エイリアンスクール
転校初日。
教室に入った瞬間、俺は後悔した。
空気が、ぬるぬるしている。
比喩じゃない。
本当に、ぬるぬるしていた。
歩くたびに床が少し沈む。
しかも、クラス全員がこっちを見ている。
瞬きなしで。
担任が笑顔で言う。
「今日から新しい地球人です」
拍手。
ぺちょぺちょした音。
嫌な拍手だった。
俺は固まる。
今、なんて言った?
「はい、じゃあ自己紹介して〜」
担任の首が、ぐにゃっと180度回る。
俺は見なかったことにした。
見てはいけない。
そういう本能が働いた。
「えっと……佐藤です」
教室が静かになる。
そのあと、一人が手を挙げる。
頭が三つある女子だった。
「質問です」
「はい」
「内臓は何個ですか?」
俺は黙る。
教室がざわつく。
「少なっ」
「うわ原始的」
「単核生命体じゃん」
笑われた。
いや意味が分からない。
そのとき、隣の席のやつが小声で話しかけてくる。
緑色だった。
「気にすんな」
いいやつっぽい。
「最初はみんなそうだから」
最初ってなんだ。
授業が始まる。
一時間目は数学だった。
普通かと思った。
だが、黒板に書かれた問題がこれだった。
『地球人を効率よく繁殖させるには?』
終わってる。
先生が指す。
「佐藤くん」
俺は立つ。
「はい」
「では、地球人の求愛行動を実演してください」
教室が盛り上がる。
「見たい〜!」
「繁殖だ!」
「繁殖だ!」
俺は座った。
帰りたい。
だが、帰れなかった。
昼休み。
食堂へ行く。
メニューを見る。
・圧縮肉定食
・液状知性ラーメン
・ヒト科向け簡易栄養剤
最後だけ妙に怖い。
俺はパンを選ぶ。
だが、隣の緑色のやつが驚く。
「固形!?」
「え?」
「噛むの!?」
その瞬間、
周囲がざわつく。
全員、こっちを見ている。
まずい。
何かやらかした。
すると、後ろから低い声。
「珍しいねぇ」
振り返る。
校長だった。
たぶん。
頭が校長室くらいあった。
「天然モノの地球人かい」
俺は引きつる。
校長は笑う。
顔が縦に裂ける。
「安心して」
「まだ食べないから」
俺はパンを落とした。
その瞬間、
クラス全員の首が、
ぐるん、とこちらを向く。
目が光る。
やばい。
完全に“獲物”を見る目だ。
すると緑色のやつが立ち上がる。
「待ってください!」
全員が止まる。
緑色のやつが叫ぶ。
「こいつ、友達なんで!」
静寂。
そのあと、
教室がざわつく。
「友達判定か〜」
「じゃあ仕方ない」
「規則だもんな」
助かった……のか?
その日の放課後。
緑色のやつが言う。
「お前、気をつけろよ」
俺は頷く。
「ここ、結構ゆるい学校だから」
ゆるいの基準がおかしい。
「でも最近、“混ざってる”やつ多いし」
「混ざってる?」
緑色のやつは少し黙る。
そのとき。
廊下の奥で、
誰かが笑う。
人間の声。
「ははっ」
俺は振り返る。
男子生徒が立っている。
普通の人間。
制服姿。
やっとまともなやつがいた。
俺は少し安心する。
だが、
緑色のやつが震えた声を出す。
「やば……」
「え?」
「見るな」
遅かった。
人間の男子生徒が、
ゆっくりとこちらを見る。
笑顔。
だが、
顔の中央が、
縦に割れる。
中から、
無数の目が覗く。
「見つけた」
低い声。
教室の空気が変わる。
周囲のエイリアンたちが、
一斉に距離を取る。
誰も笑っていない。
担任が、静かに言う。
「隔離対象です」
その瞬間、
人間の“中身”が飛び出す。
黒い。
細長い。
虫みたいな足が大量にある。
そいつが天井に張りつく。
カタカタ笑う。
「やっぱ地球人うまそ〜」
俺は絶叫する。
緑色のやつが俺を引っ張る。
「走れ!」
廊下を逃げる。
後ろから、
カタカタ音が追ってくる。
「なんなんだよあれ!」
俺が叫ぶと、
緑色のやつが泣きそうな声で言う。
「転校生だよ!」
「昨日来た!」
終わってる。
角を曲がる。
すると、校長が立っている。
頭がでかい。
だが今は頼もしい。
校長は深いため息をつく。
「また地球型かぁ」
その瞬間、
校長の口が開く。
ビルみたいに。
中が真っ暗。
そして、
逃げてきた“転校生”を、
一口で食べた。
静寂。
校長が、もぐもぐする。
「最近の若い擬態種はマナーが悪いねぇ」
俺は膝から崩れ落ちる。
緑色のやつが肩を叩く。
「大丈夫?」
全然大丈夫じゃない。
校長は、にっこり笑う。
「安心して」
「うち、安全な学校だから」
その瞬間、
校長の腹の中から、
さっきの転校生の声がする。
「たすけて」
校長は笑顔のまま、
腹を軽く叩く。
「授業中ですよ」
俺は思った。
ここ、
絶対に、
安全じゃない。




