第43話
仕方ないので、あおいのすべてを手に入れても、不安でしょうがないまいちゃんに説明してあげた。まいちゃんははっとしたように息を吸い込む。
「あおい君が、いつも絹夏さんの話しばっかりするから、絹夏さんのこと好きなん? って聞いたんです」
病院を出ると、ひんやりとした風が身体を包み、わずかに肌寒さを感じて、いつの間にか、季節が進んでいたことに気がついた。
「そしたら、そんなんじゃないって言うから、じゃあ、友だちってことでいいの? って聞いたら、そんなんでもないって」
立ち止まってまいちゃんの顔を見た。浅黒い肌が太陽の光を反射させていた。まいちゃんの背後の花壇に、背の高いひまわりが等間隔に並んで植えられていて、まいちゃんの集団がいるみたいな錯覚にとらわれた。
ひまわりはどれも枯れて茶色くなって、かさついていた。
「そんなあやふやな関係、私には理解できないから別れようって言ったら、じゃあ、仕方ないねって。それで別れたんです」
「それで?」
「どういう関係だったんですか? セフレってこと? 私には納得できない。そんな関係、どうしても許せない。そんなあおい君も嫌い」
「だから私とあおいは、そんなんじゃないって言うてるやん。手を繋いだこともキスしたこともないよ、心配せんでも」
足の爪を切ってもらったり、抱きしめたことはあるけどね。でも、そんな大切な話、絶対に教えてやれへんよ。
「あおいはもう私のことは忘れてるんやし、もういいやん。いったい何が不安? 自信持ったら?」
なんで私がまいちゃんを励ましたらなあかんのやろ。あほらしい。
まいちゃんは大きな瞳にたっぷりの涙をためて、私を睨む。一応、罪悪感みたいなものに囚われているのだろうと思った。まいちゃんはあおいのことが精一杯に好きなんだと思うといじらしくなって、なんだか少し気持ちが楽になった。
そんなにあおいのことを想ってくれてるんなら、まあ、いいか。
いつかあおいには彼女が必要だったし、結婚しなくちゃいけないし。いつまでも、私みたいなんが恋路を邪魔しとったらあかんしな。
あおいは私との過去を失った。
私は? こんなにつらいけれど、今日眠れば、今日の記憶は全部なくなって、また新しい記憶に塗り替えられるのかも知れない。
だとしたら今日も頑張って生きられるんじゃないだろうか。今日の最後までちゃんと、生きて苦しんでいる自分を見届けよう。
昨日になる前に。




