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ルピナス

捜査に参加出来る事になった花音達は、事情聴取を始める。

 翌日の朝。私、御厨さん、花音さん、堀江先生の四人は『ルピナス』を訪れていた。花音さん達の同行が許可されたのだ。



 私達が応接室で待っていると、ノックが聞こえた後ドアが開かれた。入って来たのは、二人の人物。


 先に入って来た人物を、私は無言で観察する。

 長い黒髪を緩く一本の三つ編みにした女性。年齢は四十代くらい。くすんだ緑色のワンピースと白いカーディガンが良く似合っている。美人だ。

 ただ美人というだけではない。縋りたくなるような、人を惹き付けるオーラを纏っている。


 その女性は、少しタレ気味の目で真っ直ぐと私達を見て言った。


「私、『ルピナス』代表の深山香奈江みやまかなえと申します。刑事さんお二人には一昨日もお会いしましたよね? 今日は捜査協力者の方々もいらっしゃると伺っております。何か聞きたい事がありましたら遠慮なくどうぞ」


 御厨さんが、ソファーから立ち上がって挨拶する。


「ご協力感謝致します。改めて名乗りますが、私、捜査一課の御厨圭介と申します。こちらにいるのが同僚の小川沙知。その向こうにいるのが捜査協力者の木下花音さんと堀江雅人さん」


 その名を聞いた深山さんが、目を見開いて花音さんを見る。


「……木下と言うと、もしかして……」


 御厨さんが、頷いて答える。


「はい。ここに通っていた木下瑞穂さんの娘さんです」

「木下花音です。宜しくお願い致します」


 花音さんが頭を下げる。……いや、実は、花音さんではない。秀一郎さんだ。花音さんのままだと冷静に推理出来ないと踏んだ秀一郎さんが、表に出る人格を交代したのだ。


「まあ……瑞穂さんから花音さんの話は聞いていましたけれど、まさか捜査協力者になる程優秀だったなんて……」


 深山さんが頬に手を当てる。御厨さんは、深山さんの後ろに立っている人物の方に視線を向けて尋ねた。


「あの、葛西かさいさんの事も捜査協力者の二人に紹介したいのですが、宜しいでしょうか……?」


 深山さんは、後ろを振り向いて笑顔で答える。


「ああ、こちらは、この施設の利用者で、葛西尚史(なおふみ)さんです。私と一緒にご遺体を最初に発見した方ですよ」


 葛西さんと呼ばれた男性は、一歩前に出ると、頼りなさげな声で挨拶した。


「……葛西です。宜しくお願い致します……」


 私は、さりげなく葛西さんを観察する。年齢は二十代後半から三十代くらい。身長は成人男性の平均位だろうけど、猫背なのでもっと低く見える。それでも深山さんよりは身長が高いけど。



 全員がソファに座ると、御厨さんが早速質問を投げる。


「では、先日もお聞きしたと思いますが、ご遺体を発見した経緯からお話し頂けますか?」


 深山さんは頷くと、一昨日の事を話し始めた。


       ◆ ◆ ◆


 そもそもの話、『ルピナス』はアルコール依存症を始め、様々な依存症で苦しむ利用者の社会復帰を手助けする目的で作られた施設である。


 そして、利用者は自宅から『ルピナス』に通ってグループカウンセリングを受ける事が多い。しかし、泊まり込みで施設の庭にある家庭菜園の世話をしながらカウンセリングを受けるという選択肢もある。



 事件が起こった十二月十八日木曜日。十九時三十分近くに、深山さんは礼拝堂を訪れた。夕食後に礼拝堂で祈りを捧げるのを習慣としているからだ。

 その時間礼拝堂には、深山さんの他に二人の人物がいた。


 一人は、『ルピナス』の副代表である大平隆一郎おおひらりゅういちろう。もう一人は、家庭菜園の管理や備品の手配などをするスタッフの新木あらきなごみ。


 礼拝堂の壁に掛けられている風景画が落下してしまったので、新木さんはその絵を掛け直そうとしていた。でも絵を掛ける位置が高すぎて届かないので、大平さんに手伝ってもらっていたらしい。


 ちなみに、この施設ではデジタルデトックスの為、毎週木曜日には利用者のスマホの使用を禁止している。礼拝堂を訪れた時間が分かるのは、深山さんが腕時計をしていたからだ。


 大平さんは夜勤のようなものだからともかく、若い女性である新木さんを夜遅くまで拘束する訳にはいかない。深山さんは数分祈りを捧げた後、新木さんに早く帰るように言い、礼拝堂を後にした。


 そしてすぐ、深山さんは施設内にある談話室へと向かった。夕食後、談話室には泊まり込みの利用者が集まっている事が多いので、何か困っている事が無いか聞こうとしたのだ。


 深山さんが談話室に足を踏み入れたのは、十九時四十分から四十五分頃。

 談話室には、三人の利用者が集まっていた。深山さんは利用者達と雑談したりトランプをしたりしていたが、ふと気付いた。談話室の壁に掛けてある時計が止まっていたのだ。


 深山さんは、電池のストックがある場所が分からないので、大平さんに聞きに行こうとした。そして、利用者の一人である葛西さんも大平さんに用があると言うので、一緒に礼拝堂に行く事にした。


 まだ大平さんが礼拝堂にいると信じて、二人は談話室を後にする。その時刻は、腕時計によると二十時四十分頃。

 そしてその数分後、礼拝堂に足を踏み入れた二人は、沼畑の死体を発見したというわけだ。

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