0126・初日の終了
Side:イシス
アンデッドの死体を焼き終わった俺達は、町中に入って酒場へと向かう。
相変わらずネズミ肉しかないので注文し、17ルル、銅貨1枚と小銅貨7枚を支払った。
待っている間は適当な雑談を行うも、急にヌンから【念話】が来る。
『イシス。こちらをジッと見ている者が2名居ます。もしかしたらゼンス王国とやらの者かもしれません。場合によっては尾行されるかもしれませんが、無視して下さい』
『そりゃいいが……もしかして夜中に捕まえる気か? 気をつけてくれよ、そういう連中はどんな武器を持ってるか分からない。魔道具とかいうのであれば、小型で強力な物もあるかしれないしな』
『もちろんですよ。それに仕掛けてくるかは分かりません。こちらに仕掛けてきたら捕縛しますが、仕掛けてこないなら今は放置ですね。おそらく明日でしょうから、明日に回します』
『今日でどれだけのアンデッドが居なくなったか、それを連中は把握できていないとは思うが、問題は再び増やされる事かな? それ以外は特にどうこうも無いだろう』
「そういえば、イシスはエールを頼まないの?」
「別に酒を飲みたい訳でもないし、まだ明日も残っているからな。ここで派手に酔っ払っても意味は無い。明日の為にも今日はゆっくりするさ」
「そう? なら後はイシスに任せられるわね。ありがたい事だわ」
そう言いながらウェロムは美味しそうにエールを飲む。
上機嫌なのは声で分かるが、俺はそこまでこの星の酒を飲みたいとは思わないんでな。
正直に言って誘わないでもらいたい。
唯でさえこっちを見ている奴等が居るんだ。
隙だらけで襲って下さいという態度なのはどうかと思うぞ?
もちろん本人は理解していないんだろうがな。
食事後、結局は酔っ払ったウェロヌに肩を貸しながら連れて戻り、ウェロヌが昼間にとった部屋に戻ってきた。
まさかの三人部屋だったが、どうやらヌンもベッドで寝ると思ったようだ。
俺はウェロヌを部屋の奥のベッドに寝かせ、真ん中のベッドに熊の毛皮を敷き、一番入り口に近いベッドにヌンが腰掛けた。
これで誰かが入ってきても時間は稼げるだろう。
窓から突入してくるという事は無いだろうし、あんな小さい木製の窓じゃ、そもそも体を入れられない。
よって窓を蹴破られるとかいう危険性は考慮する必要が無くて助かる。
「ヌン、すまないが後は任せる。俺とバステトは寝るんで、もし何かあったら起こしてくれ」
『分かりました。ゆっくりと休んで下さい』
「ああ。それじゃ、宜しく」
そう言って俺は熊の毛皮の上に寝転がり目を閉じる。
それなりに疲れていたんだろう、すぐに意識を手放した。
…
……
………
俺は体を揺さぶられる感覚に目を覚ます。
いったい何かと思ったら、ヌンが【念話】で話し掛けてきた。
『イシス、起きて下さい。侵入者を捕らえました。起きて下さい、イシス。侵入者を捕らえました』
「ん……しんにゅうしゃ?」
しんにゅうしゃ………って、侵入者!!
俺はガバッと起き上がると、魔力が繋がれている方向を向く。
そちらにヌンが居る筈だからだ。
そして繋がれている魔力でヌンに【念話】を返す。
『ヌン。侵入者と言っていたが、もしかして酒場でこちらを見ていたという奴等か?』
『はい、そうです。何故か部屋に侵入しようとしたので、脳に衝撃を与えて失神させました。手加減できないと危険なので、イシスには少々早いですよ?』
『誰も教えてくれとは言ってないし、それ脳に直接衝撃を与えてないか? 恐すぎるんで使いたくないぞ、そんな危険な【魔術】。脳なんて柔らかいものなんだから、ちょっとした力加減で潰れるだろ』
『そうですね。まあ、実際には外から衝撃を与える方法を普通は使うので、そこまでの危険性は無いのですがね。私は面倒なので脳に直接衝撃を与えました。その方が早いので』
『まあ、ヌンが言うならそうなんだろうさ。それで侵入者は?』
『部屋の中に転がしてあります。それでなんですが、ロープか何かが欲しいのですよ。縛っておく為に』
『<時空の狭間>に戻って<物品作製装置>で作ってこいって事ね。結束バンドとかの方が手っ取り早い気がするが、この星に無い物を持ち込んでも仕方ないな』
俺はヌンに頼まれた通り<時空の狭間>に戻り、ロープを<物品作製装置>で作ると宿の部屋に戻った。
ヌンにロープを渡すとすぐに縛り上げてしまい、そのまま部屋の入り口に転がして放置。
俺もロープを作るという作業が終わったので、再び目を瞑って寝る。
起こされた割には、すんなりと寝る事が出来た。
…
……
………
翌朝。再びヌンに起こされると、俺は眠った後がどうだったか聞く。
「ヌン。あの後で何かが侵入しようとしたとか、外で何かが見張っているなどという事はあるか? 捕まえた奴らで全員だとは限ってないから聞くんだが……」
『おそらくは居ないでしょうね。こちらを監視している者が居るならば動きは少ない筈ですが、そんな者が外に居る事も無かったですし』
「とはいえ、俺達と同じように調べられるなら、何処かで監視している可能性はあるがな。場合によっては宿の中に居るかもしれん。この宿じゃなくても、鉱山街には宿が多い」
『ええ。ですので可能性はゼロではありませんが、この者達が帰ってこないという状況の割には動きがありませんので、そこまで可能性は高くないとは思います』
「まあな。しかし……こいつらが<ネクロマンサー>には見えないんだがなぁ? もちろん勝手に決め付ける訳にはいかないんだが」
『正直に言って可能性は低いかと。この者達の所持品を探りましたが、怪しい物は持っていません。となるとアンデッドを作りだしたのは別の者でしょう』
「その<ネクロマンサー>が鉱山街から逃げ出していれば捕まえるのは無理だな。まだ居るなら可能性はあるが、代わりにアンデッドを使ったテロを起こされかねない」
『はい。その可能性を考えていましたが、【収納魔法】があるので死体を運ぶのは容易だと思い出しましてね。そうなると、いつ【死霊術】を使ってくるかが分かりません』
「しまった、そこの視点が抜け落ちていた。確かに言われてみればその通りだ。<ネクロマンサー>が【収納魔法】で死体を運んでいれば、鉱山街の近くで死体を集める必要は無いわけか」
「どういう事? いったい何を話しているの?」
俺とヌンが話し合っていると、ウェロヌが起き上がって俺達に聞いてきた。
なので、昨日の夜の事から順に話していく。
「つまり、眠る必要の無いヌンが侵入者を捕らえたんだけど、どうもこの二人はアンデッドを生み出す<死霊術士>じゃないと?」
『ええ。この者達は侵入しようとしてきました。<死霊術士>、つまりアンデッドを作る者がわざわざ侵入するなどあり得ません。それなら該当の部屋にアンデッドを放つでしょう。しかしこの者達は侵入してきた』
「つまり、こいつらは<死霊術士>の部下か下っ端であり、決してアンデッドを撒き散らした<死霊術士>ではないってわけか」
「そうだな。ヌンが言う通り<死霊術士>だとすると、お粗末に過ぎる。アンデッドにする死体がもう無いと仮定しても、わざわざ侵入する時点であり得ない。それをするくらいなら、鉱山街の外でネズミの死体を得てくるだろう」
「確かに色んな事を考えてもあり得ないわね。となると<死霊術士>はまだ町中に居るか、それとも既に逃げた?」
「可能性としては逃げた方が高いとは思う。ゼンス王国とやらも大量に<死霊術士>を抱えている訳じゃないだろうしな。それに術士が荒事に向いているとは思えん」
「アンデッドを放ったら、捕まる前にさっさと居なくなるってわけね。厄介な事をしてくれるじゃないの。こいつらから、どれだけの情報が得られるかしら?」
『分かりませんが、ある程度は食べさせて生かしておく必要がありますね。食べ物を食べさせたら、エールでも飲ませて無理矢理に寝かせてしまえば良いでしょう。起きていても邪魔なだけです』
「鉱夫達に見張っていてもらうか」
流石に鉱夫達も逃がさないように見張ってくれるだろう。
アンデッドを放った奴の仲間なんだし。




