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0141・ブラッディウルフ




 Side:ハトホル



 イシスが下っ端の弱いのを殴りつけた後、私達は森の中へと入って行きます。

 狼系の魔物はとても厄介なのですが、私も【魔術】が使えるようになったので、そこまで苦戦せずに勝てるでしょう。


 幾つかの固定された使い方を学びましたし、それなりに扱えるようになりました。

 とはいえアンデッドに対する使い方だけは実戦できなかったので、本当に使えるかどうかは分かりません。


 実戦相手として居る訳ではありませんので、私が実際に戦う事は出来ていないのです。

 とはいえ実戦経験があるという事はアンデッドが出たという事ですので、それはそれで何とも言えませんね。


 出来得る限りアンデッドなどというものとは戦いたくありませんし、出会いたくもないのが正直な気持ちです。

 それはそうと、イシスが途中で止まりましたが何かあったのでしょうか?



 『皆、止まってくれ。……ヌン、気付いてるよな? これアンデッドの反応っていうか、瘴気の反応だろ? ヌンの予想通りじゃないか』


 『ええ、私もここまで予想通りだとは思いませんでしたよ。となると、またゼンス王国の<死霊術士>が暗躍していそうですね。何処に居るのかは知りませんが、ここでアンデッドを使い、何かをしようとしているのでしょう』


 『って事は、ヌンが言っていた本命ってここ?』


 『それは分からないのではありませんか? ここも本命ではなく陽動の可能性もあると思いますよ。被害を与えられれば、陽動としても攻撃としても価値はあるでしょうし』


 『ですね。そうなると陽動も本命も関係なくやっている可能性はあります。もしかしたらアンデッドを色々なところでけしかけて、開拓者の流出を狙っているのかもしれません』


 『戦争の時に開拓者が戦力になるからか。それを阻止する意味で開拓者を散らしたい、またはゼンス王国に対して忌避感を持たせたい? 戦う相手って事は、自動でアンデッドと戦う事になる』


 『アンデッドと戦うのは嫌よねえ。あいつら【収納魔法】とかいうのでアンデッドの元である死体を持ってくるしさ。まったくもって碌な連中じゃないわよ』


 『死体を持ち運ぶって、色々な意味で最低ですね。確かに碌でもない連中ですし、そんな者達の動きを許してはいけません。それこそ鉄槌を下すべきです』


 『まあ、とりあえず瘴気の反応がある場所へと行くか。ハトホルは瘴気の反応がどういうものかを覚えてくれ。それがアンデッドの反応なんで、以後は分かるようになるだろう』


 『分かりました』



 確かに瘴気の反応というものが分かれば、相手がアンデッドなのかどうかが分かりますね。

 ヌンいわく、新鮮な死体だと生き物と見間違う事もあるそうなので、瘴気の反応が分かれば確実に分かるようになるでしょう。


 魔力の反応は分かる様になりましたが、瘴気の反応までは分かりません。

 なので今の内にしっかりと学びましょう。

 アンデッドが居なければ学べませんからね。


 再び歩きだしたイシスについていきつつ、私は様々な方向に薄く薄く魔力を飛ばして反応を調べます。

 すると、妙に濁ったような気持ちの悪い反応が感じられました。

 おそらくコレが瘴気の反応でしょう。気持ち悪いですし。


 それにイシスやバステトも、その反応に嫌そうな顔をしていますね。

 気持ちはよく分かりますし、きっと私も同じような表情をしているでしょう。


 瘴気の反応に対し、魔力反応も近くにあるようです。

 おそらく誰かが戦っているのでしょうね、戦闘音もしますし。



 「ぐっ、気をつけろ! 数が多いぞ!」


 「そんな事は分かってる! だが、簡単にどうこう出来る奴等じゃねえだろ!!」


 「こっちに合わせろ! お前らの得物じゃ遅すぎる!」


 「何だと!? お前らこそ牽制してろ! オレ達が一撃でぶっ潰してやる!!」


 「貴様ら仲違いしている場合か! どっちでもいいから、さっさと数を減らせ! でないと追い詰められるぞ!!」



 どうやら随分と慌てているようですね。

 しかしイシスは何もしようとしていません。

 何か理由があるのでしょうか?



 『あれ、介入してもいいと思うか? 介入すると鬱陶しい事を言ってくる場合もあって面倒くさいんだよなぁ。流石にそこら辺のチンピラじゃないから多分大丈夫だと思うんだが……』


 『おそらく大丈夫でしょう。それで文句を言ってきたら、他の敵は放置すればいいと思いますよ。ここに居る5頭どころではありませんからね。少なくとも数えて23頭は居ますし、もっと多いかもしれません』


 『そうね。こっちに文句を言ってきたら、後はあんた達に全部任せるって言って森を出ればいいのよ』


 『そうすると言われた方は慌てるでしょうね、相手はアンデッドですから。もし気付いていないのであれば、ついでに教えてあげれば如何いかがでしょう?』


 『そうだな。それでいこう』



 これからの動きが決まったようなので、イシスは早速声を掛けるようです。

 揉め事が起こる可能性は低いでしょうが、どうでしょうか?



 「おーい! 困ってるなら手を貸すがどうする? 介入すると必要なかったとか言われそうなんで、こっちは介入もせずに見てるんだが、介入していいなら手を貸すぞー」


 「おう、さっさと手を貸せ! 今は一つでも多くの手を借りてえ!!」


 「さっさと早くしろい! 居たなら手ぐらい貸せや!!」


 「すまんが、頼む! 我々だけでは止められん! こいつらは思っているよりも速いぞ!!」


 「じゃあ倒すからなー!」



 そう言うイシスの合図で、私も含めて一斉に浄化の力を篭めた魔力を相手にぶつけて瘴気を相殺します。

 瘴気というのはこうやって消す以外にあまり方法は無く、なかなか綺麗にするのが難しいとヌンは言っていました。


 【魔法】として制定されている惑星だと楽なのだそうですが、私達が使う【魔術】だと対消滅する形でしか消し辛いのだそうです。

 後は道具の力を借りるという方法もあるらしいのですが、あの<清浄のスカラベ>はちょっと……。


 イシスからフンコロガシの話を聞いたので、尚の事、持ちたくないのですよね。

 実際に効き目はあるそうなのですが。



 「おぉっ! こいつらの動きが止まったぞ! チャンスだ、ぶっ潰せ!!」


 「一気に叩き潰すぞ。今の内に殺しちまえ!!」


 「急に倒れただと!? いったいどういう事だ?」



 三つのチームそれぞれでリーダーの反応が違います。

 どれも間違いではないのでしょうが、いささかハッキリと出過ぎのような……。


 流れでイケイケの二人と、冷静に観察する一人。

 どちらが生き残りやすいかと言えば冷静な方ですけど、早く敵を倒して安全を確保するのはイケイケな二人でしょう。

 ただしこっちは考え無しで失敗しそうですけど。


 イシスが改めてゆっくりと近寄るので、私達もゆっくりと移動します。

 あまり素早く近付くと敵だと思われますからね、ゆっくり歩くくらいで良いのでしょう。



 「ご苦労さんだが、必死に敵を潰してもあんまり意味無いぞ? 分かってなさそうだから、一応忠告しておくが」


 「はぁ? お前は何を言ってるんだ? 敵なんだから倒さなきゃいけねえに決まってるだろうが!!」


 「そうだ! 敵は倒すのが当たり前だろうが!!」


 「あんたら実は仲良いだろ?」


 「ふふっ」


 「「………」」


 「それはともかくとしてだ、その狼。多分<ブラッディウルフ>っていう魔物なんだろうが、それアンデッドだぞ」


 「「「「「「アンデッド!?」」」」」」



 やっぱり気付いてなかったみたいですね。

 それでは幾ら頑張っても勝てないでしょう。

 イシスやバステトが言うには、怪我などの恐れも無く突っ込んで来るそうですから、牽制が効かないんだそうです。


 普通の生き物なら傷付くのを恐がるのですが、アンデッドは既に死んでいるので恐がらないそうで、押し込まれると傷を受ける可能性が高いと言っていました。


 そして仮に勝ったとしても、その傷が元で死ぬ可能性があると。

 そう考えるとアンデッドって、本当に恐ろしいですね。


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