0132・護送とギルドでの精算
Side:イシス
やっと町まで戻ってきたが、今はまだ町の外で待たされている。
理由はゼンス王国の連中を護衛する為の騎士や兵士の用意だ。
確実に命を保ったままウィーグン家へと連れて行かなきゃいけないし、そこで証言をしてもらわなきゃいけない。
町中にゼンス王国の工作員や暗殺者が居ないとは限らないので、慎重に慎重を重ねるぐらいで丁度良いのは間違い無いだろう。
実際、ゼンス王国の連中がその可能性を考えているくらいだしな。
おっと、騎士団長とやらと兵士長とやらが来たか?
「ウェロヌ様、お呼びとの事で参りましてございます」
「私は当主の妹だから、そこまでしなくてもいいけどね。それよりゼンス王国の者達を<死霊術士>ごと捕まえたのはいいけど、町中にこの者達の口封しを考えている者が居ないとも限らないの。兄さんの所まで確実に運んでくれる?」
「ハッ! かしこまりました!! 騎士と兵士を迅速に集めて参ります」
「お前達はここで警護せよ!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
兵士が何人か一緒に来ていたんだが、その人数では足りないので追加を連れてくる事にしたらしい。
まだ待たなきゃいけないみたいだが、こればっかりはどうしようもないな。
狙われる可能性は考えないといけないし。
俺達としても、口封じをされましたじゃ、あのギルド長が面倒な事を言ってくる可能性があるんだよなぁ。
そもそも俺達への依頼はアンデッドの掃討だけで、ゼンス王国の連中の護送は関係がない。
とはいえ、どう難癖をつけてくるか分からないからこそ、ここはキッチリとやってから、さっさと逃げるに限る。
俺達に瑕疵が何も無い以上は、こちらに文句も言えないし手も出せまい。
おっと必死になって走ってくる騎士っぽいのが見える……? ついでに服のも見えるから、あれが家令かねえ。
スーツというか燕尾服というか、家令っぽい服装じゃないんだな。
じゃあ家令っぽい服ってどんなのだ? って言われたら、俺も答えようが無いんだけどさ。
執事とかが着てそうな服じゃなく、派手じゃないけど落ち着いた服って感じ。
当たり前だけど庶民よりは金が掛かってるのは見て分かる。
襟元とか袖口がフリルでヒラヒラしてるし、貴族もそんな感じなんだっけ?
俺の頭の中に貴族の服装という知識が少ないから、そもそも碌に分からないんだけどな。
ウェロヌはラフな格好だし、あの婆さんも似たようなものだった。
シャツとズボンなんだけど、当然庶民よりは仕立てが良くて縫製もしっかりしている。
おそらくそもそもの布からして違うんだろうけどな。
とはいえ家令の服のようなフリルは付いてないんだけど、それは女性だからか?
継承権とか含めて女性の地位の方が低いから、ああいうフリルが付いた服は着れない?
女性の方がああいうのを好みそうだけど、その辺りはちょっと分からないな。
「家令のエーヴをジッと見てるけど、何かあるの?」
「いや、家令の服にはヒラヒラが付いてるのに、ウェロヌの服には付いてないなと。あれって貴族家でも男性しか付けられないのか?」
「違うわよ。私もフリル付きの服とか持ってるけど、ヒラヒラしたフリルが邪魔なのよね。いちいち肌に当たって鬱陶しいから、正式な場以外はいちいち着たりしないのよ。兄さんとエーヴは体面があるから着なきゃいけないんだけどね。私は逃げれば済むから」
「成る程、あれ鬱陶しいんだな」
「私はね。好む貴族家の女性は多いけど、魔法を使う身としては邪魔なのよ」
「ああ、そういう理由もあるわけか」
確かに【赤魔法】とか使って袖口が焼けたとなったら笑い者だな。
そういう意味では魔法を使うヤツはローブも駄目だ。燃えやすいし危険な可能性が高い。
まあ、火を使う【赤魔法】を使わなければ済むんだが。
そんな事を考えていたら話し合いが終わったのか、魔車の周囲を兵士が囲む形で進んで行く事になった。
先頭と後方には騎士が並んで護衛している。
非常に物々しい感じだが、ゼンス王国の破壊工作員を捕縛しているんだ。
貴重な証人を殺されでもしたら、ウィーグン家の名前は落ちるだろう。
それが理解できたら、この護衛は当たり前なのが分かる。
王や王宮の官僚に報告するにも、実際に証人から聞き出したとなれば大きく違うだろう。
場合によっては、こいつらを王都まで運ばなきゃいけない可能性もあるが、それは俺達には関係ない。
強制依頼にも出来ないしな。
ウェロヌから聞いたが、強制依頼に出来るのは<一般の民が著しい被害を受ける場合においてのみ>可能なんだそうだ。
今回の場合は鉱山にアンデッドが出た事がそれに当たる。
鉱夫を含めて鉱山街の者達の仕事が完全に止まったからな。
確かに著しい被害を受けたと捉えられなくもない。
ただし<著しく不公平な場合、あらゆる依頼を開拓者は拒否出来る>という決まりもあり、こちらは強制依頼や緊急依頼でも成立するそうだ。
そしてギルド長の依頼の仕方の場合、そのルールに抵触する可能性が高かったらしい。
だから俺達に説明しなかったんだと。
後でウェロヌに聞いて「カチン」ときたが、それはルールを知っていない俺も悪いからな。
とはいえ何人の開拓者がルールを正しく理解しているのか? っていう話でもある。
ギルドが都合よく開拓者を使う為に、意図的にルールを教えていないんじゃないかとも思うんだよな。
そういう時代っぽいし。
幾らルールが制定されていようが、知らなきゃルールは使えない。
ワザと知らせないようにするって、かつて居た国のマスメディアみたいだなと思うわ。
ここでもそうだが碌なもんじゃない。
それはともかくハルマーの町の一番大きな屋敷の前まで来た。
俺達としてはここから貴族家へと行かされても困るので、ウェロヌにしっかりと言っておかないといけないな。
「ウェロヌ。俺達の依頼は既に終わってるんだが、どこまで行く気だ? まず俺達の仕事が終わったと証言してもらわなきゃ困るんだが」
「あっ! 忘れてた、ごめん! 魔車を入れ終わったらすぐに行くわ。早めに終わらせておいた方が良いだろうし」
「そりゃな。なし崩しでここまで来たが、そもそも貴族と関わりになる気なんて無いんで、それまでに降りたかったんだが、護衛という意味では仕方ない部分もあった。とはいえ、これ以上は御免被る」
「でしょうね。母さんの所為でウィーグン家に対するイメージは相当に悪いでしょうし、とにかく魔車を止め終わったらすぐに行くわ」
「頼む」
そのままウィーグン家に入った魔車はすぐに止まり、そこから俺達は降りると、すぐにウィーグン家の敷地の外へと出た。
そして開拓者ギルドへと歩いていくのだが、妙にウェロヌがそわそわしている。
何か理由がありそうだが、関わりあいにならない方が良さそうなので口には出さないでおこう。
開拓者ギルドの扉を開けた俺達は、中へと入って受付の下へ。
そして依頼の木札を出して精算を頼む。
「この強制依頼は私、ウェロヌ・ウィーグンが終了を見届けたわ。依頼料を支払ってちょうだい」
「かしこまりました」
そう言って受付嬢は奥に行き、戻ってきた盆に依頼料が置かれていた。
金額は……銀貨1枚? つまり250ルルかよ。すっくな!
「アンデッドと戦わせておいて250ルルかよ。前に一日狩りをして3000ルルほど稼げたが、本当に強制依頼とか碌なもんじゃないな。請ける価値が無い」
「いや、一日で3000ルルも稼げる方がおかしいからね? あんた達なら余裕でしょうけど、一般的な開拓者はそうじゃないわよ」
「一般的な開拓者がどうかはどうでもいい。強制依頼でコレじゃ、請ける意味は無いってだけだ。他の奴等も同じだろ。アンデッド200が相手で250ルルだ。割に合わないって誰もが思うだろうさ」
周囲に居た開拓者連中も頷いてるので、俺の感覚がおかしいわけじゃない。
実際にこれじゃ、安すぎて話にならないだろうよ。




