0101・三人組との会話と解体所
Side:イシス
「そうだ、忘れてた。オレの名はゴッヅだ。よろしくな!」
「ぼくの名はジャー」
「私はウィウィ。よろしくね」
「ああ、よろしく。俺の名はイシスだ」
「で、イシスは王都に行くって言ってたけど、今はお金を貯めてるんだろ? だったら宿暮らしか?」
「そうなると思うが、それがどうかしたのか?」
「いや、宿暮らしは大変だぞ? 結構な金が無くなっていくし、宿って高いからなー。オレ達みたいに実家に帰れば済むって訳じゃないと、なかなか金は貯まらないぜ?」
「ぼく達だって家にお金を入れてるから貯まらないんだけどね。それはともかくとして、確かに宿暮らしは厳しいって聞く。でも、イシスは収納鞄を持ってるから大丈夫じゃない?」
「そうよ。私達なんて普通の鞄に詰められるだけ詰めるしかないけど、収納鞄はいっぱい入るんだから儲かるでしょ。私達みたいに薬草を採ってくる仕事じゃないんだし」
「あー、たしかにそうか。獲物をいっぱい持って帰れるなら確かに金は貯まるなぁ。羨ましい」
「仕方ないけど、それも魔法を覚えるまでさ。魔法を覚えたら沢山お金が稼げるよ。って、それより早く納品しないと怒られるし、安くなっちゃうよ」
「そうだ! 早く渡さないと新鮮さが無くなるって怒られたじゃない」
「ゲッ! また売値を引かれるのは勘弁だ。さっさと帰るぞ! じゃあ、またな。イシス!」
そう言って三人組は走って去って行った。
とんでもなく騒がしかったが、田舎の若者って感じの三人だったと思う。
きっと変わり映えの無い毎日で暇だったんだろう。
『随分と五月蝿い者達でしたね。御蔭で色々な情報が得られたとはいえ、なかなかに面倒な感じでした。まあ、だからこそ黙っていた訳ですが』
『私もよ。話しかけたら絶対に面倒な事になると思ってたから黙ってたのよね。暇なのか知らない相手と話したかったのか分からないけど、猛烈に喋ってきてたわ。あんなに話したかったのかしら?』
「多分だが田舎の若者だからだろうな。とにかく何か新しい刺激が欲しいんだろうさ。田舎ってのは閉塞感があるから、年寄りにとっては良いんだろうが、若者にとっては退屈な場所だ」
『退屈ねえ。変わらない日々って凄くありがたい事じゃない。変わらずに生きていけるって、生活が安定しているって事よ? それがどれだけ大変か……』
『まあ、若い者というのは得てして分かっていないものですよ。自分が置かれている状況や環境が理解できず、他の何かが羨ましくて仕方ないのでしょうね』
「話を変えるが、ネズミが売れると分かったのは良かったが、代わりにネズミ肉が出てくる可能性が高まったのが何とも言えないな。俺としては売れなくても良かったんだが……」
『大きめのネズミですから、最悪は皮ぐらいなら売れるとは思っていましたけどね。皮紙ぐらいにはなるでしょうし、死体の肉は肥料か家畜の飼料に出来ます。無駄にはなりませんよ』
『そうじゃなく食べられてるみたいだけどね。私も昔なら食べてたと思うけど、今は魚があるから要らないかな……』
「俺だって要らないけど、対外的には食うしかないんだよなー。なるべくウサギ肉にしてもらおう。ネズミはわざわざ食べたくはない」
その後もウロウロしてネズミを三匹、ウサギを二羽回収したところで帰る事にした。
初日から飛ばしても仕方ないし、あまり話題になるのも良くないと思ったんだが……。
「ウサギが三羽にネズミが七匹ですか……。本当かどうかは知りませんが、村の入り口すぐにある解体所で売ってきて下さい。ここではお金を支払うだけです」
「あ、そうなんですね。分かりました」
どうやら開拓者ギルドでは買い取ってくれないようだ。
血の臭いを含めて臭い為、解体所は村の入り口などの端にしかないらしい。
仕方がないんだろうが、食べる肉を作ってくれる所なのに扱いが悪いなと思っていたら、鍛冶屋も村の端にしかないそうだ。
理由は五月蝿いからという、何とも悲しい現実だった。
包丁とか含めてお世話になってる癖に、五月蝿いから端っことか……。
色々とアレ過ぎないかと思うが、近くに騒音を撒き散らす家があったら確かに嫌だろうなー、とも思う。
それが分かるだけに何とも言えなくなってくるな。
っと、下らない事を考えていたら解体所に着いた。
シンプルな場所で飾り気なんて皆無。そのうえ壁すらない場所だ。
建物自体はあるんだが、解体をする場所は壁が無く、上からフック付きのロープが吊るされている。
おそらく建物の方は休憩所だろう。仕事の無い時は向こうに居るに違いない。
俺は建物の方に行き扉を開けて中に入る。
すると、中には4人のグレイが雑談をしていた。
「すみません。獲物を売りたいんですけど、いいですか?」
「おう。構わねえが、獲物は外の解体所に出してくれや。建物の中が血腥くなると親方がうるせーんでな」
「分かりました」
俺はそう言って、壁の無い建物の方に行く。
すると、先程のグレイと思しき人がこっちに来たので、俺はその場で獲物を出していく。
「おいおい。ウサギが三にネズミが七かよ。思っているより多いじゃねえか。まだ狩りに行った奴等が帰って来てねえからいいが、これは早めに終わらせておくべきだな。ちょっと待ってろ」
そう言って建物の方に戻って行くグレイ。
すると四人ともが建物の中から出てきた。
どうやら全員で一気に終わらせるみたいだ。
「本当にウサギ三とネズミ七かよ。よくもまあ一人で………本当に一人か? そこのよく分からんのは?」
『私はヌンです。こう見えてちゃんと自意識がありますので、誤解しないようにお願いします』
「うぉっ!? こ、声が聞こえた? マジでその木人形が声を出してんのか?」
『声を出している訳ではなく、貴方がたに意思を届けているだけです。私に発声器官はありません』
「お、おお……。何を言ってるのかよく分からねえが、まあ、話せるなら何でもいい。それより、そっちのそれは獲物か?」
『失礼ね。私は獲物じゃないわよ。イシス、変な誤解をされそうだから抱いててくれる?』
「了解、了解。確かに勘違いされたら困るからな」
そう言って俺がバステトを抱くと、バステトが話せる事も含めて驚いたようだった。
どうやらこのタイミングでヌンは自分の事をバラす事にしたらしい。
理由は不明だが、ヌンがこのタイミングと決めたなら俺は何も言う気は無い。
俺よりも遥かにしっかり考えているだろうし、何らかの理由があっての事だろうからな。
「ウサギが三で……良好。ネズミが七で…………こっちも良好か。お前さん良い腕してるな! 皮とかに傷が付いてねえから満額買い取りだ」
「もしかして結構な傷を付けてくる開拓者が居るんですか?」
「ああ。せっかくの獲物なのに傷つけて駄目にする阿呆が居るんだよ。もちろん戦いだから仕方ない部分はあるんだがな。オレ達が現役の頃は、もっと工夫して倒してたってのによ」
「普通は買取金額が下がらねえように、出来るだけ綺麗に倒すもんだがなー。最近の若いヤツは倒せりゃそれでいいって連中ばっかりだ。情けねえと思わねえのかね?」
「今は違うんじゃねーか? ワシらの若い頃じゃ、傷つけた獲物なんぞ下手クソの証って言われてバカにされたもんだ。今はそういう事も無くなっちまったんだろうさ」
「そんなこったから年々狩ってくる獲物が悪くなってるんだろうさ。それよりせっかく綺麗なのが来たんだ、さっさと解体しておかねえとドヤされるぞ」
「それもそうだな。ほらよ、コレ持ってギルド行ってこい。受付で渡せば金が払われる」
「分かりました」
俺はそう言って解体所を後にした。
むさ苦しいオッサン連中だったんだろうが、全員がグレイなのでそんな感じがしないな?
ただし片足が義足だったりしたので、怪我で引退したんだろう。
さて、ようやくお金が貰えるな。
いったい幾らになるかは知らないが。




