第21話
この日からあおいは、我が家みたいに私の家を自由に出入りするようになった。
大澤さんは私のマンションへは遠慮して滅多にくることはないので、鉢合わせする心配はない。そもそもあおいは彼氏でもなんでもないわけだから、気にかける必要なんてないんだけど。でもいつの間にか心の奥では言い訳をしていて、まるで浮気をしているような罪悪感がいつもつきまとうようになっていた。
私が漫画家になる夢を諦めたのは生活のためだった。
父は私がまだ物心をつくかつかないかという頃に、浮気をして家を出ていってしまって、そのあと私は母に、母の気に入らないような何かをするたびに「あんたは父親にそっくりやな」とよく言われた。
だけど、私が稚拙な漫画を描いているのを見ると、真剣にアドバイスをくれることもあった。母も絵を描くのが好きで、母の描いたお姫様とかバレリーナの絵は、今でも私の古いクッキー缶の宝物箱の中にしまわれている。もう何十年も開けたことはないけれど。
私が漫画家になりたいと真剣に考えるようになったのは、奇しくもこの時の体験がきっかけだったのではないかと、振り返るとそう思う。
そしてその母も、私が中学生の時にアル中で死んで、残された私は、祖母に引き取られることになった。厳格な祖母とは、うまくコミュニケーションを図ることができなかったけど、文句も言わずに育ててくれたことには感謝している。祖母も年金暮らしをしていて、決して裕福な生活環境ではなかったため、私を育てるのは大変だっただろう。
なんとか、高校までは卒業させてもらったものの、大学までは当然行かせてはもらえなかったし、私としても、一刻も早くお金を稼げるようになって、恩返しをしなくちゃいけないと思っていたくらいなのでそこに不満はない。
ただ、友人たちが大学に行って、ゆっくりと人生設計を立て進路の選択範囲を広げている間、私には自分の人生について自由に何かを決定するという選択肢はなかった。家庭を守るために私は自分の夢を諦めて、会社勤めをするしかなかった。
でも、本当にそうなのだろうか。こういう事情だから仕方がないと思っていたけど、本当にそうだったんだろうか。やろうと思えばどんなことをしたってきっとできたはず。
私は自ら楽で安全な道を選んだに過ぎない。誰かのせいにして、自分の選んだ道を正当化していただけ。
わかっていたけど、認めるのが怖かった。




