0133・ハルマーの町から西へ
Side:イシス
金額はともかく依頼料を受け取った俺達は、さっさと開拓者ギルドを出た。
入り口前でそわそわしたウェロヌと別れた俺達は、そのまま町の入り口へと向かい、登録証を見せたら外へと出る。
そして西へと歩きつつ、出来る限りハルマーの町から遠ざかるのだった。
「それにしても、やっとあの町を脱出できたぞ。開拓者ギルドのギルド長が何を言ってくるか分からなかったからな。このまま出来る限り早く離れるべきだ。余計な事に関わる気も無いし、いちいち面倒な事を押し付けられても困る」
『ギルド長であっても貴族は貴族。根本的な部分で、開拓者ギルドの者ではありませんでしたね。普通は開拓者の利益を考えなければいけない筈ですが、自家の利益を優先させていましたし、その結果の強制依頼でしたから』
『本当にね。開拓者って連中の為なら、アンデッドと戦うなんて事を無理にやらせるべきじゃないでしょ。にも関わらずやらせるんだものねえ、完全に貴族側じゃない。あれじゃ開拓者ギルドを乗っ取って私物化してるでしょ、完全に』
「だよなー。ウェロヌはそう言われてしまうと言っていたが、そもそも現在の時点で既にその状態じゃないか。「私物化と言われる」んじゃなく「私物化しているのがバレる」が正しいだろうに」
『まあ、もう離れていますから大丈夫でしょう。これから取り調べなんかが始まるでしょうし、私達に関わっている暇なんてありません。その間に西に進んでしまえば、私達に何かするなんて無理でしょう』
「貴族ってのは領地を治めてる。逆に言えば自分の領地以外の場所には手も口も出せないからな。被害を被っているなら別だが、開拓者という好きに移動出来る連中を寄越せなんて言うのは無理だろう。まして10位貴族だ。笑われるだけで終わる」
『という事は、私達は他の領地に逃げてしまえば良いって事ね。とはいえ目指しているのはダンジョンでしょ? 私はどんな所かよく分からないけど、魔物が幾らでも出てくるって面白いと思うわ』
『ダンジョンという機構は、基本的に神が作製と運営を行うものです。稀に下界の者に運営を任せたりしますが、概ね神が自らやっていますね。星によっては迷宮神を作り出し、専属でやらせている星もありますよ』
「下界の者っていうか、生きている者達からすれば、おそらくはライフラインの一種だろ。幾らでも魔物が出てくるって事は、幾らでも稼げるって事でもある。そして同時に食べ物が無限に手に入るって事でもあるからな」
『ええ。イシスが言う通り、完全にライフラインの一種です。獲りすぎれば滅ぶ筈が、未来永劫、絶対に滅ぶ事はありません。むしろ星に生きる生き物の方が先に滅ぶでしょう。それぐらいダンジョンとは長く在るものです』
『好きなだけ獲ってもいいって豪快よねえ。何か理由があってダンジョンっていうのが作られてるんでしょうけど、そこは大丈夫なの?』
『基本的にダンジョンが作られる星というのは、鉱物資源を始めとしたものの埋蔵量が少ないのです。その代替的なものとしてダンジョンがあるのですが、この星の何がどこまで少ないのかは分かりません』
「鉱物っていうだけじゃないんじゃないか? 石炭とか石油とか、そういう物が少なければ代替としてダンジョンが作られるんだろう。それなら俺の元の星にダンジョンが無かったのも分かる」
『それだけ資源が豊富にあったんでしょうね。逆を言えば、この星にはそこまでの資源が無いという事です。それが金属なのか宝石なのか、それとも燃料系なのかは知りませんが』
「北のモルドン王国とやらは鉱山を複数持っているという話だったが、それでも多くないみたいだな。ここの領地も新しい鉱脈が見つかったと言っているが……」
『おそらく埋蔵量はそこまで多くないのでしょう。それでも数百年分はあるかもしれませんが……。まあ、それも掘る量によって変わります。大量に掘れるなら早く尽きるでしょうし、掘るのがゆっくりなら長く使えるでしょう』
『そんなに長く使えるかしらね? 難しいような気もするけど……』
「まあ、俺もそう思う。とはいえ鉱山はいずれ掘り尽くされる。それなら農業を推進する方が良いと思うがな? 農作物は尽きる事は無いんだし。ただし天候などで収穫量は大きく変わるが」
『そこは仕方ないでしょうが、それでも持続して続けられるだけマシでしょうね。先程もイシスが言いましたが、枯渇したら終わりは厳しいと思いますよ。幾らある間は有利と言っても、無くなれば優位性も失われます』
「その後が大変そうだな。偉そうにしていたのが一変、今度は頭を下げて頼み込まないといけない事態に陥る。まあ、作物だけなら別の国から買えばいいとは思うが……それが出来たら、この国から大量に買ったりしないか」
『ですね』
そんな雑談をしつつも西へと歩き、昼を越えて夕方になったので一旦止まる。
そこで<時空の狭間>に戻り、今度は<生物修復装置>に入れている牛の様子を見に行く。
すると、やはり俺が居ない間は止まっているからか、出てくる様子は全く無かった。
俺とバステトは栄養剤と食事を終わらせ、訓練場で練習を始める。
牛が起きてくれないといけないし、既に<肉体縮小化薬>は作製を終えている。
ヌンが言い出したら、何故かウィンドウに出現していたんだ。
本当にヌンは関わっていないのかと疑問に思えたが、ヌンが関係ないのなら、おそらく俺が知識として知ったからだろう。
それがキッカケで追加された可能性が高い。
訓練場で練習していると牛が起きたらしいので、俺達は<生物修復装置>の部屋へと移動する。
そこでは「モー、モー」と装置の中で牛が鳴いているので、素早く開けてやった。
『俺の名はイシス。お前さんが<アンゼル>の<死霊術士>と戦ってるのに介入して助けたんだが、覚えているか? 体を剣で刺されて死に掛けていたんだが』
「『モッ!?』」
『何だか私が初めて【念話】を受けた時に似ているわね。私の名前はバステトよ、今の貴女の場所からじゃ見えてないだろうけど』
『とりあえず起きたところで悪いんだが、これを飲んでくれ。もう一度寝る事になるが、今度は短い時間で済む』
『わ、分かりました……』
俺は深皿に入れた<肉体縮小化薬>と<魔力増強薬>を飲ませ、再び最適化する為に蓋を閉じた。
すると中の牛はすぐに眠り始めたので、俺達は再び訓練場に行く。
十分に訓練をし終わっても牛の最適化が終わらないので、俺達は体を綺麗にした後、寝室で仮眠をとる事にした。
…
……
………
「長く掛かりましたが、終わりましたよ。イシス、牛の最適化が終わりました。<肉体縮小化薬>と<魔力増強薬>を同時に飲ませたからかもしれませんが、思っているより時間が掛かった感じですね」
「そうか……今、起きる」
俺はベッドから体を起こして廊下に出る。
真っ直ぐ<生物修復装置>の部屋に移動して蓋を開けると、中から起きた牛を外に出そうとして止まった。
『そういえば<肉体縮小化薬>を飲ませたんだから、一旦小さくなってくれるか? おそらく何となくで使い方は分かる筈だ。最適化と知識の付与で、頭の中に出てくるだろう』
『………ああ、これですね。分かりました』
牛が光りながら「するする」と小さくなっていき、そして大きさは変わらなくなった。
これは錯覚で、中の空間が大きくなっていたので戻っただけだ。
つまり見えている大きさと本当の大きさが違っていたんだが、今は見た目通りの大きさとなる。
俺はその小さな牛を外に出し、改めて話を始めた。
「俺の名はイシス。ちゃんと耳で聞いても俺の言葉が分かる筈だ」
『はい、分かります』
「俺達は君が襲われているところを助けたが、君はこれからどうしたい? どうしても仲間達のところに戻りたいというならば戻すが……」
『仲間達のところ、ですか……。戻る気はありません。私は我が子を殺したあの者達が許せなかっただけですし、仲間達もあの雄も私を置いて逃げたのです。ですので、そんな者達の下になんて戻りたくありません』
「あー……子供を殺されていたのか。近くには遺体が無かったので分からなかった。すまん、ちゃんと見つけていれば良かったな」
『いえ、構いません。死んでしまった以上は食べられるだけですし、それを見なくて済んだのですから良かったのでしょう』
生々し過ぎるけど、それが自然界の掟か。厳しいな。




