3.小夜子 通過儀礼③
私は一息つこうと思い、紅茶を入れる。今日は砂糖も入れず、苦めの紅茶が飲みたい気分で、ダージリンのティーパックを長めにカップに浸す。自分好みの苦みを待つ間、私は一連の作業を続けてきた部屋を見渡す。棚の中はほぼ空となったが、大きなダンボール箱の山ができていた。片付けた気にはなっていたが、部屋から何一つ亮平グッズはなくなっていない。ただ、棚から箱へ移動しただけなのだ。貰ってきた空のダンボール箱の残りもあと2箱となり、この箱が終われば全てが終わるのだろうか、そう思いながら、ティーパックをカップから取り出し、ゴミ箱に放り込む。このティーパックのように、簡単に捨てられないのはなぜだろう。私はそう思いながら、紅茶を口に含む。「にがっ。」当たり前のことを口に出し、時計を見る。時計は23時をさしていた。あと1時間で私は30歳となる。
私は残り2箱を組み立て、再度棚の前へ向かう。棚には大きめのBOXがあり、その中にはライブグッズを収納していた。ペンライト、タオル、パンフレット、これも今までの歴史を感じさせるかのように並んでおり、私に「これで本当にいいのか?」と訴えかけているように見えた。だが、私はそれを見て見ぬフリをし、どんどん箱に詰める。ライブの思い出を思い出してはいてはキリがない。ここで思い出しては私の心は決壊する。そう思った。
ライブグッズの中には自作のうちわもあった。いくつか作ったが、それらも公式のうちわとともに保管していた。自作うちわは、基本同じものをライブには持って行った。「このうちわ、どこかで見たことあるな?」と少しでも亮平に思ってもらいたかったからだ。亮平が覚えていてくれるほどの、そこまで記憶に残るようなうちわではないとはわかっていたが、勝手にそう思いたかった。そのうちわも一緒に箱へ詰めた。いよいよ自分の気持ちをおさめる時がきた、そんな感情にかられた。
私は、0時を迎えるまで、30歳となるまでに、全ての梱包作業を終えた。ダンボールの中に物理的に亮平を押し込める行為はひとまず成功を収めた。それは、20代最後の頑張りだった。物理的には、、、成功した?!じゃあ、私の精神的には、、、?成功した?この一連の作業の中で一番考えてはいけないと避けてきた感情と対峙する。ふと、ポスターの亮平に目をやる。彼は複雑な顔をしていた。いや、実際には彼の表情は何一つ変わってはいない。だが、目の前にいる亮平は何か言いたげで、でもオレからは何も言えない、そんな顔をしていた。
「そうだよね。これからどうするか、なんて私が決めることなんだよね。」
私はそう亮平に話しかけ、すでに冷えてしまった紅茶の入ったカップを持って立上がり、キッチンへ向かう。そして、自身の中で今湧き起こるどうしようもない感情も同時に吐き捨てれたらいいのに、そう思いながら勢いよく、シンクに冷え切った紅茶を流した。




