第九十八話:エ”ン”ッ”!!
中ボス戦は、散々と言っていい結果だった。
俺が腰を抜かしてまともに戦えないせいで、戦力は減ったからだ。
一応後ろの方からアルトリアに来てもらったけど、盾役がいないせいで危ない橋を渡りながらの中ボス戦だった。
「ったく……ブレイブさんの虫嫌いもここまで来るとビョーキッスね」
「ま、苦手なものくらいは誰にでもあるだろ? 俺だってサソリ大っ嫌いだしよ。戦えないわけじゃねえけど」
呆れるユージンに、がははと笑うオリオン……いや、ホンット虫は嫌いというかトラウマなんだよもう。
虫と戦うくらいならアーサー100人にリンチされた方がマシだ。
「虫如きで怯えるとは……」
「兄よ、VRでもリアルのトラウマを持つ者は多数います。
故、ブレイブ・ワンが虫を苦手とするのならばよくある話です」
「フン、所詮偶像の世界……現実の肉体には影響なぞないだろう」
カステロからのキビシーお言葉を頂き、俺は肩を落とす。
そんな俺に、無言で肩をポンと置いて慰めてくれるリン。
モードレッドは興味もないようで、頭をガリガリと掻きながら歩いている。
「ま、苦手があったらこれからもお互いカバーし合えばいいんだ、だろ? リーダー」
「……あぁ、そうだな。そうしよう」
オリオンの言葉に頷きながらも、小部屋から飛び出して来たグールを刺し殺す。
丁度剣を真っ直ぐに伸ばすと頭に刺さるので、グールは倒しやすい敵だ。
……で、グールが倒れたのを皮切りに部屋からスケルトンとゾンビが出てくる。
「オリオン」
「任せろ! エクスプロード・アロー!」
オリオンの射撃でゾンビの頭が吹き飛び、兄弟の連携でスケルトンが倒される。
リンもモードレッドもユージンも、やることがないので不満そうだ。
何か、それなりの手練れでも出てきたら喜ぶかな――
「と思ったら出てくるんかーい」
「なんか考えてたんですか?」
「お前らが退屈しない方法を考えてた」
「丁度いいじゃねえか、こんだけの数ならやりがいがあらぁ!」
と、意気込むモードレッドと無言ながらなんか嬉しそうなリンの前にいるのは大量のゾンビとスケルトン、全部小部屋から出て来たのかどうかは別だけど。
スルーは絶対出来ないし、本隊とぶつけるわけにも行かないので殲滅コースだ。
「いよぅし、まずはデカいのぶち込むぜ」
「だったら、俺も全開だ!」
オリオンは一際太い矢を番え、モードレッドは両手剣に何かをチャージし始める。
……で、リンはもう敵陣に飛び込んでいった。
「ボルクスとカステロは二人を守ってくれ、ユージンは俺と一緒にリンの援護だ!」
「了解ッス!」
「承った」
「承知しました」
パッパと指示を出して、俺はフェニックス・ブレードを抜く。
ユージンも風を纏うようなスキルを使い、ゾンビとスケルトンの群れに斬りかかる。
……リンは元気そうにゾンビとスケルトンの頭を切り裂いては避ける、を繰り返す。
「フェニックス・スラスト!」
「ダブル・ウィンドソードッス!」
フェニックス・スラストで三体ほどまとめて焼き串にし、そのまま斬り払う。
フェニックス・ブレードなら通常攻撃ですら属性攻撃、故にゾンビやスケルトンにも有効だ。
とどのつまり、スキルを使ってクリティカルを出せばもっとやりやすい。
「充填完了! 行くぞ!」
「とっておきをくれてやらァ!」
オリオンとモードレッドの声がして――
俺は飛びのき、リンは舞のように短剣を振りながら群れから抜ける。
ユージンは既にオリオンたちの後ろに下がっていて、兄弟もその隣だ。
「今だ、撃て!」
「おう! 【煉獄弓】!」
オリオンが放った、地獄の業火の如く燃え盛る矢――
正しく大砲のソレと思える一撃が通路を埋めるほどに真っすぐ飛ぶ。
それだけでゾンビを焼き尽くし、端から端まで焼けた。
「いっくぜェェェ! 【クラレント】ォォォッ!」
それに続いてモードレッドが放った、両手剣に纏わされた赤い稲妻。
オリオンの煉獄弓にも劣らぬ範囲と威力で伸び、生き延びたゾンビたちを焼き払った。
これでゾンビとスケルトンの生きる希望は絶たれた……元からないけど。
「残りは我らに任せろ!」
「はぁぁぁッ!」
オリオンとモードレッドが一掃した上で、兄弟の連携で死に損なったゾンビたちが消えてゆく。
……正直、オリオンが第三回イベントに出て来なくて非常に助かったと思う。
オリオンはギルド入ってないみたいだけど、臨時でギルド組まれたら怖いし。
「……オリオン、ウチのギルドとか入る気とかあるか?」
「あー、魅力的なお誘いだけど、俺は彼女と二人でプレイするのが好きだからな」
「そっか」
ま、そんなもんだよな……と心を落ち着かせる。
強力な奴でも、直ぐにポンポンとウチに来てくれるわけじゃない。
何よりも、プレイする環境は人それぞれ、だ。
そう思ってまた歩き出そうとすると、アーサーからの連絡が来た。
『やぁブレイブくん、虫嫌いの汚名は返上出来たかい』
『出来てねーよ……っつーか! 汚名でもなんでもねえよ!』
『ハハハ、そう怒らないでくれ。
ゾンビやスケルトンたちを殲滅してくれたことに礼を言いたいからね』
『それならモードレッドとオリオンに言え、俺は殆どなんもしてねーよ』
そうさせて貰おう、なんて言いながらアーサーとの連絡は切れた。
ため息をつきながら俺はまた歩き出し、ボス部屋まで四分の三ほどまで来た。
消耗も全然ないし、上手くいけば俺たちもボス戦で戦えそうだ。
「……結局、大したことありませんでしたね」
「あぁそうだな、雑魚も無限じゃないし……別段強くねえな」
なんて思っていたらもうボス部屋の手前まで来てしまい、先行していた俺たちは扉の前に座ってくつろぐこととなったのだった。
あ、ちゃんとパーティで座れるシートとか用意してな。
「ふむ……だが、俺たちはお役御免というところだな」
「……ですね、ダメージディーラーが増えすぎても良くはないでしょう」
カステロとボルクスは残念そうに言うけれど、ボス部屋にも雑魚は出る。
雑魚狩り隊の皆にそこを任せて、遊撃隊はボスにも雑魚にも攻撃……そういう流れでいいのか、あとでアーサーに聞いておくか。
「ま、何にせよ休めるのはいいことッス。
しばらくくつろぐッスよ~」
「ですねー、私も寝ます……」
ユージンはどこからか取り出した雑誌を読みだす。
っつーか、SBOに雑誌なんてものがあったのかよ。
漫画雑誌みてえだが、タイトルは【マカチン】……訴えられそうだ。
で、リンはくぅくぅと寝息を立てて寝始めた。
寝顔だけ見たら、まるで癒しの空間そのものだが。
都市解放戦用の迷宮のせいか、不釣り合いな場でしかない。
「オリオンはどうする」
「俺かぁ? 俺は見張りでもしてるぜ。
リーダーは安心してくつろいでてくれ」
オリオンはそう言って装備品の耐久値を眺めたりしつつも、周囲を警戒。
……で、カステロとボルクスはいつの間にか何か話してる。
輪に入れそうな気はしないので、俺はアイテムをチェック。
が、ポーションもクリスタルも使った覚えはなく、出発前とさほど変わらない。
違いがあるとすれば、倒したモンスターのドロップアイテムのみだ。
「……やることねえな」
眠くないし、見張りもオリオンがやってるし、話すこともないし、暇つぶしグッズはない。
装備の耐久値を眺めようにも、全然削れてないせいでなぁ。
モードレッドはどうしてるかな……と思ったらコイツも寝息を立てて寝ていた。
「オリオン」
「なんだ?」
「暇なんだ」
「流石にソレは自分で何とかしろよ」
「そ……悪いな」
冷たい……とは言えない、だって見張りやって貰ってるもん。
っつーかアーサーたちはまだなのか。
どうせ戦闘は起きてないだろうし、ボイスチャット繋いでも文句ないだろ。
『まだつかねえのか』
『あぁ、思いのほか難航していてね……』
『ん? なんかあったのか』
宝箱でも開けるのに手間取ってるのか? それとも、何か強力なボスとでも出会ったのか?
『トラップにでもかかったのか?』
『いや、雑談から始まったきのこ派たけのこ派論争が延々と続いていてね、足が止まった』
『どおおおでもいいわあああああッ!!!!! とっとと来い馬鹿共ォォォ!』
俺はリンが寝ていることなど忘れ、全力で叫んだ。
声は迷宮の壁で反響し、随分と遠くまで届いた。
……オリオンが『え? 何があったの?』って目でこっちを見ている。
『そう怒らないでやってくれ、キッカケは僕だし』
「超加速、諸刃の剣」
俺はクラウチングスタートの姿勢から真っ直ぐに走り出し――
十五秒ほど全速力で走ると、三十五人のパーティの戦闘を歩くアーサーを発見。
届くまであと三、二、一……!
「あ、ブレイブく――」
「くたばれェェェェェッ!」
「エ”ン”ッ”!!」
笑顔で手を振って来たアーサーの顔面に全力の飛び蹴りをくらわせた。
クリティカルヒットのおかげで、アーサーのHPバーの三割ほどが吹き飛んだけれど、さしたる問題じゃなかろう。
まぁ、思い切り吹っ飛んだせいで何人か巻き込んで倒れた、ってのが問題だな。
「ふーっ……随分、酷いことをするじゃあないか」
「たりめーだ、こちとら待ちくたびれてんだっつーの」
「あぁ、それは本当にすまないね……よっと」
アーサーは流石にふざけすぎたと反省してるのか、少し申し訳なさそうだ。
……よく見ると、ディララやカエデは女性プレイヤーにおんぶされている。
AGIが0だから、歩調を合わせるにはそれが一番だろうけど。
わざわざそんなことをしてるのに、遅れるってのはどうなんだ。
「……アーサーよ、立ってくれ。
ボスの部屋までは近い……気を引き締めねばならん」
「そうだね……そろそろ、おふざけもやめなければね」
アーサーはふらふらと立ち上がり、真面目な顔つきになった。
……第三回イベントで見た時のアーサーの顔だ。
最近見てたふざける時の顔じゃない、しっかりとした姿。
「よし……では皆、ここからは真面目に行こう」
アーサーの一言で、騒いでいたパーティメンバーたちは静まる。
……最初っからそうしてくれっての。
と、心の中で文句を言いながらも俺は先行して走り、雑魚がいないかを確かめる。
再度湧いたりはしていないので、アーサーにOKサインを出す。
「随分速足で駆けて行ったが、何してきたんだ?」
「バカを蹴っ飛ばして来た」
「……そうか」
オリオンは深く聞くことはなく、少しばかり微笑んだ。
俺は彼の隣に腰を下ろし見張り交代してもいいぞ、と目だけで伝える。
すると、わかったよと言わんばかりにくつろぎ始めた。
と言っても……その場で寝ころんだだけだけど。
「おーい」
「おーう」
数分ほどすると、アーサーが手を振りながら姿を現した。
ボス部屋の辺りは明るめに設定されているので、そんなに近くなくても視認は出来る。
故に、ちょっと前までの暗さには悩まずに済む。
「……お、準備万端ッスか?」
ユージンが雑誌から顔を上げてアーサーの方を見ると。
アーサーは回復隊のリーダー……イアソーンから何かを受け取っていた。
メニューを開いて操作したと思うと、ここにいる全員に配布されたようだ。
「どれどれ……サンドイッチ?」
「握り飯だな」
「パンだ」
「飲み物もありますね」
送られてきたものを見ると、サンドイッチとミルクが来た。
ストレージから取り出してオブジェクト化させると、三角のサンドイッチが二つ。
具は……ローストビーフ、ポテトサラダまで挟まってる。
ミルクもなんだか甘い香りがするし……美味しそうだな。
「随分デケぇな」
「うお」
オリオンが取り出したのは、拳三つほどはありそうな大きなおにぎり。
カステロはシンプルな長いパン、ボルクスは丸い黒パンだ。
「ん……ふぁ……あれ、なんか来てる……」
リンは目をこすりながら起き上がると、ストレージを確認。
すると、リンにはロールパンみたいなものが。
無言で目を覚ましたモードレッドには、パイと思しきもの。
「さぁ皆遠慮せずに食べると良い! アルゴーノーツ船長であるこの俺、イアソーンの手作り故味は保証するぞ!」
回復隊のリーダー、イアソーンが高笑いしながら言う。
コイツ、料理スキルとか習得してたのか……と思いながら食べる。
「……おぉ、うめえな」
「ですね、寝起きでも美味しいって思えます」
リンがロールパンを食べながら俺の言葉に頷いている。
……周りを見渡すと、皆が皆笑顔で食べている。
イアソーン、普通に店とか開けるんじゃないだろうか。
「……フッ、流石は我がギルドの船長だ」
「指揮と料理に関しては一流ですね……実際の戦闘はカスですが」
二人からボロクソに言われているが、イアソーンは誇らしげだ。
料理とか褒められれば、他は甘んじて受け入れる評価と見てるのか。
だとしたら凄いな、ちょっと見習い……たくはないな、うん。
プレイヤーネーム:オリオン
レベル:60
種族:人間
ステータス
STR:100(+80) AGI:100(+70) DEX:35(+50) VIT:10(+40) INT:0 MND:10(+40)
使用武器:ハンティングボウ
使用防具:シュートスコープ、ハンティングシャツ、獅子王の毛皮、ハンティングブーツ、トライスター・ベルト、クリムゾンガントレット、スコルピオスネックレス




