順番が逆
事件の詳細が明らかに……!
そして現在。
「で、でも、アリバイ工作がなされた可能性があるっていうだけですよね? 実際にアリバイ工作が行われた証拠があるんですか!?」
取調室の中で、深山さんが叫ぶ。御厨さんは、落ち着いた様子で答えた。
「物的証拠と言えるかどうかは微妙な所ですが、ありますよ、証拠」
「……は?」
「あなた、知らないでしょう。葛西さんが『ルピナス』の規則を破っていた事を。葛西さんは、木曜日にも関わらず、スマホを談話室に持ち込んで利用していたんです」
私は、また一昨日の事を思い出した。
◆ ◆ ◆
秀一郎さんと御厨さんが深山さんのアリバイ工作について説明してくれた直後。私は秀一郎さんに言った。
「葛西さんは、事件のあった日の夜、禁止されているにも関わらずスマホを談話室に持ち込んで使用していました。彼がスマホを使用していたのは、深山さんが談話室を訪れる直前。私は、『ああ、十九時四十五分頃にスマホを使用したんだな』とだけ思ってスルーしてしまいましたが、アリバイ工作が行われたとなれば話は別です」
そう。実際に葛西さんがスマホを使用したのは、もっと後。仮にアリバイ工作で三十分のズレが生じたとすると、二十時十五分頃に使用した事になる。
その時、葛西さんは談話室で遠くにいる友人と通話していたらしい。ところが、廊下から響く足音を聞いた談話室の仲間が慌てて言う。
「おい、誰か来たぞ!」
「早くスマホを仕舞え!!」
そして、葛西さんは慌てて通話を終了し、スマホをズボンのポケットに仕舞う。電話が掛かって来たのは向こうからだし、慌てていたので通話を終えた時間も覚えていない。
秀一郎さんと御厨さんの話を聞いた私は『ルピナス』に取って返し、葛西さんにスマホを見せてもらった。
通話履歴を見ると、事件のあった日の二十時十二分頃に通話をした形跡があった。大体仮にしておいた時間のズレと合っている。
◆ ◆ ◆
「というわけで、あなたのアリバイは崩れました。沼畑さんを殺害できるのは、あなたしかいません」
取調室で御厨さんが断言する。深山さんは、身体を震わせながら声を絞り出す。
「……そんなの、外部の人間が犯行に及んだのかもしれないじゃない。それに、そうよ! 現場には、血文字の書かれたシーツが張り付けてあったわ! 遺体を発見した時に見たけど、結構高い位置に張り付けてあったんじゃないかしら? あれを張り付けるなら、倉庫から脚立を持って来て、画鋲で何か所か留めて、更に脚立を倉庫に戻さないといけないわ! 私にそんな時間あったかしら?」
「外部の者が? わざわざ血文字の付いたシーツを持ち込んで? 利用しているわけでも無い施設で犯行に及んだと言うんですか? 考えにくいですね。 それに、あなたが犯人でないのなら、あなたがアリバイ工作をする理由が思いつかないんですよ」
ちなみに、瑞穂さんが犯人だとも考えにくい。今回の事件は計画的犯行に思えるのに、凶器は遺体の側にそのまま置いてあった。瑞穂さんが犯人なら、自分の持ち物を凶器にしておいてそのまま放っておくだろうか。
「それと、あなたが脚立を持ってきたり戻したりする必要は無いんですよ。――大平さんが、シーツを張り付けてくれますからね」
御厨さんの言葉に、深山さんが大きく目を見開く。
私は、一昨日の秀一郎さんの言葉を思い出した。
「順番が逆なんだよ、順番が」
この言葉の意味が、今なら分かる。犯行の後でシーツが張り付けられたのではない。犯行の前に、シーツは張り付けられていたのだ。
シーツを張り付けたのは大平さん。つまり、深山さんと大平さんは共犯となる。
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