第10話
そのドラマチックな様子が面白くて、これから私たち、どうなるの? みたいな空気をわざと醸し出してあげたりする。
そうすると、君には申し訳ないと思っているんだ、みたいなことを言って謝ってくれるので、調子にのって、いいえ、いいの、あなたと一緒にいられさえすれば、私はそれで満足なの、とかなり大げさにお芝居の続きをしてあげるんだけど、彼はどうやっても、それが本気だと思っていて、そのうち収拾がつかなくなってしまう。
彼は紛れもなく私のことを、私との恋愛を大切に思ってくれている。それは十五歳の歳の差があることも、彼にとっては引け目に感じるひとつの要因で、またそれが彼の情熱を沸きたたせる要素でもあるのだろうと思う。
虫が入ってくるので開けないでくださいね、と注意された古い木枠の歪んだ硝子窓からは、道頓堀川が見える。いつの間にか日はすっかり落ちて、黒々とした川面には、ひとつひとつのネオンが丁寧に映し出されていた。
風があるのか、小さな波がところどころで渦を巻いていて、じっと見ていると引込まれそうになる。屋形舟に乗っているようなゆったりとした揺れのようなものを感じて、少し酔ってしまったかも、と思った。
「今度、タイに行こうか」
唐突に大澤さんが言った。
「タイって? バンコクとかある、あのタイ?」
「そう、そのタイ」
「酸っぱ辛いスープ料理のタイ?」
「うん、多分、そのタイ」
「ふわふわかき氷のタイ?」
「う、うーん、それはどうかな? 知らないな」
「それは台湾やったわ」
大澤さんはすごく真面目で、私がどんなにつまらないことを言っても、ちゃんと話を訊いてくれてちゃんと対応してくれる。
「いつ?」
「寒くなるころかな。パスポートある?」
「多分、期限切れてると思う」
「じゃあ、更新しておいて」
わかりました、と私は言った。
寒くなるころか。
あおいになんて言おうと考えてから、なんであおいに言い訳する必要があるねん、と、思わず苦笑いした。




