第16話
―――あ、そうか。
「そうか、そうだ、あおいが女やったら、私、こんなに悩んでないかも」
「でしょ?」
里香は満足そうな笑みを浮かべた。
「二人は、性別を超えてコアな部分で響き合ったんだよね。だからお互い必要なんだよ。でも、その気持ちって、なかなか理解してもらえないし、男性として好きかもしれないっていう気持ちにすり替わってしまって、自分でも判別できなくなってしまうんだよね。あおい君が女性なら、そんなフィルターなんてはじめからないから、純粋に大切な友人としていられるんだけど。きっと自分でもそこにとらわれてしまっているんじゃない?」
―――ほんまや、里香。その通りや。
「でもさ、きっとあおい君は、絹夏にとって男性じゃないとダメだろうな」
「え? なんで?」
「さあ、わかんない。わかんないけど、そんな気がする」
里香が言おうとしていることは、わからないでもなかった。そうなんだ、私にとってあおいはすごく大事な友人なんだけど、でもやっぱり女じゃダメだった。あおいは男じゃないとダメだった。でもそれが結局、私を苦しめる原因なのに。
「お待たせしました」
まいちゃんが、お盆の上に『ももごこち』と炭火焼きコーヒーをのせてやってきた。黙ってテーブルにそれぞれを置いて、最後にレシートの上に小さな硝子のおもりをのせた。私たちはその間ずっと黙っていて、まいちゃんの仕事が終わるのを待っていた。
まいちゃんは、去り際にチラリと私のほうに視線を向けた。妙な感じがしたので、振り向いて店の奥にあるカウンターのほうを見ると、あおいがいた。
あおいはいつものTシャツと綿パンみたいなスタイルじゃなくて、白い長袖のシャツの袖を少し捲り上げて、細身の黒いパンツに、生成りの無地のエプロンをしていた。同じエプロンの素材の、大きなマリンキャップをかぶっていて、いつもと違うあおいは別人みたいに見えた。
客観的に見ると、こんなにもかっこ良かったのかと改めて思って、私なんかまるで関係ないのに、誇らしい気分になった。ただ、抜群にセンスいいこのお店も、あおいのユニフォームも、あおいにはちっとも似合ってないと思った。
あおいは私に気がついて、そこで軽く手をあげた。あまり驚いている様子ではなかったので、もっと早くに気づいていたのかも知れない。里香があおいを見て、目を輝かせた。
まいちゃんは恐ろしく攻撃的な目を私に向けていた。




