17話 移動中の
「新幹線って、非日常を感じさせますよね」
その小さな車窓からは、真っ青な海と空が見える。雲一つない快晴だ。
「わかるー」
「ちょっと楽しいなぁ」
愛、りん、るるの三人は、新幹線でそれぞれの家へ帰っている。
「私は東京で降りるけど、乗り換えて東海道新幹線に乗るんだよね」
「リニアは高いですし、景色も楽しみたいかなって」
「そやな。フードで遮られてまう」
仙台を出た新幹線は、東京へ向かっている。
「見て、仙台駅で買ったキーホルダー、可愛くない?」
りんは、袋に入ったずんだ餅のキャラクターの描かれたキーホルダーを二人に見せる。
「可愛らしいです」
仙台駅構内のショップで買ったものだ。値札のところにテープが張ってある。
「土産はキーホルダーでも良かったかもしれへんな」
「るるちゃんは、何を買ったの?」
「うちは冷凍ずんだ餅。おじさん、甘いの好きやねん」
足元においた紙袋には、緑色のロゴが入っている。
「愛ちゃんは、何か賈ってないの?」
「私は何も。別の機会でもよいかと思いまして」
「まぁ、急ぎで買わなくてもいいもんね」
新幹線は、ますます速度を上げていく。
◇◆◆◆◇
『まもなく 終点 東京です。中央新幹線、東海道新幹線、山手線、京浜東北線、中央線、東海道線、横須賀線、総武快速線、京葉線、地下鉄丸ノ内線は、お乗りかえです』
「降りよっか」
東京駅は人が多く、少し蒸し暑くなっている。
「りんさんは京葉線でしたよね」
「うん、またね。気をつけて帰ってね」
「ええ。お気をつけて」
「またなー」
手を振り合って、また傘見で会おうという。
りんは京葉線の方に向かっていった。
二人も別のホームへ移動する。
「東海道新幹線ですから、ここで待っていれば良さそうです」
「せやな。時間もあるし、駅弁買わへん?」
「そうですね。そうしましょう」
階段を降りて、人混みの中に入っていく。はぐれないように、手まで繋いで。
「ご注文どうぞ」
「えっと、何にしますか?」
「唐揚げ弁当がええな」
ガラス棚には、食品模型をまじまじと見つめている、るるが映っている。
「唐揚げ弁当を二つお願いします」
レジカウンターに敷かれているメニューを指さして注文する。
「唐揚げ弁当ですね。3620円になります。お支払いはいかが致しますか?」
「現金って大丈夫ですか?」
「ウチ現金対応していないんです」
現金払いは断られてしまった。東京では珍しくもない。
「えっと、じゃあ……」
ショルダーバッグからスマホを取り出そうとする。なかなか見つからない。
「テルペイ使えます?」
「大丈夫ですよ」
愛がもたもたしていると、るるが横から現れた。腕につけたフローで支払いをする。
「ありがとうございました」
支払いを終えると、すぐに弁当が渡される。るるはそれを受け取ると、愛の手を引いてそそくさと新幹線乗り場に向かう。
「えっと、るるさん…?」
「やっぱ東京って大変やなぁ、弁当屋でもロクに現金使えへんのや。ま、大阪もおんなじか」
早口で、独り言のように。愛に言うための言葉ではなく、言い聞かせて事実を理解するための。
少しづつ、るるの歩みも遅くなっていく。
「あ、さっきはありがとうございました」
愛が礼を言う。繋いでいた手をほどいて、少し距離を開けて頭を下げた。
ほどかれたるるの手には汗が滲んていた。
「ええに。スマホ、ちゃんとわかりやすいところにしまっといたほうがええで。いつ使うかわからんのやから」
ようやく、落ち着いた様子になってくれた、と愛は思った。何が彼女にとって嫌だったのだろうか。
「そうですね。あっ、新幹線もうすぐで来るみたいですし、乗ってから整理します」
落ち着いたるるを見ても、あの様子を心配せずにはいられないと思う。が、藪蛇を懸念し、素直に聞けない自分を責める。愛はそんなふうに考えてしまう。




