第25話
砂浜に到着すると、真夜中で誰もいないと思っていたのに何人かの若い人たちの姿があって、ロケット花火をして遊んでいた。
私たちはとりあえず波打ち際まで行って、海水の規則的な動きを眺めてみた。海は塊でみると漆黒の闇なのに、波の端っこはちゃんと透明なんだと思った。
私が海に手をつけて、あおいの顔へ弾いたら、油断していたみたいで避ける間もなく顔に水がかかった。あおいは「ああ」と言って、無表情のままなので少し不安になる。怒ったのかと思ってどきどきしていたら、あおいの大きな手のひらに掬われた海水が私めがけて飛んできた。
頭からまともにかぶる。雫が、深く碧く光を放ちながら、髪をつたって滴り落ちていった。
「まあ、とりあえず、波打ち際にきたら、必ずするよね」
「うん、するな」
そう言って、しばらくドラマのワンシーンみたいな水の掛け合いっこをして、二人とも年甲斐もなくずぶ濡れになった。
「あほやな」と言って、また二人で大爆笑。
遠くでロケット花火の若者たちが羨ましそうに私たちを見ていた。湿気を含んだ海風が、濡れた身体に心地いい。私たちは暗い海に向かって並んで座った。私は緊張していて、何を話そうか、何から話そうか、ずっと考えていた。
「あのさあ」
「うん」
そのあと私は、何を話そうと思って切り出したのか分からなくなって、固まっていたら「うん?」ともう一度あおいが言って、私の顔を覗き込んだ。あおいの顔が暗闇でほの白く透けている。色のない薄い唇が、少し開いていた。
「ええと、うーんと、あのさあ、私ら、あ、そうそう、いつLINEの交換なんかしたっけ?」
「LINE?」
「うん。なんでLINEすることになったんかなって」
「ああ、会社の帰り、電車の中で」
「そうなん? 全然覚えてへん」
「絹夏さん、オレにまったく興味なかったもんな」
「ええ? そんなことないよ。ほんじゃ、バージニアウルフは? いつそんな話した?」
「なんか、朝、掃除教えてもらってるときかな」
「ああ、掃除、教えたなあ。無駄やったけど。なんでそんな話になったんやろ?」
「絹夏さんって、どんな本読むんかなと思って聞いたら、最近『灯台へ』読んで面白かったって言うてた」
「へええ、なんでそんなこと聞いたん?」
「いや、なんか、絹夏さんってどんな本読む人なんかなって思ったから」
「それは今聞いたから知ってるよ」
あおいは、はははと笑った。
なんで私の読む本を、あおいは知りたかったんだろう、そしてLINEを交換して、なんで一か月も経ってから連絡してきたんだろう、というようなことを、私は、なぜ知りたがっているのか。
頭の中で次第に複雑に絡まってゆく。感情は私の中心で大きな花を咲かせ、粘りのある糸を巻きつける。もがけばもがくほど真っ白な闇に堕ちて。




