4.亮平 葛藤
「おつかれまでしたー。」
オレはスタッフさんに声をかけ、テレビ局をあとにする。今日は、「Book Time」の収録だった。趣味の読書が高じて、持たせてもらえるようになったオレの番組だ。週1回30分ほどの番組だが、収録自体は2回分をまとめて行う。オレは番組内で、毎回1冊の本を紹介することになっているが、それに備え収録までに本を読んでおかなければならない。そして、その本の作家のことやその本について解説すべき情報なども自身で調べている。また、毎回来ていただくゲストが紹介する本にも目を通す。ゲストには作家はもちろんのこと、芸人や歌手、タレント、評論家などさまざまな方が来られるが、紹介される本もまた多種多様で、オレはそのおかげでさまざまな方面への知識に詳しくなったように思う。
ただ、この本を読む作業が時に苦しい時がある。趣味は読書と言い切れるほど本は好きだが、MVの撮影やCDのレコーディング、雑誌の撮影、取材など、Earthの活動が過密になる時は、なかなか自身の思うように読書の時間が取れず、「収録までに読む」行為が、苦行となる。眠気に襲われながらの読書は大事な書き手の気持ちを見逃してしまう場合もある。読んでいるようで読んでいない、そんな時もある。これが完全に趣味の世界なら、また読み返せばいいだけのことだが、収録というリミットがある限り、そうはいかない。
しかし、オレはそんな時は、ファンのことを思い浮かべる。オレよりもっと大変なことを乗り越えているかもしれない。いや、乗り越えているに違いない。大事なプレゼンに備え膨大な書類と格闘しているかもしれない、毎日介護に追われているかもしれない、一刻を争う命と向き合っているかもしれない、受験勉強、就職活動、子育て、考えばキリがないほど、それぞれが大変なことを抱えているだろう。そう思うと、たかが本を読むだけではないか、むしろ好きでやらせてもらっている仕事だ、弱音を吐いている場合か、そんな事を思う。ファンには、いつも元気をもらっている、支えてもらっているとファンレターなどで言ってもらうことが多いが、オレの方こそファンという存在があってこそのオレだと常々思っている。
今オレは、収録を終えたその足で、事務所に向かっている。普段あまり事務所へ足を運ぶことはないが、今日は大事な話があるということで呼び出された。全く見当がつかないので、妙な胸騒ぎがしないでもないが、あれこれ考えても仕方ない。とりあえず行ってみて、話しを聞いてからあれこれ考えようと思っている。
オレは事務所に着くと、社長室へ通される。
「橘くん、お疲れ様。座って座って。」
と社長はいつも気さくに話しかけてくれる。オレは「失礼します。」と一礼し、ソファに腰を下ろす。
「橘くん、最近仕事はどう?充実しているかい?」
と問われる。オレは一瞬答えに詰まる。今の仕事に不満はない。楽しく仕事をしている。ただ、「充実」この言葉に引っかかりを感じた。
「ええ。忙しくさせてもらっています。とても楽しく仕事をしています。」
と慌てて回答する。
社長は眉をひそめ、
「充実はしていないんだね?君の今の回答、表情、そこからわかったよ。本音はどうなんだい?今、ふと思ったことを口に出してみるといい。」
とたたみかける。
オレは目の前に置かれている冷えた麦茶を一気に飲み干し、社長と向き合った。




