0106・森の魔物・その2
Side:イシス
バステトが首を刎ねた蛇を回収し、俺達は更に先へと進んで行く。
森を適当に進んでいるものの、そこまでおかしな方向には進んでいない。
出来るだけ真っ直ぐに進んできたつもりだ。
ただ、このまま素直に戻れるほど甘くはない事は分かっている。
最悪は一度<時空の狭間>に戻って、そこから村に移動するしかない。
遭難したら言い訳が難しいからな。
「魔力が2つ感じられるんで何かが2体居るが、何だろうな?」
魔力を感じたのは俺だけではないので、三人で慎重に進んで行くと、木の根元を掘り返す緑色の猪が見えた。
俺は【念話】で確認し、今回は俺とヌンで頭を狙い打ちにする事に。
相手は猪なのでそれなりに魔力を篭めて【ヒートバレット】を発射。
無事に一撃で頭を潰す事に成功。
ただし魔力を篭めすぎたのか、俺の方は貫通してしまった。
死体をアイテムバッグに回収するが、まさか魔力が多すぎたとは思わなかったな。
ヌンの方は綺麗に中で留まっているので、どれぐらいで済むかの大凡は、経験で把握するしかないのだろう。
「相変わらず綺麗に倒すなー、ヌンは。俺の方は篭めた魔力が多くて貫通してしまったよ。もしかしてだが、大凡の魔力量を測るコツってある?」
『いえ、無いですね。残念ながら何度も何度も色々な魔物と戦うしかないです。そうすれば経験で大凡は分かるようになりますよ。それしかありません』
『それだけの経験は私達には無いわね。ヌンだからあるんだろうけど、私達は地道に何とかしていくしかないと思う。それより獲物って冷やさないの?』
「売り物の場合は別に良いんじゃないか? 昨日だって冷やして来いとか言われなかったけど、一応しておいた方が良いか」
俺は猪やそれ以外をアイテムバッグから取り出して、血抜きをした後に冷やしてからもう一度仕舞う。
昨日の解体所で「良好」という結果だったから、アレで良いんだと思ってたよ。
確かにやっておいた方が良いんだけど、他の開拓者はやらないんだろうな。
それが当たり前になっていて、今もそのままだから問題無かったんだと思う。
それでもやっておいた方が質は良いから、やっておいて損は無いか。
綺麗にしておく分には怒られたりしないだろう。
買取額が高くて変に目をつけられる、とかはあるかもしれないが。
『それはどうして?』
「この星では魔法を使うヤツはそこまで多くないか、もしくは使えても限られてるんだと思う。色の話をしていたろ? だから【魔術】みたいに何でも出来るって訳じゃないんだと思う」
『赤とか青とか言っていましたからね。あれはおそらく火や水という意味だと思います。となると冷やせるのは青だけだったりするのでしょう。そういう不便なものという意味ですよ』
『ああ。色によって何が出来るか決まっているのね。その所為で狩ってすぐに綺麗にする事も、冷やして悪くならないようにする事も難しいってわけかー。確かに大変ね』
「おそらく白と黒は、単純に光と闇だろう。そこから考えるに【死霊術】は多分だが黒に分類される筈。もしくは無か? 無なら楽なんだが……」
『あの三人組が無の者は少ないと言っていましたからね。もし無が【死霊術】に該当するなら、殺す者は少なくて済みます。しかし黒なら、かなりの人数を殺害しなくてはいけないでしょう』
「もしくは根本的に色の話とは別の可能性もある。【死霊術】……つまり術ってついている以上は、誰でも扱える可能性が在りそうでなぁ。そっちだと遥かに面倒だ」
『誰でも使えるものだと、どうやって野望を打ち砕くかって話になるわね。とにかく【死霊術】を使うヤツを全員殺すしかないかしら? それとも国自体を傾ける?』
『最悪はそれしかないでしょう。そうでなければ〝ゼンス王国〟の野望は無くならないかもしれません。国が崩壊すれば、それは他の国の話になりますからね』
「おっと、またもやグリーンスパイダーか。こいつら大して強く……なんだアレ? 茶色のカマキリ……? にしてはデカいな」
俺達は見つけた魔力の反応に近付いていたんだが、そこには茶色いカマキリと戦う緑の蜘蛛が二匹いた。
なぜかカマキリは2メートル以上の高さがあり、とにかくデカい。
そしてこっちに気付いている。
しかし目の前の蜘蛛と戦うのが先なのか、蜘蛛の方が放った糸を巧みに鎌で切り裂いていく。
あの鎌、おそらくだけど相当の切れ味をしているな。粘着質な糸をも切り裂いてる。
『あのカマキリの鎌は魔力でかなりの強化をされていますね。イシスが使う武器の材料に良いのでは? おそらく結構な代物になると思います』
『確かになりそうだけど、まずは蜘蛛との戦いがどうなるかの方が先だろ。おそらくはカマキリが勝つと思うが、あれ魔力で強化してるなら結構ヤバイ切れ味だよな?』
『切れ味としては高い方なんじゃない? 私の爪には劣るけど』
『流石のカマキリも猫と一緒にすんなって怒ってくると思うぞ? っと、糸を切りながら前に突っ込んだな』
カマキリは二匹の蜘蛛から放たれる糸を左右の鎌で切り裂きながら前に出る。
そして何をするのかと思ったら、鎌で一匹を捕まえると噛みつき始めたのだ。
それを見たもう一匹の蜘蛛は逃亡。
一匹が犠牲になる事で、もう一匹は助かったようだ。
目の前のカマキリは死んだ蜘蛛を捨てて、今度は俺達の方に向く。
そして前に足を出した瞬間、【ヒートバレット】で頭を撃ち抜かれた。
あっと言う間に小さな頭が潰れ、カマキリは立ったまま息絶える。
『ヌン……私達の活躍するところが何も無いんだけど? もちろん容赦なくやるのは正しいんだけどさ。わた』
「うぇっ!? キモッ!!!」
死んだカマキリの中からウニョウニョと黒いのが現れた。
アレはハリガネムシか? カマキリの大きさを考えると理解は出来なくもないが、気持ち悪い大きさをしてやがる。
そんなハリガネムシを冷静に焼き殺すヌンは、凄いなと思う。
俺もやらなきゃいけないんだけどさ。いきなりだと心臓に悪いわ。
ハリガネムシを焼き払ったヌンは、まだカマキリの体の中に残っている部分を引きずり出し、外に全てを出してから燃やし尽くす。
全くもって欠片も容赦が無いな。
「何か親の仇かと思うほど容赦なく処理してるけど、それって必要だからやってるんだよな?」
『もちろんです。やらなくてもいいなら、いちいちこんな事はしませんよ。売り物として売るなら寄生虫の排除は必要でしょう。<時空の狭間>に持って帰るのならば必要ありませんが』
『この寄生虫とやらも<時空間の歪み>に捨てられるから?』
『ええ。もしくは肥料にされるでしょうが、わざわざこんなものを使う必要もないでしょうけどね。ですので結局は必要の無いものです。生存は自由ですが、だからといって殺されないとは限りませんよ』
「まあ、そりゃなぁ。とはいえ終わったんだから仕舞っておこう。次にカマキリが入れば、武器用にキープしておくか。そうすれば……アレ? 寄生虫であるハリガネムシが生きていたら、アイテムバッグに入らないんじゃ……」
『入りますよ。アレはアイテムバッグに入れる事によって生き物を殺さない為のセーフティです。ですので中に入っても死なないなら入りますし、あの寄生虫なら生きるでしょう。駄目なら始末ですね』
「そういう理由で寄生虫は入るのか。成る程なぁ。逆に言えば入らない場合は寄生虫だけ弾かれる? それとも獲物自体が入らない?」
『それぞれによります。入る場合もあれば入らない場合もある。ただし寄生虫の場合は、大凡関係なく入りますね。アイテムバッグの中で死ぬという事もありますよ。そこは、それぞれのアイテムバッグによって変わってくるところです』
「ややこしいな……」
俺のアイテムバッグのルールは、使いながら探っていくしかないのか。




