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0103・酒場での食事




 Side:イシス



 愚痴っていた店員はすぐに仕事に戻ったので良かったが、あのまま愚痴を言われ続けていたら、ストレスになっていたところだった。

 誰かに吐き出したいのは分かるが、止めてもらいたい。


 そもそも俺は客なんだが……と言っても、この程度の文明では理解されないだろう。

 客と店が近いと言えば聞こえはいいが、遠慮が無いというか友達や知り合い感覚だとも言える。


 でも、よく考えれば地元の店ってそんな感じか。

 ならこの店がそうでも別段不思議じゃないな。

 全国展開のチェーン店なら違うが、地場の店ってこんなもんだという記憶がある。



 『それにしても五月蝿かったわね。誰かに言いたくて仕方なかったのかもしれないけど、そもそも迷惑を掛けてないイシスに言う事じゃないでしょ。愚痴を溢すなら迷惑を掛けてきた奴らにしなさいよ』


 『言いたい事は分かりますし、その通りだと思いますが、世の中とはああいうものでは? 迷惑を掛けない優良な客ほど、何故か被害を受けるという……』


 『それって店として間違ってない? 普通は優良な客にこそ迷惑を掛けちゃ駄目でしょ。何で悪い客には我慢して、優良な客に迷惑掛けてんのよ。意味が分からない』


 『ヌンの言う通りの事が起きるから困るんだよなぁ。実際に事実としてそういう事はあるし、迷惑客の方が得するなんていう事もある。正直に言って、そういう店には二度と行かない』


 『でしょうね。当たり前だと思うわ』



 俺の記憶の中にもあるが、何で優良な客が迷惑を被らなきゃならないのか。

 そういう事例を思い出すだけで腹立たしいという事はだ、おそらく俺自身もそういう目に遭ったんだろう。

 きっと。


 俺自身に纏わる記憶は無くなってるが、そういうニュースがあったという記憶がある。

 そしてそれを思い出すだけで非常に腹立たしいのだから、そういう事だろう。


 そんな事を考えていると料理が運ばれてきたので、俺はバステトをテーブルの上に上げてから料理を食べる。

 ヌンはもう一つの椅子に座っているだけだ。

 そもそも食べられないし。


 まずはパンと思ったが、何だか妙にカリカリしているな? これって無発酵のパンだろうか?

 となると、結構古い時代の料理と変わらない事になるな。

 まだ発酵はさせていないんだろう。


 見た目や香りは小麦のものなので、小麦のパンである事に変わりはない筈だ。あと平たくて薄い。

 これで一枚3ルルもするのかと思うが、小麦だって古い時代は安くないのだからこんなもんか。


 二次発酵までさせたパンが当たり前だったからか、一次発酵すらさせてないパンって新鮮な気がする。

 少し味わって食べよう。久しぶりの穀物だし。


 俺がそうやってパンを味わっていると、バステトは肉を噛み千切りながら咀嚼していた。

 なかなかにワイルドだが、バステト状態にならない限りは噛みつくしか食事方法が無いんだよな。


 獣人状態でも手は肉球付きの猫の手なんで、カトラリーを持てるような手じゃないし、そういう器用な事が出来る指だったりは無い。

 代わりに強力そうな爪はあったから、どちらかと言うと戦闘形態か?


 バステトを見つつ食事をしていると、店員がやってきてジロジロとバステトを見始め、そして俺に対して口を開く。



 「お客さん。この子に食べさせるのは勝手だけど、食べにくそうにしてないかい? 別の物の方が良かった気はするけどね?」


 「いや、大丈夫ですよ。だよな? バステト」


 『そうね、普通に食べられてるわよ。そもそも食い千切るなんて普通の事だし、魚ぐらいじゃない? 割と簡単に食べられるのは』


 「あれはあれで骨を外してあったりするから、必ずしも普通の魚を食ってる訳じゃないけどな。まあ、それでも骨をければ普通に食べられるか」



 そう言いつつ、野生の猫が適当に食い散らかして捨てるのは、骨が引っ掛かったり刺さるからなのかと、一人納得していた。


 店員はバステトが【念波】で喋ったからか驚いたが、俺が普通に喋る事が出来ると言うと、何とか呑み込んで納得したようだ。


 最初にバステトの声を聞いた時にキョロキョロしていたから、この星では【念波】を使う者は居ないのかもしれない。


 食事をしていると女性の声のグレイが相席を頼んできたので了承。

 その段階で「ハッ」とした店員は、相席の女性グレイに注文を聞く。

 どうやらバステトに見惚みとれていたらしい。


 相席の女性グレイも注文しながら「ジッ」とバステトを見ているので、なかなかに猫好きが多そうな気がする。

 とはいえ、この星に猫が居るのかは知らないが。


 バステトは肉を半分ほど食べた後で野菜の事を思い出したのか、慌てて野菜を完食し、その後に肉を味わって食べていた。


 俺はパンを半分ほど食べた後に肉を食べつつ野菜に手を出す。

 どれもそれなりにボリュームがあるので、まあまあお腹は膨れる。

 しかし、あくまでもそれなりでしかない。


 グレイの胃が小さいのか、それとも量を必要としないのか。

 または食料がそこまで豊富な時代じゃないからなのかは分からないが、一人前ならこんなものなのだろう。


 女性グレイも俺と同じ食事量なので、そこまでおかしい事では無い。

 周りに客も入って来ているので見ると、男の客は二人前や三人前のネズミ肉を頼んでいた。


 煮込みだから見れば分かるものの、あのネズミ肉を普通に食べるという事が信じられないな。

 それでも食べる所では普通なんだろうけど、俺は絶対に食べない。


 俺が食事を終える頃にはバステトも終えていたので、三人で席を立って酒場を出たら宿へと戻る。

 こういう時は隣の建物だから楽だな。


 部屋に戻った俺はベッドに座り、その硬さに頭を悩ませる。

 幾らなんでも硬すぎるっていうか、木の板の上にシーツを掛けただけだ。

 流石にこれでは硬すぎるだろう。


 よって俺は<時空の狭間>へと戻り、<物品作製装置>へと行く。

 ヌンもバステトも戻ってきたが、バステトは早速とばかりに口直しの焼き魚を要求してきた。


 更には「早く」と急かすので、仕方なく先に作ってテーブルの上に出しておく。

 バステトが焼き魚で口直しをしている間、俺は少しでもマシな寝具になる物を探す。


 その結果、<熊の毛皮>を二枚作る事にした。

 これを下に二枚敷いて寝れば、流石に多少はマシだろう。

 本当は布団か毛布を作りたかったんだが、それらは出てきてないので作れない。


 俺が熊の毛皮を作製すると、熊一匹分の毛皮が当然のように出てきた。

 熊一匹分の毛皮っていうのは、思っているよりも大きいらしい。


 広げてみて初めて分かったが、身長で言うと2メートルを超えていたらしく、寝具としては十分過ぎる大きさだった。

 カミナリグマって意外に大きかったんだなと、改めて思う。


 コレに普通に勝っている自分にも驚きだが、そうでなければオークには勝っていないと思い直す。


 感慨にふけるのも良くないので終わらせ、毛皮を二枚アイテムバッグに入れたら<作物収穫室>へ。

 すると、既に花が咲いていたので収穫し、アイテムバッグに入れていく。

 引き抜けば簡単に手に入るので収穫も楽なもんだ。



 「しかし危なかったなー。もう少し遅れてたら、収穫時期を逃してしまうところだったぞ。そうなってたら枯れて終わりだったな」


 「そんな事はあり得ませんよ。何故なら収穫のタイミングで停止されますので、収穫するまでそのままになります。二体目のゴーレムが出来れば、私が勝手に収穫しておきますがね」


 「それはありがたいが、まさか収穫時期で停止するなんてな。いや、ここは<時空の狭間>なんだから普通の事なのか?」



 時間も空間も切り離されているから、この中の時間も曖昧なんだろうか?

 だとしたら、改めてとんでもない場所だと思う。

 いや、本当。


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