第26話
濡れた服の上から、横にいるあおいの体温を感じながら波の音を聴いていた。波はどれも違うカタチをしている。ロケット花火の飛んでいく、ぴーっという音と、ぱんという破裂音が響いた。遠くで灯台の光が、私たちの進まなければいけない方角を指し示すように、ぐるりと誘導する。
「ほんで、バージニアウルフは面白かったん?」
「ああ、うーん」
「面白くなかった?」
「うーん、てか、意味わからんかった」
「意味わからんかった?」
あおいと私の間を灯台の光がすり抜けていった。潮の香りが濃く包む。腕についていた乾燥しかけて白っぽくなった砂を払うと、指についていた湿った砂が、今度はかわりにくっついた。何度も何度も腕の砂を払っているのを、あおいは黙って見ていた。
「まあ、確かに、幻想的やもんな」
「灯台に行く話やろ?」
「う、うーん。そんな風に言うたら身も蓋もないやん。ほんまに読んだん?」
「ふふん。実は、半分くらい読んで、ほったらかしてある」
「半分?」
「うん、うーんと、3分の1、か、な」
「3分の1?」
「あ、いや、最初の10ページくらいかな」
「なんや、読んでへんのと一緒やん」
「てへぺろ」
「かわいこぶっても無駄やで」
私らは同じところで笑って「絹夏さんは、なんでバージニアウルフが面白いと思ったん?」と聞かれた。
「さあ、忘れた」
「なんや、それ。あんなに感動したって言うてたのに、忘れたん?」
「てへぺろ」
「かわいこぶっても無駄やで。絹夏くん」
「やかましいわ」
いつの間にか、花火の若者たちはいなくなっていて、海岸には私たちだけしかいなかった。頭が妙に冴えていて、それが現実から逃避させる大きな原因のように思える。私の腕にはまだ砂の粒がたくさん残り、その一粒一粒を月の光が反射して明滅する。
灯台は、ずっと単調なリズムを刻んでいた。
「もしかして、灯台見るために連れてきてくれたとか?」
冗談みたいにして聞くと、あおいはちょっと照れたような顔をした。蒼い陶器のようにすべすべした笑顔だった。夜風に吹かれて冷たくなった砂を掴んでから手を広げると、指の間からさらさらと滑り落ちていった。私はそれを繰り返しながら、映画のことを思い出していた。




