第15話
水とお手拭きを運んできたのは、ぽっちゃりとしたかわいらしい女の子だった。
ご注文は何になさいますか、と聞かれて、里香は桃のお酢をソーダで割った、ももごこち、という名前のジュースにして、私は炭火焼きコーヒーを頼んだ。オーダーを取っている間に女の子の胸のプレートを見ると、『まい』と名前が書かれていた。
―――あ、まいちゃん。
まいちゃんは、ラメ入りのつけまつげをたくさんつけた大きな瞳をぱちぱちさせて去っていった。
「大澤さんとは、まだつきあってるの?」
里香は水のグラスをゆっくり回しながら、溶けかけた氷をカラン、と鳴らしたり、グラスについた水滴で濡れたテーブルを、お手拭きで何度も何度も拭いたりしていた。
「うん。今度、一緒にタイに行くことになった」
「タイ?」
「そう、バンコクとかある、酸っぱ辛いスープのある、あのタイ」
ふわふわのかき氷はタイじゃないで、と言うのはやめた。
「そうなんだ。別れる気はないの?」
「大澤さんと? うん、ないよ。だって楽だもん」
里香は大阪生まれの大阪育ちで、両親も二人とも関西の人なのに大阪弁が嫌いらしい。だから里香はほとんど大阪弁を使うことがない。おかげで里香としゃべっていると、私もうっかりうつってしまって、しゃべり方がおかしくなってしまう。あおいが聞いたら、めちゃバカにするやろうなと思った。
「いや、ほんまに違うねん。そんなんと。確かに、あおいのことは好きやけど、そういうのとは違うねん」
「どう違うの?」
「うーん、なんやろ。次元、かな。次元が違う。感情のイメージの次元が違う。大澤さんが好きというのと、あおいが好きというのでは、まるで別もので、でも確かにどっちも大切やねん」
里香は真剣な顔をして、私の真意をしっかりと理解しようとしてくれている。簡単に決めつけずに、自分でも自分の心がわからずに持て余しているというのに、ちゃんと答えを導きだそうとしている。やっぱり里香は信頼できる。
「じゃあもし、あおい君が、女性だったらどう?」




