表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カーマインレッドの明けない夜  作者: 宝や。なんしい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/45

第38話

 それでも病院に通うのはやめなかった。毎日、毎日、通い続けた。もう仕事も大澤さんも、日常ですら、なにもかもどうでもよくなっていた。あおいのお母さんがどんなに迷惑そうな顔をしていても、関係ない。


 あおいは私が現れると、ちょっと嬉しそうな顔をするようになった。私のことはあいかわらず、何ひとつ思い出すことはなかったけど、きっといつか思い出してくれるだろうと、根拠もなく信じることにした。


「事故にあった時のことは覚えてんの?」

「いや、あんまり。でも、道路の真ん中で、大の字で寝っ転がってるとき、空がきれいやなあ、って考えてたと思う」


「どんな空?」


「真っ赤な空」

「真っ赤?」


「うん、真っ赤やった、確か」


「でも、朝じゃなかったはずやんね、その時間帯って、確か」


 あおいは何か考えるときにするいつもの、ちょっと首をかしげるポーズをしてから、「そうやな」と言った。そして、何でやろ、と私に聞いた。


「知らんがな」


 そして、確か、夜やったような気がするな、でも真っ赤な夜って、そういや変やな、と独り言のようにぼそぼそと呟いていた。


「管理人は現れへんかった?」

「管理人?」

「そう、神様の管理人。お前、何をしてるんだ、って言われへんかった?」


「なに、それ? 神様が迎えにきたら、そこでもう死んでるやん」


 あおいはそう言って、微かに笑った。私も、そうやね、と言って一緒に笑った。


 私が毎日来るので、まいちゃんも毎日現れるようになった。アルバイトも辞めたようで、大学もしばらく休むと言って、お母さんに「私がいるから安心してね」と伝えていた。

 それでも私のほうがいつも先に到着していて、寝坊気味のまいちゃんは、いつもぐらぐらと不安定な身体を揺すりながらやって来ては、私の姿を見ると、いつも顔を歪めた。

 歩くたびに、カンカンとやかましいサンダルの先は、少し破けていて、まつ毛とかマニキュアとかはきれいにつけているだけに、よけいにだらしなさがクローズアップされる。


 それでも、お母さんはまいちゃんが来るとほっとするようだった。


 まいちゃんは、あおいのそばにいた私を押しのけて、あおいの手足を濡れタオルで拭いた。ぽっちゃりした体型には力強さがあって、私なんてすぐに弾き飛ばされてしまう。

 まいちゃんの後ろ姿は、だらしない豚みたいだった。あおいは「まいちゃんにこんなことしてもらえる日がくると思わんかったわ」と嬉しそうに言う。


「気持ちいい?」

「うん、めっちゃ気持ちいい」


 そしてあおいは、いつもありがとう、とお礼を言った。


「気にせんといて。私、こういうこと好きやし、あおい君のためやったら何でもできるし」


 オレンジがかったLEDの柔らかい光が、あおいとまいちゃんとお母さんを包んでいた。弾き出された私は、まるでつまらない映画を観ているみたいに、その光景を無感情に眺めていた。


 真っ赤な夜はね、私たちが過ごしたあの夜のことだよ、とあおいに教えてあげたかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ