第20話
「それで、あおいさん、いったいこの醜態は何事ですか?」
私はソファに腰掛けながら、ミネラルウォーターを飲んでひと息ついたあおいに、事情を聞いてみた。あおいはソファには座らずに、カーペットの上にぺたんと腰をおろした。
「なんか、わからん。安っすい酒、たもちゃんとふたりで飲んでたら、なんか、だんだん生きてるんか死んでるんかわからんようになってきてん」
「なによ、それ。たもちゃんって誰?」
「ツレ。昔のツレ。今度、結婚すんねんて」
「結婚? それで、寂しなったってこと? たもちゃんて、なに? 女の子なん?」
「違うわ! 昔っからのツレ、男じゃ」
「怒らんでもええやん。ほんで? 寂しいん?」
「そんなんと違うねん。そんなんと違うて言うてるやん」
「なんや、ささくれてんなあ。とにかく、寝たら? 布団敷いたるから。あんたちょっと熱あるみたいやし」
頭をどついた時、額の熱いのが気になった。
「絹夏さんが彼氏さんとセックスした布団なんかで寝るの嫌や」
「うるさい! ごちゃごちゃ言っとらんと寝なさいよ」
しばらくはそうやって子どもみたいにだだをこねて、布団の上でジタバタしていたけど、数分もしないうちに寝息をたてはじめた。
この日、あおいがはじめて家にやってきた。
眠っているあおいの顔をしばらく見ているとなんだか心の奥が、がさがさとけば立ってくる。これが現実のあおいか。
「ほんまに存在したんやな」
声に出して言ってみると、芝居がかっていて滑稽だった。それで「本当に、お前は存在したのだな」とシェイクスピア風に言い直してみた。ふふふと笑ってから、特段面白くはないことに気がついた。
あおいは、普段ポーカーフェイスを気取っていて、なにが起っても平気そうな雰囲気を醸し出しているくせに、酔っぱらったりして自我をコントロールできなくなると、こんな風に乱れてしまうことがある。
今まではスマホでのやり取りだけだったので、実際にはこんなに起伏が激しいなんて思いもよらなかった。
いったいあおいは、なにがそんなに悲しいのだろう。




