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取調室

花音の母親・瑞穂登場!!

 沙知達が深山香奈江に事情聴取をしている頃。警視庁にある取調室の一つに三人の人間がいた。


 一人は課長である白鐘卯月。もう一人は記録係の女性警官。そして最後の一人は、今回の事件の重要参考人である木下瑞穂だ。


 瑞穂は、黒いショートボブの髪が似合う美しい女性だった。しかし、顔色は悪く、終始俯いている。


 卯月は、そんな瑞穂を真っ直ぐに見つめながら尋ねた。


「では、あなたは沼畑悟志さんを殺害していないと言うんですね?」


 瑞穂は、バッと顔を上げて訴える。


「そうです! 私は悟志さんを殺してなんかいません!……確かにいなくなってくれれば良いとは思ってましたけど、実際に手を下すなんて……!!」

「でも、凶器はあなたの物なんですよね?」


 現場検証の際、遺体の側に落ちていたナイフが押収され、凶器と断定されている。


「確かに、写真で見せてもらったあのナイフは私の物です! でも、それは護身用で……。実際に刺してはいません! ナイフは、いつの間にか無くなっていたんです!」


 確かに、ナイフを他人が持ち出す事は可能だ。瑞穂は、ここ数日泊まり込みで更生プログラムを受けていたのだから。

 ナイフの柄には一つも指紋が付いておらず、瑞穂以外の人物がナイフを使った可能性は十分にある。


 しかし、凶器以外にも瑞穂を疑わざるを得ない状況があるのだ。


「瑞穂さん、あなた、事件のあった夜に礼拝堂を訪れていますね?」


 瑞穂が、ビクリと身体を震わせる。卯月は、真っ直ぐと瑞穂を見据えたまま言葉を続けた。


「事件のあった夜、二十時頃、あなたが礼拝堂の方に向かうのを見た方がいるんですけどね」


 瑞穂は、苦しそうな顔で答える。


「……確かに、二十時頃、礼拝堂に行きました。事件当日の朝、私が泊っていた部屋のドアにメッセージカードが挟み込まれていたので……」


 そのメッセージカードには、『花音さんの事で話があるので、今日の二十時に礼拝堂に来て下さい』と書いてあった。差出人は不明。パソコンで文字を印刷したらしく、筆跡も不明。


「そのメッセージカードは、今も持っていますか?」

「いいえ。読んだら捨てるようカードに書いてあったので……」

「そんなよく分からない指示に従ったんですか?」


 卯月の言葉に、瑞穂が身を乗り出すようにして答える。


「事情があると思ったんです! 私は花音への虐待を放置していました。だから、私が今後花音と関わりを持つ事に反対する人もいます! だから、メッセージを書いた人も秘密裏に私に花音の情報を教えてくれようとしているのかと……」

「で、二十時頃礼拝堂に行ったと……」

「はい。……でも、私が礼拝堂に行った時、悟志さんはもう亡くなっていたんです」

「遺体を発見したという事ですか? それなら何故通報するなりスタッフを呼ぶなりしなかったんですか?」

「それは……私が疑われると思ったんです。悟志さんが私に付き纏おうとしていた事は周りも知っていますから……」

「……成程」


 言わんとする事は分かる。確かに、瑞穂が通報したとしても警察は瑞穂を疑っただろう。それでも……。


「それでも、通報はするべきでしたね。警察だってバカじゃない。あなたが礼拝堂にいた事はいずれ発覚したでしょう」

「はい、申し訳ありませんでした……」


 卯月は、ジッと瑞穂を見つめる。嘘を吐いているようには見えなかった。



 そろそろ取り調べも休憩しなければいけない。卯月は、最後に質問した。


「瑞穂さん。あなた、本当に護身用としてナイフを持っていたんですか?」


 瑞穂は、一瞬目を見開く。そして、諦めるように溜息を吐いて答えた。


「……いいえ。本当は、いざとなれば悟志さんを殺害しようとしていました。もし切羽詰まった悟志さんがまた花音に接触したらと思うと気が気じゃなくて……」


 卯月は、溜め息を吐いて呟いた。


「そこまで花音さんの事を大事に思っているのなら、どうして虐待を止めなかったんですか……」


 瑞穂は、俯いたまま涙目で言う。


「……あの時の私は、どうかしていました。悟志さんに縋らないと、私も花音も生きていけないと思っていたんです」


       ◆ ◆ ◆


 瑞穂は、酒を飲んでは暴力を振るう父親とネグレクト気味の母親に育てられた。瑞穂が高校生になってバイトをするようになると、彼女の給料が搾取されるようになる。


 それでも優しい叔父が学費を出してくれたおかげで大学へと行く事が出来た。そして大学を卒業すると、瑞穂は食品加工会社でOLとして働き始める。


 そしてOBとして大学のコンパに参加した際、堀江雅人と出会った。すぐに意気投合し、二人は付き合い始める。


 話題が豊富で優しい雅人と話すのは楽しかった。このままずっと雅人と一緒にいられると思った。


 でも、そんな生活は長く続かなかった。絶縁していたはずの両親が、瑞穂が一人暮らしをするアパートに押しかけて来たのだ。


 金を無心しに来た両親から逃げて引っ越した瑞穂。その際、迷惑が掛からないように雅人とは連絡を絶った。会社も辞めた。


 そして雅人と別れて間もなく、花音の妊娠が判明した。戸惑いながらも出産した瑞穂。

 シングルマザーとして花音を育てていたが、子供を育てながら仕事をするのは難しく、やがて水商売の世界に足を踏み入れる。


 クラブのママに花音を預けながら働く毎日。そんな中で会ったのが沼畑だった。

 沼畑は暴力団との関係もある半グレだったが、稼ぎは多かった。

 沼畑に気に入られた瑞穂は、花音にお腹いっぱい食べさせる事が出来るのならと沼畑と付き合う事にした。


 しかし花音が七歳くらいの時から、瑞穂は違和感を抱いた。花音が異常な程沼畑との接触を怖がるようになったのだ。


 薄々気付いてはいた。自分が沼畑に花音を預けている間に何かあったんじゃないかと。しかし、沼畑がいるおかげで花音を食べさせる事が出来ている。


 瑞穂は、自分の抱く違和感に蓋をする事にした。そして、不安を忘れるようにお酒に溺れていった。


 そして、花音が九歳になるかならないかの時、事態が動く。沼畑と二人きりで自宅にいた花音が大怪我をし、病院に運ばれたのだ。


 医師は、花音の痣などから虐待を疑い警察に通報。沼畑は逮捕され、アルコール依存症になった瑞穂は更生施設に通う事になった。


       ◆ ◆ ◆


「……ナイフを持っていた事は認めますが、私は悟志さんを殺害などしていません」


 改めて瑞穂が無実を主張した。卯月はそんな瑞穂をジッと見た後、ニコッと笑って言った。


「分かりました。取り敢えず、休憩しましょうか」

次回も読んで頂けると嬉しいです!

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