘争や閨の戦いなんかは当たり前だと思うが」
「そうよねえ? 王族が綺麗な筈なんてないんだし、汚いに決まってるでしょうに。そうじゃないと国なんて守れないわよ。王女だけは綺麗だなんて思ってたのかもしれないけど、それは甘すぎるでしょ」
「………」
「誰かいい女性を紹介した方が良くないか?」
「いや、陛下が相手を決めてるのよ。1位貴族家の大倹約家であるテーウェラ嬢にね。にも関わらず倹約家なのが気に入らないみたいよ? 相手は絶世の美女、または傾国の美女とも言われてるのにね」
「倹約家なら真面目だし良いんじゃないか? 代わりに夜の事を増やしてもらえばいいと思うぞ? お金掛からないし」
「そうね。あの絶世の美女に甘えれば良いじゃない。代わりが倹約だと思えば悪くはないでしょうに」
「………そうだな。姉上の事は忘れるか」
ちょっと立ち直ったみたいだが、この第三王子なぁ……。
なんとなくだが、不遇ポジションか?




