第33話
私は落ち着いて、もう一度言い直した。
「私、三宅さんの友人の柴原絹夏と申しますが、急に連絡がとれなくなってしまって、何かあったのか心配になったもので。もし三宅さんのこと、何かご存知だったら教えていただけないでしょうか」
「連絡先、分からないんですか? 友だちなのに?」
まいちゃんの声は、勝ち誇ったような趣きがあった。わかっていたら、おまえになんか電話するか、ボケ、と心の中で悪態をついた。だけど私は、その気持ちを表にはおくびも出さずに「そうなんです。私、三宅さんのことなんにも知らなくて。ただの友だちだから」と言った。
まいちゃんは電話の向こうで、大きなため息をひとつして、
「あおい君、バイクの交通事故で、今、入院してます」と言った。それから、すごくひどい怪我をして、まだ意識は回復してなくて、このまま植物人間になってしまうかもしれなくて、意識が戻るのは奇跡に近くて、でももし戻ったとしても、もう今までみたいに身体を動かすことはできないだろうって言われている、なんてことを途中から涙声になりながら、聞いてもいないのにだらだらと話していた。
まいちゃんの声は、ずっと遠くで鳴いている、クマゼミのように品がないと思った。きっとまいちゃんも、誰かに聞いてもらいたかったのかも知れない。話し続けているまいちゃんの説明を切って、とりあえず、病院名を聞いた。まいちゃんは、めんどくさそうにしながらも教えてくれた。
「行っても、会えないですよ」
冷たい声だった。
まず、お風呂に入った。いつもより念入りに全身を洗う。シャンプーは新しいものを卸した。蒸しタオルでトリートメントした髪をまとめて包む。ずっとショートだった私の髪は、いつの間にかずいぶんと伸びていた。
眠り続けて手入れされていなかった肌は、荒れてがさがさになっている。化粧水をたっぷりつけて、美容液もけちらずに、化粧品売り場のお姉さんがしてくれるみたいに豪快に使った。しばらくすると、かさかさしていた肌がじんわりと整ってくるのが、手のひらで感じとれた。
高価なパックをしながら、体中のムダ毛の処理もして、コンタクトをして足の爪も切った。
薄めだけど丁寧に化粧をして、髪の裾を少しだけ巻く。ブルー地の、白くて大きいドット柄の入ったワンピースを着て、まっさらの細いストラップつき白いサンダルを履き、あおいのいる病院へと向かった。




