第27話
「さっき観てきたよ、映画。よかった」
そう言うと、あおいが勢いよくこっちを向いた。
「よかったやろ。オレ、天国の管理人が主人公に『お前、何をしているんだ』って言いにくるとこ、すごい好きやと思った」
「ああ、それ! うん!」
やっぱり。必ず、あおいも、あのシーンで感動したに違いないと思っていた。
「私、涙とまらんかったもん」
「ほんま? そうやろうなあ、絹夏さん、絶対好きやと思ってん」
それから私たちは色んな話をした。本のこととか映画のこととか、好きなものとか、嫌いなものとか、今までの人生の片っ端から思いつくこと全部。
気がつくと、あたりはずいぶんと明るくなってきていた。一晩中、眠らずにしゃべるなんてこと、いつぶりだろうか。今でもこんな風に、熱い気持ちになって、何かにときめいたりすることあるんだと思った。
私は、ずっと漫画家になりたくて、そしてそれ以外の人生なんて考えられないと思っていた。なのに、漫画家でない私がここにいる。もう永い間思い出しもしなかった子どもの頃に信じていた夢。また、あの頃のわくわくする気持ちが蘇ってくるのを感じていた。
「未来ってあると思う?」
「未来?」
「タイムマシンに乗って、未来って行けると思う?」
「ああ、そういうこと。行けたらいいなあ、将来自分がどうなってるか、あ、いや、怖い。やっぱ行かれんでもいいわ」
子どもの頃なら、タイムマシンが目の前にあるのに、乗らない選択肢なんてなかった。自分の未来を見るのが怖いなんて思いもしなかった。自分の未来は輝かしいものに決まっていた。でも生きることに努力をしなければ、正しい道を選べなければ、輝かしい未来なんてない。
「誰かが言うてたんやけど、過去には行けるけど、未来には行かれへんねんて。相対性理論かな。でもそれだけやなくて、未来は真っ白な空間が広がってて何にもないねん。時間が進むに従って、世界は形成されていくねん」
「宇宙は爆発によって形成されてて、それは今でもまだずっと広がり続けてるんやけど、その爆発の向こう側もやっぱり、真っ白で何もないらしいから、そんな感じ?」
「そうやな、そんな感じ。だからタイムマシンがあって、もし未来に行けたとしてもなんにもない空間が広がってるだけやねん」
そう言って、淋しそうにため息をついた。




