第九十九話:洒落になんねえな
「……皆、隊列はしっかりと組めたかい」
「タンク隊、何の問題もなく整列出来ました!」
アーサーの声にいの一番に応えたのは、タンク隊のリーダーであるギャラハドだ。
敬礼ポーズを取って、タンク隊全員がピシッと整った並びをしている。
「後方支援隊、同じく整列完了いたしました」
ローズは業務報告をするかのように淡々と答えた。
目が死んでいるみたいだけれど……この隊、何かあったんだろうか。
「回復隊も準備完了だ、いつでも始めてくれ」
イアソーンは自信満々にそう言い、右手に握る剣と左手に握る救急箱のようなアイテムを天高々と掲げた。
頼もしそうで何よりだ。
「我らも同じく、陣形は完成いたしました」
雑魚狩り隊リーダーのガウェインたちは縦一列に並び、ギャラハド同様敬礼ポーズを取っている。
……ユージンがガウェインの頭に人差し指を立てているのは、後でキチンと叱っておくとしよう。
「んー、帝国の十字架か、帝国の弓のどちらかで迷ってるわ」
「俺たちみたいにフリーファイトで並んどけよ……あ、ちゃんと並べてるぜ」
横一列で並ぶ俺たち遊撃隊に対し、陣形の美しさとやらで悩んでいるウズマキたち。
アーサーは『やれやれ』なんて言いながら、ウズマキがリーダーを務める中衛隊を並ばせ始める。
俺たちの遊撃と雑魚狩りを混ぜた陣形は元に戻り、アルトリアやKnighTたちが戻ってきた……ので、準備は万端だ。
「今回の都市解放戦をクリアすれば、新たな都市へと進める。
都市解放を行ったプレイヤーとしての称号と共に、数多のボーナスが入手できるだろう。
SBO内での栄誉栄達を思いのままに……さぁ行こう、同志たちよ!」
「応!」
アーサーのロールプレイ染みたその台詞に、皆が右手を挙げて応えた。
勿論、俺もそれにノって右手を挙げた。
「では……開門ッ!」
「原始的だなオイ」
凄まじくデカい扉、それもかなりブ厚そうなものを一蹴りで開けた。
ついつい声を出してしまったが……他の皆は慣れてるのか。
それとも、驚くほどのことでもないのかと黙っていた。
「タンク隊! 進め!」
タンク隊のリーダーであるギャラハドがそう叫ぶと、タンクの皆が一斉に走り出す。
少しばかり遅れて遊撃隊と雑魚狩りと攻撃隊、更に遅れて中衛、更に更に遅れて回復と後方支援。
七つの隊がアーサーを中心として並び、レイドボスと対峙する。
部屋の中心で座っていたボス……メガロスは立ち上がり、剣と盾を持つ。
『グオオオオオオオ!』
「よし……タンク隊! 僕が合図するまでひたすらに耐えてくれ! 回復隊は持続回復魔法を二十秒間隔でかけて、それ以外はブースト系魔法を! 中衛と後方支援と攻撃隊はいつでもスキルを放てるように!」
メガロスがまだ戦闘態勢に入る前に、アーサーは指示を下した。
タンクは横一列に並び、その後ろで俺たち以外のプレイヤーがスキルの詠唱を始める。
……雑魚狩りと遊撃隊には何も指示が下っていないので、今の俺たちは動いていない。
『オー!』
『ヤー!』
……等と思っていると、斧を持った兵士が床からポップし始める。
数は数えるのが面倒なほど、少なくともタンクたちに近づけたくないな。
メガロスも動き出したし、あの七本のHPバーを削るためにも、余計な奴は斬らなきゃな。
「遊撃隊、雑魚狩り隊は兵士を早急に仕留めてくれ! 絶対にタンクの方へは近寄らせず、そしてヘイトを集めるスキルは使わないように!」
「了解!」
「承りました、我が王よ!」
俺は腰から剣を抜き、雑魚狩り隊のリーダーであるガウェインと共に肩を並べる。
なんでコイツが第三回イベントで出なかったかは気になるが……今は雑魚を倒す。
それだけに集中して走り出す。
『ハー!』
「せぇっ!」
真っ直ぐに打ちかかってくる兵士の斧を盾で受けてから、別の兵士に向けて蹴っ飛ばす。
お互いにぶつかった兵士はそれでよろめき、バランスを崩した。
今なら攻撃を受け止められることはない、ので指示を出そうと思ったら。
「【ウェーブアタック】!」
「パワー・アックス!」
気の早いリンとアインがクリティカル攻撃を見舞っていた。
だが、二人の攻撃でも一撃で仕留めることは敵わない。
ので、アインがダメージを入れた方は俺が、リンの方はオリオンが。
「ハァッ!」
「潰れろォッ!」
さっきまで俺よりも三歩程後ろにいて、矢を番えていたはず。
なのに、この筋肉馬鹿みたいなアバターした男はこん棒を振り下ろしていた。
兵士の頭にゴツいこん棒が直撃し、床に埋め込むかのように潰されていた。
尤も、俺だって負けるつもりはないので一撃で兵士を叩き潰した。
「よし……どんどん行こう!」
「ほいほい! とっとと殲滅させて、ボスの方にも参加させて貰おうぜ!」
オリオンは矢を番え、二本まとめて放つ。
二本とも兵士の腕に突き刺さり、斧を振り上げた腕を止めた。
相手の攻撃の手が止まるってことは、近接で戦う俺たちにもありがたい。
「その心遣い、感謝!」
「助かったッスよ!」
オリオンが動きを止めた兵士を斬り、ガウェインとユージンが親指を立てる。
……そんな一方で、アルトリアとKnighTが凄まじい勢いで兵士を倒していた。
次々に突撃してくる兵士をいなし、無防備な頭を斬っては次の兵士の攻撃をいなす。
「流石ですね、あの騎士王の妹君なだけはあります」
「そういう貴様とて、私についてこられるとはな……流石、朧之剣の頭目だ」
「ライバルじみてますねー……」
「でも、いい仲で何よりだ」
リンと俺はまたも踏み込み、回復隊目掛けて進む兵士の前に割り込んでからスキルを使って兵士たちを一撃で斬り殺す。
ボスとの戦闘は亀のように流れが遅い、長期戦は必至か。
「次……!」
『ター!』
「間に合わ……オラァッ!」
兵士の数が多すぎて、こっちの処理が間に合わない時が来るとは思っていた。
だが、あまりにも早いだろ……と、俺は剣を投げてから心の中で呟いた。
投げた剣は兵士の首に突き刺さり、それをぶん殴って剣を回収。
「チッ……メガロスがいるんじゃ、広範囲攻撃も出来ねえぜ……!」
「仕方がありませんよ、モードレッド。
私とて、日光がないせいで出力は低下しているのですから!」
苛立ってそう呟くモードレッドに、苦虫を噛み潰したような顔をするガウェイン。
二人とも、この状況下のせいでスキルを使いたくても使えないのか。
……まぁ、俺だってあんまりスキルを使う余裕はないんだけどな。
「だあああああ! 数が多すぎるぜ!」
「文句を言うでない、レオ殿! そもそも自分で引き付けた敵であろう!」
レオとリュウの二人はかなりの大人数に囲まれている。
何とか割って入りたいが、こっちもこっちで手一杯だ。
数が多いとかそういう次元じゃないし、数も無数と言っても過言じゃない。
「どんどん数が増えてる……! これじゃすり潰されて終わっちゃうよ!」
「くっ、これでは雑魚を封じるどころか、俺たちが封じられるも同然……!」
「しかし兄よ、クリア不能な難易度に設定されているとは考えにくい。
とどのつまり、ここを凌げば勝機はあるはずです!」
数の多さを嘆くリンとカステロ、その気持ちはよくわかる。
だが、ボルクスの言う通り諦めたら勝ち目はない。
俺だって、こんな雑魚相手に諦めてやったりしてたまるかってんだよ!
「こうなったら……! 皆の攻撃を合わせるしかねえな!」
「……合わせる?」
打ちかかってくる兵士……正式名称、キロスを斬り払いながら、ガウェインが首をかしげる。
……メガロスの方は今タンクが攻撃を受けているが、必ず隙が出来る時がある。
数秒程のタメを作ってからの振り下ろし、それは絶好の攻撃チャンスである。
放てば七秒ほどの硬直が生まれ、メガロスは無防備な状態になる――
というのを、チラチラと見ていた本隊との攻防で理解した。
「アタッカーの皆がメガロスに攻撃する時。
その時なら、俺たちの攻撃でメガロスを巻き込んでも、タンクが引き付けてくれる。
だから……それまで、範囲攻撃スキルをチャージして待つんだ!」
「ハッハァ! そりゃわかりやすくていいじゃねえか! よし乗ったァ! お前の指示でスキルをブッ放しゃいいんだろ!」
「それしか手がないんだったら……俺もやるッス、よッと!」
モードレッドとユージンは乗り気なようだ。
他の皆に視線を向けると、応えるように武器を構えた。
アインも狂化状態になって双鉞を構える。
「アルトリア! KnighT!お前らはどうだ?」
「勿論……賛成だ!」
「悔しいですが、他に案がないのならば!」
二人同時にキロスを斬りながら、二人は承諾してくれた。
……よし、あとは――
「そこの囲まれてるバカ二人はどうだー!?」
「助かるならなんでも構わねーよー!」
「バカとはなんであるか! だが賛成!」
レオとリュウはこっちに怒りながらも、案だけは飲んでくれた。
皆の承諾も得た、となればメガロスのタメを待つだけだ。
メガロスがタメた攻撃を放った瞬間、一斉に範囲攻撃スキルを放つ。
それまでは、多少ジリ貧でもこれをどうにか凌ぐ!
『グオオオオオオオ!』
「チャージ攻撃が来るぞ! タンク隊は備えて!」
「来たか!」
アーサーの指示は、俺たちの攻撃準備の合図に等しい。
メガロスは、片手で持ち上げた巨大な剣に光を集めた。
『ガアッ!』
「流星盾!」
思い切り振り下ろし、派手なライトエフェクト共に爆音を響かせる。
それはカエデたちタンクが使った流星盾で受け止められる。
煙が晴れた時には、既に皆が攻撃準備を済ませていた。
「エクス……カリバーッ!」
「震天ノ太刀」
「アロンダイト!」
「【カンテス・トゥエルレイション】!」
「【鬼刻突】!」
「【ギガンティック・インパクト】」
「ヘルフレイム・フェニックス・ドライブ!」
聖剣の光り輝く一撃に続き、先輩の超高速の斬撃が、ランスロットの蒼く光輝く剣がメガロスの腹に、ユリカの高速12連撃の乱舞、ホウセンとヘラクレスの重い一撃がメガロスの脚に、最後にカイナスの放った不死鳥がメガロスの顔面で爆散した。
「こっちも負けられないわ! 【バレット・オブ・レイン】!」
「真・破滅ノ斬」
「流星槍!」
「来たれ水竜! 【イミテーション・トライデント】!」
「延長だ、【アンカー・ランス】!」
「【アローシャワー】、死になさい」
「【魔法剣】、【ダンシングスラッシュ】」
前衛七人の攻撃が終わると、今度は中衛七人の猛攻撃が始まった。
ウズマキとエンが弾丸と矢の雨を降らせ、ランコの流星がそれを装飾する。
更にはアンズの鎖の槍が硬直時間を伸ばし、イチカとタダカツの攻撃が決まる。
「これなら、俺たちも……!」
鎖の影響でメガロスが硬直する時間は伸びた。
奴が動けず、HPバーももう少しで一本削れる頃だ。
なら!
「皆――」
今だ、と言う前にもうスキルが放たれていた。
モードレッドの剣から迸る赤の雷、ガウェインの剣から放たれる炎の輝き。
「くらえ……! クラレントォッ!」
「太陽がなくとも、この剣は輝きを放つ! 【ガラティーン】!」
剣から伸びる赤い雷がメガロス諸共キロスを薙ぎ払った。
だが、それだけでは殺しきれずに生き残るキロスだっている。
そこに、ガウェインの放った太陽から生まれたであろう炎が生き残りを焼き尽くす。
「こっちも負けてられねえな……【エクスプロード・キャノン】!」
「そうだなー……俺も、広範囲魔法には自信があるんだ」
なんとオリオンは十本も矢を番え、それを一点に向けて放った。
矢がヒットすると、そこを中心としたドーム状の爆発が巻き起こる。
吹き飛んだキロスに着地の暇も与えず、カオスの氷と炎が爆発を上書きする。
「範囲攻撃は微妙ですけど……地雷ならいくらでもどうぞ!」
「僕だって……! シャイニング・アックス! 双鉞!」
俊敏に動き回り、爆撃を撒き散らしながらキロスの群れを駆け抜けるリンに――
久々に見る大技をぶっ放し、そのまま直接キロスを叩き斬るアイン。
さり気無く、ユージンも超高速移動しながらメガロスごとキロスを斬りまくっている。
「ホープ・オブ・カリバーン!」
「ヘルフレイム・バースト!」
「【破人爪】!」
「【ドラゴニア・ブレス】!」
アルトリア、KnighT、レオ、リュウの必殺スキルまでもが放たれた。
クソっ、乗り遅れたみたいでなんだか恥ずかしくなってきた。
「メガロス動き出すぞ!」
「フェニックス・ドライブ・マルチ!」
長いメガロスの硬直時間が終わり、HPバー1.5本分を削られたメガロスが立ち上がる――
と同時に、俺の放った七つの不死鳥が真っすぐに飛んで行き、あちこちで爆発する。
当然、メガロスも巻き込んで爆発しているが……タンク隊がヘイトを稼ぐスキルを使った。
のでこっちもキロス狩りに集中できる!
「メガロス跳ぶぞ! 全員備えて!」
「ちょっと待て!今……!」
「レオ殿に同じく──っ!」
メガロスがジャンプしての地ならしの行動に入り、俺はメガロスと同じようにジャンプ。
俺と同じようにジャンプする者、キロスをジャンプ台のように踏みつける者もいた。
だが、運悪く硬直時間の長いスキルを発動していたプレイヤー……リュウとレオの二人が、メガロスの地ならしをモロに受け、行動不能デバフと強制ヘイトアップがついた。
こうなると、メガロスはともかくキロスがレオたちをボコ殴りにし始める。
恐らく三桁を越えるであろう数のキロスがレオたちに迫る。
「ま、待て……! 話せばわかる! だからちょっと──っ!」
「だ、誰か……!たすけ――」
ドカドカドカドカドカ……と、まるで不良漫画のリンチシーンのような攻撃が続いたと思うと。
二人は跡形もなく消え去っており、俺と近くにいたガウェインは目を合わせる。
「……洒落になんねえな」
「そうですね」
心無しか、ガウェインの目が死んでるような気がした。
タンク隊メンバー
【ハル】【カエデ】【ギャラハド】【焼豚】【米丸】【サッカッカー】【ジュン】
攻撃隊メンバー
【アーサー】【ユリカ】【ランスロット】【N・ウィーク】【ホウセン】【ヘラクレス】【カイナス】
後方支援隊メンバー
【アタルンテ】【ローズ】【ディララ】【ツブラ】【トリタンス】【エルフィア】【ニナ】
回復隊メンバー
【メディア・ラハン】【フローレンス】【アスカレピアンス】【ヤマダ】【イアソーン】【スズキ】【サトウ】
雑魚狩り隊メンバー
【ユージン】【ガウェイン】【モードレッド】【カステロ】【ボルクス】【リュウ】(死)【レオ】(死)
中衛隊メンバー
【ランコ】【タダカツ】【アンズ】【ウズマキ】【エン】【オロチ】【イチカ】
遊撃隊メンバー
【ブレイブ・ワン】【KnighT】【アルトリア】【アイン】【リン】【オリオン】【カオス】




