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0111・ギルド長からの依頼




 Side:イシス



 「お前さん、おそらくだけど金を受け取ったら、さっさと村を出て行くんだろう? いや、言わなくても分かるさ。こいつらの家族が何をしてくるか分からないんだ、距離をとるのが一番安全だからねえ」


 「そこまで分かってるなら聞く必要は無いと思うが?」


 「いや、そうじゃない。ここから西に村を二つ越えると、そこにハルマーという名前の町がある。そこにある開拓者ギルドに手紙を届けてほしいのさ。それを仕事として依頼する。それなら問題なく村から離れられるだろう?」


 「別に無くても普通に離れればいいと思うが、確かに理由があった方が便利ではある。けど、何でだ?」


 「今ハルマーの町にはオムテス王国から色々な物が集まってる。だからこそ馬車の護衛依頼なんかも多い。中にはお前さんが稼げる依頼もあるかもしれないだろ? 色々と迷惑を掛けたからねえ、それはお詫びさ」


 「………分かった、明日の朝だな。その時に売り上げも渡して貰えるとありがたいんだが?」


 「それも言っておくよ。どのみち今日はこれからギルド内の帳簿も引っ繰り返さないといけない。このバカがどれだけ抜いたかを明るみに出さなきゃいけないからねえ。当然、それは親であるお前に支払ってもらうよ?」


 「………」



 愕然とした顔をしているんだろうな、というのは何となく分かるのだが、顔がグレイなのでイマイチ締まらないな。

 まあ、面倒臭いのでそろそろ俺は部屋から出させてもらおう。


 一言断りを入れて執務室を出た俺達は、さっさと宿に行って部屋を確保する。

 大銅貨2枚を支払ったので、ちょうど大銅貨が無くなってしまった。

 今日の売り上げを得られなかったのが痛いな。


 その後はさっさと酒場に行き、23ルル支払って昨日と同じ物を注文。

 残金は292ルルしかない。

 それなりに稼がないと宿代だけで生活が圧迫されるな。


 とはいえゲームじゃなく現実だと考えればこんなものかとも思う。

 だいたい宿が一泊5ゴールドとかおかしいだろうと、一度の戦闘で宿代が確保できるってのも、よくよく考えればおかし過ぎる。


 もちろんゲームだからなんだけど、普通のホテル代を考えればそんなに安くはないわな。流石にあり得ない。

 幾ら碌な寝具じゃないって言っても、流石に値段はそれなりにするのが普通だ。


 適当に運ばれてきた料理を食べ、終わったら宿へと戻る。

 エールは今日も飲まなかったが、特に飲みたいとも思わない。

 健康云々ではなく、この時代のアルコールってそもそも美味しくなさそうなんだよ。


 ビールじゃなくてエールなのは気にしないんだけど、流石にこんな古い時代っぽい世界だとなぁ。

 伝説の酸っぱいエールを飲まされそうで嫌だ。


 宿の部屋に戻ったら鍵を掛け、<時空の狭間>に戻って体を綺麗にする。


 そういえば最近、体を綺麗にするかトイレに行く為にしか戻ってないな?

 それでいいのだろうか?



 「<時空の旅人>が<時空の狭間>をどう使うかは、本人の自由ですし構わないのでは? <時空の旅人>の中には、性行為をする為だけに使っていた者も居るぐらいです」


 「それって余す事無くヌンに見られてるよな?」


 「私はそもそも知性体ですから、何とも思いませんしね。すぐに気にしなくなった者が殆どですよ。貴方がたが虫の交尾を見て何か思いますか?」


 「ああ、うん。そういう事ね。俺は別にしないけども、前任者とかはサキュバスの嫁が居たんだっけ? ならそういう事もあったんだろうな。俺には無いけど……」


 「まあ、イシスにもそういう相手が現れるのでは?」


 「だったらいいけどな」



 そんな事を言いつつ<作物収穫室>で種を撒き、全てを終わらせたら宿へと戻る。

 後はヌンに夜の警戒を任せて、俺とバステトはベッドの上に敷いた熊の毛皮に寝転ぶ。


 そして目を瞑ると、さっさと寝るのだった。


 …

 ……

 ………


 次の日の朝。

 鍵を返して宿を出た俺達は、酒場に行って17ルルを支払い食事を注文。

 運ばれてきたら食事をし、終えたら開拓者ギルドへ。


 受付へと進んで話すと、昨日の売り上げを記した木札が見つかったらしく、その売り上げが支払われた。


 グリーンウルフが一頭140ルルで14頭。

 グリーンスパイダーが一匹80ルルで4匹。

 グリーンボーアが一頭200ルルで2頭。

 ブラウンマンティスが一匹で350ルル。


 カマキリだけが異様に高いが、これは鎌の需要に対して獲れる数が少ないかららしい。

 ヌンが言っていたように、鎌は武器にすると結構な切れ味の刃物になるようだ。

 武器だと高いんだなぁ。


 全部で3030ルル。

 つまり昨日の売り上げだけで魔法を教えてもらえる金額は稼げた訳だ。

 もちろんアイテムバッグを持ってるから出来る事なんだけど、あの三人組は何で金が稼げなかったんだ?


 狼二頭を持って帰る、それを繰り返すだけでも金は少しずつ貯まるだろうに。

 更に言えば荷車でも牽いて行けば結構積めると思うがな?

 農業で使ってるヤツがあるんだから、それを借りればいいんだし。


 色々考えてみても、あいつら実力が無いんだろうな。

 だから薬草集めしか出来なかったんで、ぜんぜん金が貯まらなかった、と。


 ま、同情なんてしないし、こっちの命を狙ってきた奴等だからな。

 どうでもいいか、末路にも興味は無いし。


 村には小といっても金貨なんて無く、銀貨8枚に小銀貨10枚、そして銅貨3枚で支払われた。

 銀貨は小銀貨の2倍ぐらい大きく、更に厚みもあるので250ルルなのは分かる硬貨だ。


 重さで納得するのもどうかと思うが、金貨などは本当に5倍もの差があるのかはなはだ疑問ではある。

 あそこまでの硬貨になると、もはや価値だけで決まってるんじゃないかと思ってしまう。


 適当な思考を消し、ギルド長の執務室へとノックしてから入ると、中には疲れてそうなグレイが6人ぐらい居た。

 ギルド長は自分の机で執務を行っている。



 「おっと、来たかい。そこの連中は昨日から一睡もせずに頑張ってくれているんだよ。早めに終わらせないと、領主が介入してくる可能性が否定できないんでね。開拓した土地は開拓した者達のものだ。だから貴族は介入するのをずっと狙ってるんだよ、自分達の土地にする為に」


 「不手際があったら、現地の者には任せられないとでも言ってくる訳か。開拓の苦労を横取りされるんじゃ、そりゃ腹も立つわな。そのうえ身内とも言えるヤツの犯罪の所為だし、よく激昂しないもんだよ。俺なら八つ裂きにして魔物のエサにするね」


 「いや、実際にそうしたいくらいの怒りはアタシも息子も持ってるさ。でもそれをすると村人が離反しかねないから出来ないってだけだよ。祖先の苦労を何だと思っているのか、まったく」


 「村でも町でも同じだろう。生まれた時から安定していて安全なら、それが当たり前になる。単にそれだけさ」


 「はぁ……。この村もやがては変わっていくのかねえ。ま、とりあえずそれはいいさ。これが依頼の手紙だ。ちゃんとハルマーの開拓者ギルド長に届けておくれ。〝手渡し〟でね」


 「つまりハルマーの町の開拓者ギルド、そこのギルド長に直接会えと? 何の面識も無いのにか?」


 「オオスの村のギルド長から手渡しで渡せと言われた、とでも言えばいいさ。そうすれば案内してくれるだろ。あそこのギルド長はアタシの同期なんでね。それで十分通じるよ」


 「分かった。それなら何とかなるだろう。それじゃ、俺は行かせてもらう」


 「あいよ。頼んだよ」



 それだけを話し、俺はギルド長の執務室を出た。

 知らなかったけど、この村はオオスの村っていうんだな。

 出発直前に初めて知ったぞ。


 一階に下りて受付に行き、ギルド長から手紙を預かった事を言うと、依頼を請けた事と見做され、木札を持って行くように言われた。

 これを向こうが調べて、本当に依頼されたものだと分かるらしい。


 だから失くすと依頼は失敗扱いになるそうで、絶対に失くすなと言われた。

 開拓者が揉める理由の一位は、この依頼の木札を失くした事によるもののようだ。


 失くすと報酬が支払われないのだから揉めるのは当たり前か。

 とはいえ失くしたヤツが悪いんだから文句を言うのも筋違いだと思うがね。


 俺は両方をアイテムバッグに入れて開拓者ギルドを出た。

 適当にヌンやバステトと【念話】で話しつつ、門番に登録証を見せて村を出たら、西へと歩いていく。


 王都方面もこっちだから丁度良い目的地だ。

 ダンジョンへ行くついでと考えれば悪くない。


 しかし最初の村から揉め事に巻き込まれるとは……。

 この星での指令は一筋縄じゃいかない気がする。


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