第8話
ガラスの風鈴のからん、という乾いた音が鳴った。
同時に「はい、足の爪、全部切れたで」というあおいの声がして、はっとした。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「さっきから電話何回も鳴ってたで。彼氏さんちゃうん?」
「あ、ほんま? そのスマホ、なんか知らんけど、振動したりせんかったりするからな」
「いや、めっちゃ振動してたし」
「そうなん? 起こしてくれたらよかったのに」
寝てしまっていたことを誤魔化そうと思ったけど、どうやらバレていたみたいだったので、素直に認めた。
「嫌や」
起き上がって、スマホの履歴を確認しながら、なにが嫌なん? と訊いた。するとあおいがまた、
「嫌や」と言った。
私は、スマホから顔をあげて、あおいを見た。あおいは窓の外を眩しそうに目を細めてぼんやりと見つめていたが、ゆっくりとこちらに顔を向けて、私と目を合わせた。「だからなにが嫌なんよ」という言葉が歯の裏に触れるくらいまで出てきていたのを、ぐっと飲み込んで胸の奥にしまい込んだ。胸の奥で軋む音がした。
あおいはいつの間にか浅黒く日焼けをしていて、緊張感のある白く光る眼が、浮いて鋭く見えた。鼻の先は丸くなっていて、そこにだけ少年のような幼さが残っている。
「せっかく来てくれたのにな、ごめん。今から出て来いって言うてはるから、行くわ」
私は、できるだけさり気なく、できるだけいつも通りに言った。
「むーん」
「せやから、なんやねん、その、むーんって。笑かさんといてや」
大げさに笑って、身支度をはじめた。あおいも一緒に笑って、なにごともなかったみたいに普段通りになった。コンタクトをするとあおいが、
「一〇分もかからんやん」と言った。
「やればできるねん」
それでまた二人で笑った。いつからあおいがこんなにも私の生活の中に浸透してきていたのだろうと、考えていた。胸が苦しくて吐きそうになったけど、それだけは絶対にバレないようにしないと。




