22話 冷酷
いつからあるのかわからないショッピングモールで、いつできたのかわからない洋服を買う。
家にはそれほど大層な服はない。だからこうして買いに来ているのだ。
これが終わったら髪でも切りに行くか。
乾ききった店内に、爽やかなアナウンスが混ざる。
私以外に客は少ない。
試着はしない。
したら似合わないことが分かって、買いたくなくなるからだ。
見繕った後、レジへ向かう。
まあまあな値段だ。それなりに高い。
家にはオシャレな服は少ないから、仕方ない。
――本当は、家に帰りたくない理由付けだ。
昼間に戻っていったら、母に会わざるを得なくなってしまう。
それだけは嫌だ。
服を買い終えて店を出ると、もう昼前になっていた。
何を食べようか。
フードコートには多様なファストフードが立ち並んでいる。
中には和食屋もあるみたいだけど……。
ハンバーガーの気分だ。太るとか知らない。
メニュー表を見回す。やはり照焼がいいだろう。
照焼バーガーとポテトとドリンクのセットにした。コーラではない。オレンジジュースである。
恐ろしく高いカロリーの塊を口にして、甘い香りで流し込む。
ジャンキーで濃い味だ。その味で噎せそうになってしまう。
ただ、少食な私にとって、このバーガーはかなり満腹になる。
愛ちゃんなら、ペロッといっちゃいそうだよね。
結衣ちゃんは、濃いのは無理って言うかな?
るるちゃんは、そもそもバーガーにしなくて、うどんとか頼むだろうなぁ。
みんな、私の大切な友達だ。
戻ったら、もっと仲良くなれるといいな。
◇◆◆◆◇
寛容にはなれない。
強い動悸が私を襲う。
対立した思いが交差して、理由のわからない感情になる。
「あら、どうしてそんなに怖がっているの?」
冷たい肉声が、私の耳を穿つ。
体の震えは止まらない。
寛容にはなれないし、許せないけど、母の対応はとても恐ろしいものだ。
怖い。恐い。
その冷え切った意志が、私を包まんとする。
どうしてこんな事になっているのだろうか。
どうして母は、今日の仕事を休んだのだろうか。
わけがわからない。
「何か、言いたいことがあるんじゃないの?」
そうだね。言いたい。
言ってやりたい。
だが、怖い。
言ってしまったらどうなるのかわからない。
「ほら、早く言ってご覧なさい」
そんなに催促されてしまっては、容赦はできないじゃない。
「……あなたは、どうしてここに引っ越すことにしたの?」
もう、静止できない。
「そうね。あそこじゃ不便だったから」
不便だった? そんなことで、わざわざ千葉に来たって言うのか?
「……早めに家を出ればよかった」
職場は遠くなったが、早く家を出れば済む話だろう。
「そんなことしたくないじゃない」
「頼!そんな事言うなよ」
父が声を荒げる。聞いているだけではいけないと思ったのだろうか。
だが、それはすでに遅い。
「……自分の楽のために、あなたは千葉に引っ越したと言うの?」
すでに声の震えは消えて、迎え撃つし姿勢を見せる。
「ええ。そう言っているのよ。私の配慮が足りなかったの。ごめんね」
静かな笑みを浮かべて、私の姿勢に応じた。
もう、この口論に意味は無いと思っているのだろう。
母は合理的な性格だ。
私の感じる限りでは、温かみや思慮はまるで足りていない。
いや、深く考えているうえで、それらは必要ではないと割り切っているのだろう。
母は聡明だ。
私と違って。
「やっぱり、あなたは変わらないんだ」
「そうね。あなたも変わっていないようで良かったわ」
私はこれ以上の会話は無意味で、したくないと思ったので、そのまま自室に戻った。
父も母も、それを引き留めようともしない。
冷酷な空間に、扉を締める音だけが響いた。




