0127・鉱山二日目
Side:イシス
俺達は宿の経営者に話を通し、ロープで縛った連中を見張っておいてほしい事を伝える。
この後に鉱夫達にも話を通して見張らせる為、少しの間だけだがこの宿の者達で頼むとも言っておいた。
10位貴族家とはいえ立派な貴族であり、その貴族が寝ている部屋を襲ってきた連中だ。
ここで逃がしたり死なせてしまうと下手をすれば物理的に首が飛ぶ。
その事を理解しているのか顔が真っ青だったな。
実際に俺達はこの宿に疑いを持っている。
これは当たり前で、そもそも論として部屋まで侵入者が来ているのだから、宿の落ち度はあまりに大きいのだ。
謝って済む問題ではない。
そのうえで昨日の事は言わずに「生かしたまま見張っていろ」は「逃がしたり死なせたら覚悟しておけよ?」という事だ。
当然のように宿側は理解しているし、自分達が助かる為には全力で見張るしかない。
そうしなければ二重の失態で確実に首が飛ぶという事だ。
この辺りが伝わらない可能性も考えていたが、伝わっているようで良かった。
まあ、伝わっていなければ、領内で領主一家が軽んじられているという証拠にしかならないが。
「流石にそれは無いわよ。腐っても10位貴族家であり、正しく貴族の家だもの。幾ら最下位の家とはいえ、貴族は貴族。舐められたら負けなのよ、だから容赦はしない」
「それが分かってるなら、舐められはしないだろうな」
貴族って言ったところで、所詮はプライドが生き物の形をしているようなものだ。
この辺りは俺が元いた星の祖国の歴史に登場する、武士という連中と何も変わらない。
あれらも結局は舐められたら負けだからな。
戦争ばかりして野蛮だというヤツは居るが、親分が舐められたら子分も含めて全て舐められるんだ。
そんな事を子分が許す筈も無く、そんな親分は暗殺される。
それは貴族であろうと変わりは無い。
形が変わろうが、親分というのは常に舐められたら負けなのだ。
だからこそ相手が舐めてこないように、戦争で実力を示す。
それが戦争していない間も効いてくるのだから、尚の事、舐められたら負けとなるのは当然だ。
そういえばこの国の貴族は10位とか1位とかなんだな?
公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵という括りじゃないらしい。
とはいえ、アレはあの星だからそうなっただけで、別に他の星でも同じとはならないか。普通は。
そもそも数字で表してくれた方が分かりやすいし、俺としてはこっちの制度の方がスッキリしていると思う。
<正一位>とか<従一位>とかあった国の者だからだろうか? 元だけど……。
酒場で17ルル、銅貨2枚を払って小銅貨3枚をお釣りでもらう。
注文を済ませたら、すぐに運ばれてきたので、おそらく混雑時はさっさと出せるようになってるんだろう。
それなりに周りにも客が居るしな。
俺達は素早く食事を終えて出ると、鉱山近くの建物に行き、昨日の鉱夫達に捕縛した連中の見張りを頼んだ。
「そんな奴等がですか! それならアッシらにお任せくだせえ。そんな不逞野郎は絶対に逃がしませんぜ! なぁ、お前ら!!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
仕事にならなくて暇をしている連中に任せ、俺達は鉱山の中へと再び入っていく。
昨日ある程度の処理をしているので減ってるだろうと思っていたのだが、何故かアンデッドが最初の部屋に居た。
「もしかして増えてるのか? ……だとしたら<死霊術士>が逃げていない可能性があるな。とはいえ、そこまでして鉱山を使えなくする理由が分からないが」
「ゼンス王国の破壊活動なのは間違いないけれど、その理由までは分からないわね。ゼンス王国は野心を隠さない国だけど、そもそもは貧しい国なのよ。我が国と違い農業は上手くいってないし、鉱山も多くない」
俺達は大部屋にいるアンデッドを浄化して回収しながら、昨日と同じく支道へと進む。
そして中のアンデッドを次々と浄化していきながら話す。
『この国はどうなのですか? 鉱山は? 農業は?』
「鉱山は我が国も多くないわ。代わりに我が国は農業が盛んで、他国に輸出するくらい豊かなのよ。オーディバリー川を始め、かなりの河川が我が国にはあるの。北の山脈から豊富に流れてくるから」
『じゃあ、北も豊か?』
「いえ、北のモルドン王国は山脈の北にあるんだけど、あそこは山脈からの水が少ないの。何故かは知らないけどね。まあ、モルドン王国は海を持ってるのと鉱山が多いのが強みかしら。ようするに塩と鉄ね」
「成る程、そりゃ強い国だ。ちょっかい掛けてきているゼンス王国っていうのは、むしろ弱い立場ってわけか」
「そんな事は無いわ。あそこの国は学術の国で、国を豊かにする為に多くの学者が日々研鑽を続けているのよ。ただ、その過程で【死霊術】を発見したらしいわ。詳しい事は知らないけどね」
「学術以外には?」
「森が多い国だから、魔物と魔石には事欠かないし、それらを活かした魔道具も盛んに作られてるわね。それ以外が貧しいからこそ、そこまで研究に傾倒したんでしょうけど」
「そういう事か……」
もう一つの支道が終わったので戻るが、ゼンス王国の過去は前の星の小国と変わらない感じか。
違うのは【死霊術】を手に入れてから、欲望を剥き出しにしたってところだ。
前の星の小国は恐怖で追い詰められた故の凶行だった部分はあったが、この星のゼンス王国は欲望で凶行に及んでいる。
そこが明確に違うところだろう。
恐怖でなく欲望で動いているって事は、少なくとも国民は狂奔していない?
「ゼンス王国っていう国の国民はどうなんだ? 【死霊術】を手に入れたから「行け行けどんどん」って感じか?」
「いえ、そういうのは聞かないわね。何と言っても死体を操るんんだもの、どうしても忌避感は持つでしょうよ。場合によっては自国の亡くなった者を道具にしてるんだもの、幾ら犯罪者の死体だといっても全員は納得しないでしょう」
「まあ、普通はそうだろうな」
ふーん、犯罪者の死体を利用ねえ……。
随分と甘っちょろいが、流石に国民がついてこないっていうのはマズいか。
国の上層部にも、その辺りの理性はありそうだな。
なら、そこまで酷い状態じゃない?
もしくはゼンス王国が酷くなる前の段階で、俺の派遣が決まったのかもしれないな。
まだ時間的な余裕はありそうだ。
ゼンス王国がなりふり構わなくなったら、本格的にヤバい兆候だろうな。
そもそも論として、向こうの方が有利なんだよ。
理由は好き勝手にテロを起こせるからだ。
自国内でいきなりテロをされたら、間違いなくやられた方は守勢に回らざるを得ない。
しかもヌンが言っていたように、自国民をアンデッドにされる恐れが常に付き纏う。
それは最悪であり、家族同士の殺し合いというものを生み出す。
まあ、仮にゼンス王国がそんな事をすれば、確実に他の国が連合を組んで攻め入るだろうけどな。
そして間違いなく蹂躙される。
そこまで理解しているからこそ大人しいんだろう。今の段階では。
流石にそのまま終わる事はあるまい。
その程度であれば、そもそも俺達がこの星に行かされるなんてあり得ないんだ。
<時空の旅人>をこの星に行かせたって事は、必ず何らかの目的がある。
それが何なのかは分からないが、それこそが俺のやらなきゃいけない事なんだろう。
何となくそんな気がする。
「さて、昨日までの部分は終わったわね。これで新しい鉱脈部分が昨日と変わってなかったら、間違いなくアンデッドが増えてるわよ」
『そこは分かりませんが、少なくとも昨日と同じぐらいの数が居るのは既に分かっています。なかなかに厄介な事をしてくれますね』
俺も瘴気を確認したが、間違いなく昨日と変わらないぐらい居るな。
という事は増やした可能性が高そうだ。




