0102・宿と酒場
Side:イシス
解体所で木札を貰い、俺はその足で開拓者ギルドに戻ってきた。
さっき受付嬢と話した時とは違い、中に他の人が居て少し驚く。
今まで受付嬢しか居なかったので、ちょっと新鮮な感じもする。
とはいえ他の人達は置いてある椅子に座ってテーブルを囲んでいる為、俺はチラリとだけ見て受付へ。
そして解体所で貰った木札を提出した。
「解体の木札ですね。………本当にこの数を一人で狩ったんですか。無茶をした訳ではないのでしょうが、あまり多くを狩り過ぎないようにして下さい」
「なのでそこで止めたんですが、それでも多かったんですか。すみません」
「いえ、このまま続けられると減りすぎる恐れがあるというだけです。というより、ちょっと行って10匹が狩れるなら、明日からは北の森に行く事をお薦めしますよ。あそこなら構いませんし」
「北の森?」
「ええ。あそこにはブラウンウルフやブラックスパイダーにグリーンボーアも出てきます。スライムさえ避ければ、実力があれば儲けられる場所ですよ」
「はあ、分かりました。北の森ですね。明日からはそっちに行ってみます」
「実力があるなら、ですよ。無いなら少し狩りのペースを落として下さい。もしくは薬草などの採取依頼をすると良いでしょう。………えーっと、70と35で三匹と七匹だから……」
「210と245ですね」
「…………本当だ。210と245、合わせて455ルル。小銅貨が5枚と大銅貨2枚に小銀貨4枚ね」
俺はお金を受け取ると、さっさと開拓者ギルドを後にした。
何となくだが、椅子に座っている連中の意識がこっちを向いていたような気がするからだ。
妙な連中に目を付けられる訳にはいかないし、こういう時はさっさと離れるに限る。
それより宿が何処かは分からないんだが、何となく向こうに見えている建物っぽいな。
開拓者ギルドの隣の隣には、看板にベッドが描かれている建物があった。
ほぼ間違いなく宿屋だと思うので、俺はそちらに行ってドアを開けて中に入る。
「おう、らっしゃい。ウチは宿屋だが間違えて入ってきたのか?」
「いえ、泊まりに来たんですが……駄目でしたか?」
「いや、そんな事はねえよ。ウチは商隊相手ぐらいしか客が無いんでな、滅多に泊まりに来るヤツは居ねえんだよ。他は開拓地のヤツが買い物に来た時ぐらいか」
「とりあえず一泊お願いします。一人部屋で」
「あいよ。食事は隣にあるウチの酒場でとってくれ。で、お湯は5ルル、一人部屋は50ルルだ」
「はい。お湯は無しで大銅貨2枚。ここに置きます」
「おう、まいど。………これが部屋の鍵だ。無くしたら500ルルだから気をつけろよ」
「分かりました。気をつけます」
そう言って、俺は一階にある一番手前の部屋に入った。
とはいえ受付からはそれなりに離れているし、五月蝿くはないだろう。
騒がしいのは隣の酒場だ。
それよりも宿と酒場の経営ってファンタジー物でも見るけど、実際にあるんだなー。
もちろん宿と酒場は別の建物だけどさ、近くにあると五月蝿くて仕方ないと思うんだが……。
解体所はギルドの中に無い癖に、宿の隣に酒場はあるんだな。
まあ、経営者が一緒だから近いだけかもしれないが、五月蝿い可能性があるのはマイナスじゃないか?
『どうなのでしょうね? 文明度が低いなら、そこまで気にしない者が大半の気がしますよ。そういうものとして認識しているでしょうし、実際にそこまで騒がしいとは限っていません』
「そうか? 酒場だから相当に五月蝿いと思うがな?」
『アルコールを摂取すれば五月蝿いでしょうが、果たして毎日飲むような者が田舎の村に居ますかね? 居ても少数で、そんなに騒がないと思います』
「ああ、村だからそこまで活気に溢れてないって事か。ついでに村人の数も多くないし、そうなると騒ぐ奴は本当に少なそうだ」
『そもそも飲めるほどに稼げる者が多くないでしょうからね。飲む人数が少なければ、そこまで五月蝿くはないでしょう』
『それなら大丈夫そうね。<時空の狭間>は五月蝿くないし、かつての猫の里も五月蝿くなんて無かったから、寝る時に五月蝿いってうのがよく分からないけども』
「寝られないぐらいに五月蝿いって事があるんだよ。特に寝ようとしている時に邪魔される訳だから、イライラ度は物凄く高くなるぞ? 一度味わってみれば分かる」
『お断りさせてもらうわ。寝るのを邪魔されるってだけで腹立たしいのに、いちいちそんな事を受けたくないわよ。受けるならヌンでいいじゃない』
『私には意味がありませんよ? そもそも私は眠る必要なんてありませんので、ずっと起きてますしね。それ自体はゴーレムと変わりませんので、おかしな事ではありませんし』
『寝る必要ないんだ……』
「まだまだ夕方にもなっていない時間だし、どうしたもんか。適当に暇潰しでも出来ればいいんだがなー」
『ならば、【魔術】の訓練をしましょうか。装備は全て外して下さい、それらの補助を受けても腕は大して磨かれませんので』
「まあ、暇だからいいか。それにヌンの言う通り、確かに補助を受け続けていても仕方ない。この星には<ムンガ>が居る訳じゃないし、今は外しておこう。バステトもな」
『分かったけど、外してくれる?』
「ああ、少し待ってくれ。俺も指環を外す必要があるんでな」
俺は<魔操の指環>を外した後、バステトの首輪を外す。
ただしそのままにすると野生の猫と勘違いされそうなので、首にリボンを巻いておいた。
これは<清浄のリボン>なので魔力操作とは関係が無い。
その為つけていても補助はされない物だ。
俺達は夕日が出てくるまで練習に打ち込み、夕方になったら宿を出た。
隣にある酒場に入って適当な椅子に座り、メニューを見ようと思ったが見当たらない。
……これ、どう注文すればいいんだ?
そう思っていたら、店員と思しきグレイが近付いてきた。
スカートなので多分女性なんだろう。
「ご注文は?」
「すみません。注文をしたいんですけど、メニューが分からないんです。壁に張り出したりも無いので、何があるのか……」
「ああ。初めて来るお客さんね。ウチはパンと肉と野菜とエールしかないよ。肉はネズミ肉の煮込みとウサギ肉の焼き物だね。パンが3ルル、ネズミ肉が4ルルにウサギ肉が7ルル、野菜が3ルルにエールは一杯10ルルだよ」
「パンとウサギ肉の焼き物二つに野菜も二つで」
「はいよ。パン1、ウサギ2、野菜2ね。エールは?」
「今日はいいです」
「じゃ、全部で23ルルね」
「すみませんが、小銀貨1枚と小銅貨3枚でお願いします」
「おっと、お釣りが多いね。ちょっと待っとくれよ」
そう言って店員は戻って行ったが、スカートはともかく恰幅はよかったので、宿のオッサンの奥さんかな。
グレイも筋骨隆々なのも居れば痩せ型も居るし、没個性という訳じゃないんだよなぁ。
そんな事を考えていたら店員が戻ってきて、銅貨3枚と大銅貨2枚を渡された。
銅貨が10ルルで大銅貨が25ルルだから、ちょうど80ルル。
お釣りは間違っていない。
俺が受け取ってポケットに仕舞うと、店員がちょっと驚く。
「お釣りを確認しなくていいのかい?」
「えっ? 80ルルちゃんとありましたよ?」
「……受け取ってすぐに確認したのかい? そりゃ早い。一枚一枚ゆっくり確認するヤツも多いっていうのにさ、見習ってほしいぐらいだよ。あからさまに、あたしが釣りを間違えてると言いたげなヤツが居るのがねえ……」
数を数えるのが下手なのか、もしくはワザとしているのか分からない感じか。
それは嫌だろうなー……。
だけど、客である俺に愚痴るのは止めてくれないか?
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