18話 愛と愛美
「それでは」
「気ぃつけてな」
「るるさんも、お気をつけて」
愛は名古屋駅で新幹線を降りた。ここからは名鉄線とバスで家の近くまで行く予定だ。
愛が住んでいるのは岐阜県だ。名古屋は遠くないので、よく遊びに来ていた。
駅ナカでドーナツを買う。姉のために名古屋に来るたびに買っているのだ。
迷宮のような名古屋駅構内を迷わず真っすぐ進んでいく。慣れた手つきで帰りの切符を買う。
不意に思い出す、数時間前のるるの様子。
(少し焦っていたように感じました。何がいけなかったのでしょうか)
愛はるるを心配している。本当はついていこうかと、考えもした。
(…ダメです。今はるるさんを信じなければ)
何かあったらすぐに分かるように、通知機能をONにした。
『話したいことがあれば、何でも教えてください』
繋ぎたてのチャットルームに、小さく呟いた。
◇◆◆◆◇
「ただいま」
大きく重い扉を開けてそう呟く。
何やら上の方からドタバタとした足音が聞こえる。
「えっ、聞いてなかったんですけど」
「言うわけ無いじゃないですか」
愛の姉――柏原愛美――は、下着のような薄い格好で、愛の前に現れた。
「お土産は?」
「無いですけど、欲しかったんですか」
三人といるときは考えられないほど冷酷に告げる。
「だよねぇ」
落胆。だが、この対応にも慣れているようで。
「次は買ってきてね」
「ええ。覚えていれば」
お互いに軽薄な態度を身にまといながら対峙する。緊張感は微塵もない。
「てか、なんで帰ってきたの。失恋?」
「違います。衣替えです」
まるで相手にしないまま、自分の部屋へと向かおうとする。
「言ってくれれば送ったのに」
「送る気が起こるまでに数週間かかるでしょう。それ」
自身の部屋に入った愛は、タンスを物色し始める。
「かかっても一週間。わあ、愛の部屋、綺麗ね」
思わず感嘆の声。
「かかるじゃないですか。…使っていないから当然です。紙袋はありますか」
「待ってね。今持ってくる」
愛美はその場を去っていった。
「はあ、私の姉はどうしてああなのでしょうか」
自身と打って変わって自由奔放な姉に、思わず愚痴をこぼす。
ふと、以前使っていた勉強机を覗く。
以前バイトしていた喫茶店の名札がそこには置いてあった。
(あそこにも、挨拶をしに行かないと)
すると、愛美が戻ってきた。
「これでも大丈夫?」
大きく有名キャラクターが描かれた紙袋を持ってきた。もっと無難なものはなかったのか、と愛は思う。
「多少恥ずかしいですが」
「それ、着るの?」
愛美は畳まれて置かれている黒い服を指さした。
「これですか? 悪くないでしょう」
その服を眼の前で広げて見せる。まるでゴスロ……、いや、少しく白いフリルの付いたオーバーサイズの可愛らしい服だ。
「やっぱりオシャレだけは、私のほうが優れてる」
愛美は美容師をやっている。服のセンスも髪型も、一工夫二工夫もあるのだ。……普段は。
「そうですね。そこは敵いません」
「服、買ってあげよっか?」
気を利かせて提案をする。姉からのささやかな気遣いだ。
「またの機会にお願いします。今からバ先に行くので」
紙袋に衣類を詰め込みながら応える。
「そう。オーナー、心配してたよ」
「そうですか。あなたは服を着て私の帰りを待っていてください」
「はいはい。今日はどっか食べに行こっか」
「わかりました。行ってきます」
大きな扉を再び開けて、愛は喫茶店へ向かう。
人物紹介
柏原愛美
3話にちょっとだけ出てきた人
自由奔放だが美容室で働いており、意外としっかり者、かも。
勉強はできる




