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依存していたのは

犯人が依存していたのは……。

 改めて、事件当日に何があったのかを整理しよう。


 十九時三十分頃、深山さんが礼拝堂に足を踏み入れる。

 十九時四十五分頃、深山さんが礼拝堂を立ち去る。その直後、新木さんが脚立を持って礼拝堂を出る。


 礼拝堂に新木さんがいた事が想定内なのかどうかはまだ分からない。しかし、深山さんとしては新木さんに早く帰ってほしかっただろう。


 礼拝堂で一人になった大平さんは、急いで床下の収納スペースから血文字の書かれたシーツを取り出し、壁に貼り付ける。

 大平さんは身長が高いので、あの位置に張り付けるのなら脚立を持って来たりする必要は無い。


 そして、作業を終えた大平さんはすぐに礼拝堂を出て、事務室のパソコンで仕事をする。自身のアリバイを作る為だ。


 大平さんがシーツを張り付けている最中か張り終わった直後かは知らないけれど、立ち去った振りをした深山さんが礼拝堂に戻って来る。

 収納スペースにはシーツの他に使い捨てのレインコートも入っており、深山さんはそのレインコートを着用。


 十九時五十分頃としておくけれど、その辺りの時間に沼畑が礼拝堂に足を踏み入れる。沼畑はレインコートを来た深山さんや血文字の書かれたシーツに驚くと同時に深山さんに刺される。凶器は、深山さんが事前に瑞穂さんのバッグから失敬していたナイフ。

 時間がピンポイント過ぎると思うけれど、「こっそり会いたいからピッタリこの時間に来て下さい」とか言われたら沼畑は応じそうだ。


 その後深山さんはレインコートを脱ぎ収納スペースに押し込む。そして、動揺する心を落ち着ける為にトイレかどこかで時間を潰す。

 その間に瑞穂さんが礼拝堂に入り、沼畑の遺体を発見。疑われる事を恐れ逃走。


 そして二十時十五分頃。心を落ち着けた深山さんは、何事も無かったかのように談話室を訪れる。もちろん、自身の腕時計の時刻を十九時四十五分頃にするのを忘れずに。


 深山さんと葛西さんが談話室を出たのが何時かははっきりとは分からない。でも、談話室にいたメンバーが時間の経過を早く感じたようだから、二十時四十分とそんなに変わらないのかもしれない。


 そして深山さん達は礼拝堂で遺体を発見。二人で本館に走り、本館の電話から110番をした。警察の記録によると、110番された時間は二十時五十分だから、辻褄は合う。


       ◆ ◆ ◆


「大平さんは、今他の部屋で取り調べを受けています。大平さんが自供したら、もう言い逃れは出来ませんよ」


 御厨さんの言葉に、深山さんが唇を噛む。


大平さんの取り調べをしているのは、白鐘課長。課長の腕なら、大平さんに自供させる事が出来るだろう。


「……あの男が悪いのよ。あの男、私が瑞穂さんに取り次がないと知ると、私の周辺を調べ始めたの。そして、私達の弱みを握って脅して来た……!!」




 話によると、沼畑が『ルピナス』に現れて瑞穂さんと会わせろと言い始めたのが十二月四日頃。


 中々瑞穂さんと会えない沼畑は、瑞穂さんから金を引き出せないならと深山さんの周辺を調べ始めた。沼畑は一時期探偵事務所で働いた経験があり、調査方法を知っていたらしい。


 そして、沼畑は深山さんと大平さんの弱みを握った。深山さんは大平さんと共謀して、『ルピナス』への助成金を不正に受け取っていたのだ。


 沼畑が深山さんを脅迫し始めたのが十二月十五日。その日の夜、礼拝堂には深山さん、大平さん、沼畑の三人がいた。


「……うちも経営が厳しいの。こういう事は今回限りにして頂戴」


 そう言いながら、深山さんが沼畑に三十万円の入った封筒を手渡す。沼畑は、早速封筒から札束を出して枚数を数え始めた。


「今回限りなんてつれない事言うなよ、深山さん、大平さん。俺が役所にでもタレ込んだらここは終わりなんだから、もっと仲良くやろうぜ。そうだな……来月には、追加で二十万円貰おうか」


 それを聞いて、深山さんは「あ、この人を生かしておいたら駄目だ」と思ったらしい。

 そして、翌日大平さんと相談し、今回の事件を計画したという事だ。


 そして、瑞穂さんが疑われれば儲けものというくらいの気持ちで、瑞穂さんのバッグからナイフを拝借し、事件当日瑞穂さんを呼び出したらしい。

 確かに瑞穂さんには沼畑を殺害する動機があるけど、許される事では無い。




「……確かに助成金を不正に受け取っていたのは悪かったわ。でも、『ルピナス』では、皆が私を頼ってくれた! 『深山さん、深山さん』って笑ってくれた! あそこは、私の楽園なの! その楽園が無くなるなんて、あんまりじゃない!」


 そう叫ぶと、深山さんは机に突っ伏して泣き出してしまった。


 ……ああ、『ルピナス』は、依存症患者達の更生施設だけど、深山さんは『ルピナス』そのものに依存していたのかもしれない。


 私は、泣き続ける深山さんを憐みの目で見つめていた。

次回で完結です!

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