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少女たちの宿暮らし  作者: お餅
閑散期編
23/27

22話 冷酷

 いつからあるのかわからないショッピングモールで、いつできたのかわからない洋服を買う。


 家にはそれほど大層な服はない。だからこうして買いに来ているのだ。


 これが終わったら髪でも切りに行くか。


 乾ききった店内に、爽やかなアナウンスが混ざる。


 私以外に客は少ない。


 試着はしない。


 したら似合わないことが分かって、買いたくなくなるからだ。


 見繕った後、レジへ向かう。


 まあまあな値段だ。それなりに高い。


 家にはオシャレな服は少ないから、仕方ない。


 ――本当は、家に帰りたくない理由付けだ。


 昼間に戻っていったら、母に会わざるを得なくなってしまう。


 それだけは嫌だ。


 服を買い終えて店を出ると、もう昼前になっていた。


 何を食べようか。


 フードコートには多様なファストフードが立ち並んでいる。


 中には和食屋もあるみたいだけど……。


 ハンバーガーの気分だ。太るとか知らない。


 メニュー表を見回す。やはり照焼がいいだろう。


 照焼バーガーとポテトとドリンクのセットにした。コーラではない。オレンジジュースである。


 恐ろしく高いカロリーの塊を口にして、甘い香りで流し込む。


 ジャンキーで濃い味だ。その味で噎せそうになってしまう。


 ただ、少食な私にとって、このバーガーはかなり満腹になる。


 愛ちゃんなら、ペロッといっちゃいそうだよね。


 結衣ちゃんは、濃いのは無理って言うかな?


 るるちゃんは、そもそもバーガーにしなくて、うどんとか頼むだろうなぁ。


 みんな、私の大切な友達だ。


 戻ったら、もっと仲良くなれるといいな。



 ◇◆◆◆◇



 寛容にはなれない。


 強い動悸が私を襲う。


 対立した思いが交差して、理由のわからない感情になる。


「あら、どうしてそんなに怖がっているの?」


 冷たい肉声が、私の耳を穿つ。


 体の震えは止まらない。


 寛容にはなれないし、許せないけど、母の対応はとても恐ろしいものだ。


 怖い。恐い。


 その冷え切った意志が、私を包まんとする。


 どうしてこんな事になっているのだろうか。


 どうして母は、今日の仕事を休んだのだろうか。


 わけがわからない。


「何か、言いたいことがあるんじゃないの?」


 そうだね。言いたい。


 言ってやりたい。


 だが、怖い。


 言ってしまったらどうなるのかわからない。


「ほら、早く言ってご覧なさい」


 そんなに催促されてしまっては、容赦はできないじゃない。


「……あなたは、どうしてここに引っ越すことにしたの?」


 もう、静止できない。


「そうね。あそこじゃ不便だったから」


 不便だった? そんなことで、わざわざ千葉に来たって言うのか?


「……早めに家を出ればよかった」


 職場は遠くなったが、早く家を出れば済む話だろう。


「そんなことしたくないじゃない」


「頼!そんな事言うなよ」


 父が声を荒げる。聞いているだけではいけないと思ったのだろうか。


 だが、それはすでに遅い。


「……自分の楽のために、あなたは千葉に引っ越したと言うの?」


 すでに声の震えは消えて、迎え撃つし姿勢を見せる。


「ええ。そう言っているのよ。私の配慮が足りなかったの。ごめんね」


 静かな笑みを浮かべて、私の姿勢に応じた。


 もう、この口論に意味は無いと思っているのだろう。


 母は合理的な性格だ。


 私の感じる限りでは、温かみや思慮はまるで足りていない。


 いや、深く考えているうえで、それらは必要ではないと割り切っているのだろう。


 母は聡明だ。


 私と違って。


「やっぱり、あなたは変わらないんだ」


「そうね。あなたも変わっていないようで良かったわ」


 私はこれ以上の会話は無意味で、したくないと思ったので、そのまま自室に戻った。


 父も母も、それを引き留めようともしない。


 冷酷な空間に、扉を締める音だけが響いた。

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