0119・町の動き
Side:???
もし北のモルドン王国が今回の事に絡んでいないのであれば、我が領地に攻撃してきたのは何処の国だ?
我が国が新たな鉱脈を得て困る国………そんな国がモルドン以外にあるかと考えれば、無い。
それはハッキリと断言できる事だ。
何故なら我が国はモルドンからの鉱物資源で賄っておるからであり、他の国から鉱物資源を輸入してはおらぬ。
……つまり鉱物関係では無い?
駄目だな。
私がここで考え答えが出たとしても、現状が変わるわけでもない。
大事な事は鉱山を襲ってきた魔物をどうにかする事であり、ここで何処の国の仕業かを考える事では無い。
「これ以上は考えるのを止めよ。まずは鉱山の問題を解決する方が先だ。それに何処の誰の所為だと考えたところで意味は無い。果たしてそれが本当かは分からんのだ」
「はい。鉱山に関しては弟が兵を率いて行きましたので、そう時も掛からずに解決するかと思いますが……。その後に採掘を始められるまで、どれほど掛かるかは分かりません」
「やはりそうか。魔物を倒せたとはいえ、再び鉱山が使えるようになるまでには時が掛かろう。それまで採掘が止まったままだとすると、色々なところから文句が出てきそうだな」
「我が国は鉱山が少ないですから、採掘がどれだけ大変で重労働かが分かっていない者が多すぎます。突き上げはあるでしょうが、復旧するまで無理だと言い張るしかありませんね。実際それが事実ですので」
「うむ。中央の連中はうるさかろうが、こういう時は辺境なのがありがたいな。ここまで文句は届かん。我が領地は生存圏の端なのだ、散々に田舎者扱いしてくれた事は忘れておらぬぞ」
「こういう時こそ〝田舎〟という言葉を上手く使いましょう。田舎だから返信が遅れる、田舎だから時間が掛かる。こちらから言ってやるくらいで構わないでしょう。未だに我が家は10位貴族です」
「鉱山を掘り進め、生存圏の端で魔物と戦い続けておる。その魔物の素材も売っており、使っている者も多いというのにな。未だに貴族において最下級の10位貴族だ。陛下はともかく、他の連中など知った事ではない」
「とりあえず今後の事を考えましょう。私が言い出した事ですが、腹が立って仕方ありませんので。それで父上、弟や兵士達が勝った後の事ですが……」
…
……
………
長男であるカルロンと今後について話し合っておると、ドタドタと走る音が聞こえてくる。
いったい何処の誰が左様な音を出しておるのかと思ったら、執事が慌てて入ってきた。
「旦那様、大変でございます! 御次男マルロン様が負傷なされ撤退を余儀なくされたとの事!」
「何だと!? あのマルロンが魔物に負けたというのか! そんなバカな事があるか!?」
「まだ第一報ですので詳細は分かりませぬが、家令様が現在情報を纏めておられる最中でございます! マルロン様負傷は間違いが無いと!」
「いったい何があったのだ。マルロンが魔物に負けて負傷などというのは考え難い。この辺りにマルロンに勝てるような魔物は居ない筈だ。という事は……」
「何処かから強力な魔物が流入したか、それとも大量の魔物に襲われたか、それとも……」
「強力な魔物が来た可能性は限りなく低いかと。そのような魔物が居れば東からでしょうが、来る前に開拓地や村などから被害の報告があります。それは一切ありませんので、可能性は極めて低いかと」
「大量の魔物を嗾けるのは古くからある方法だ。<誘引香>を使えば魔物を集める事は出来る。ただ、あれはどんな魔物でも集められるわけでは無いし、高い確率で寄ってきた魔物同士で殺し合いを始める」
「騒動を起こすには構いませんが、魔物の仲違いというか殺し合いを止める事はできません。そんな物がもし新たに作られたのならば、我が家の領地ではなく、もっと効果的な領地を狙うでしょう」
「うむ。仮に新開発に成功したのなら、大々的に知らしめるであろう。間違いなく田舎になど使わぬ。もっと派手な被害を与えられる所で使い喧伝する筈だ。と考えると、コレも無いか、もしくは可能性は極めて低い」
その時ドアがノックされ、許可を出すと家令のエーヴが入ってきた。
何かあったか?
「失礼いたします。旦那様、情報の多くがまだ届いておりませぬが、大凡で判断できる情報は揃いました。今回の事、相当に長引くかもしれません」
「どういう事だ?」
「はい。走って知らせてきた兵士の証言に「腐った臭いがした」というものがありました。順次戻ってくれば全てが明らかとなるでしょうが、この兵士の証言から察するに……」
「「アンデッド……」」
「はい。その可能性が高いと私も考えます。おそらくはゼンス王国の手の者かと……」
「しかし、ゼンス王国だとして何故ここなのだ? 奴等がアンデッドを嗾ける国だというのは知っておる。しかし我が領地は東の最果てだぞ? ここにアンデッドを嗾ける理由が無い」
「そこまでは分かりませぬ。我が国と戦争をする際に、鉄を供給できる鉱山が邪魔であるとか。ここで事を起こしておる隙に、本命の場所を襲うという事も考えられます」
「鉄の供給の邪魔というのは分からぬではないが、他に本命があって目を逸らさせる為にやっておるというのは………。少々どころではないくらいに腹立たしいな。無い訳では無いのが余計にだが」
「どのみち弟が負傷したのであれば、開拓者ギルドに頼んで魔法を使える者を出してもらうしかありません。領軍の魔法使いも使いますが、それだけでは足りませぬし」
「そうだな。アンデッドは魔法が使えなければ簡単には倒せん。攻撃だと大きなハンマーで叩き潰すしか方法が無いと聞くし、これは時間が掛かるぞ。そもそも鉱山内に入られていたら最悪だ」
「本当に安全か否かは、鉱山内をくまなく調べなければ判明いたしません。もし安全だと言ってからアンデッドが出てきたら……」
「鉱山で暴動が起きるかもしれんぞ。色々な意味で厄介な事をしてくれるわ、まったく! ゼンス王国は野心を隠さぬ国だ。あんな国が【死霊術】などという碌でもない邪法を持っておるのだから、始末に負えん」
「父上、今は文句を言っている場合ではありません。弟が負傷した以上は、領軍と開拓者の魔法使いの手配を。これは領主の名で行わねばなりません」
「そうだな、強制となるが仕方あるまい。開拓者には褒美を多く渡す代わりに、キッチリとした仕事を頼まねばならん。エーヴ、その事を開拓者ギルドの母上にしっかりと伝えておいてくれ。鉱山から全てのアンデッドを排除してほしいと」
「かしこまりました。それでは私は開拓者ギルドに行ってまいります」
「うむ。頼んだぞ」
エーヴが部屋を出て行くのを見つつ、私はカルロンとの話を続ける。
すると、ドアをノックして誰かが入ってきた。私の許可も聞かずにだ。
そんな事をするのはアイツしかいない。
「兄さん、鉱山でアンデッドが出たんだって? 屋敷の者には黙っておくように言っておいたけど、余計なお世話だった?」
「………はぁ、分かっている事をいちいち言うな。が、感謝はしておく。それよりも、いったい何をしに来たのだ? まさかとは思うが……」
「当然、私も鉱山に行くからよ? 新しい魔法理論を試したいからね。茶と白の魔法以外にもアンデッドに効きやすい魔法があるかもしれないし」
「お前は10位貴族家とはいえ、貴族の家の者なのだぞ。その辺りをいい加減に理解せんか。貴族家の者が亡くなったとなれば、どれほどに面倒な事になると思っておる」
「それで甥っ子が怪我をした訳だけど? 死ぬなら年長者からに決まってるでしょうに。それとも子供達を先に死なせろとでも?」
「分かった、分かった。ただし領軍の魔法使いとは別だからな。指揮系統が混乱するだけだ」
「ええ、その方が助かるわ」
まったく。
カルロンが呆れた顔で見ているのが分からんのか。
いや、分かっていても変わらんか。




