93.魔物の森へ
「本当に俺ら二人だけで行くのか?」
バーンがニーナに最終確認を取る。そして返って来た返事は冷たいものであった。
「そうだ。私は森の近くでお前たち二人を監視していてやる。本当に危険だと思ったら手助けしてやるかもしれんが、基本的に二人だけでなんとかしろ」
ニーナから出された課題はこうだ。バーンとインフェルノの二人で、これから数日森の中で過ごせるだけの荷物を持って乗り込む。中でどんな魔物が出てくるか分からないが、全て二人で対処する。最終目的は森で最大勢力を持った魔物の討伐、ヌシと呼べる魔物がいた場合それの討伐をしてこいという事だった。もし単純に数が多いだけの群れがいたならば、さらに山奥の森へ逃げて行くまで徹底的に駆除して個体数を減らせということだった。
これは、終わりの見えない、気が遠くなるような体力勝負の持久戦だ。
「森の中にはいろんな地形があり、そしていろんな戦い方をする魔物がいるだろう。その全てにどう対処するか、頭をフル回転させるのだ。バーン。お前のフレイムソードやファイヤーボールは山火事になる可能性もある。そんなことになったら魔物討伐どころじゃない。大惨事だ。くれぐれも気を付けろよ」
そう。バーンにおいては、得意の火属性の攻撃が制限される。バーニングスラッシュを自由に打てれば魔物の群れをまとめて倒すのにとても便利なのだが、今回はそれができないのだ。
ちなみにニーナが出てくれば、森全体の魔物を倒すのに半日もかからないだろう。そして他の者の出番もない。だがいつもニーナに頼ってばかりいたら、バーンたちが実戦を経験し修行する機会がない。そこでバーンも渋々その作戦を受け入れた。インフェルノにおいては、自分の国の問題であるから、全て頼ってばかりもいれないため、自分でもできることをしたいと思い、ニーナの作戦を受け入れる。
そしてセドリックに用意してもらったリュックに二人が荷物をまとめていると、ユーフォリアとフローレンスが心配そうに見送りにやって来た。
「お兄様、お気を付けて」
「ああ」
「無理しないでね」
「ありがとうユーフォリア。ところで、お前はいつ頃帰る予定だ?できたらゆっくりしていってほしいのだが」
「うん?そうね、せっかくフーちゃんと会えたんだからゆっくりお話しもしたいし、貴方たちが帰ってくるまではお世話にならせてもらうわ」
「そうか。退屈かもしれないが、ゆっくりしていってくれ」
バーンは、あれ?俺の見送りは?と思ったが言えず、黙っていじけながら馬車に乗り込むのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
森の中での案内人として、コロボックルのポポロもバーンたちと一緒についてきてくれることになった。ただしポポロは動物を狩るくらいの戦闘力しか持たないため、戦闘はバーンとインフェルノが行う。夜寝る時の見張りは三人で交替で行う予定だ。
そんな三人だが、いきなり大ピンチを迎えていた。
「くそっ!小回復!」
バーンは、自分の肩口に突き刺さった矢を抜くと、すぐに回復魔法を唱える。傷口は消えたものの、激痛は止まらない。
「おかしい、何だこれ?」
すると三人を遠視窓で監視しているニーナから、遠隔通話で話しかけられる。
(バーン、おそらくそれは毒だ。回復魔法だけじゃダメだ。ちなみに解毒魔法は私も使えないぞ?)
「まじかよ?!」
そして第二射が飛来する。先ほどと同じ崖の上からの射撃のため、あらかじめ予測できたバーンたちはそれを剣ではじき落とす。
ポポロは不可視のスキルを発動し、見えざる敵から身を隠している。インフェルノは装備している首飾りに、投擲物防御の魔法がかかっているため矢は届かない。しかしバーンはそういったマジックアイテムを装備していなかったため、今窮地に立たされているのはバーン一人だった。ニーナに頼めば同じ効果のマジックアイテムをすぐに作ってくれそうだが、今回は今ある装備での対応をするというところまで含めての修行だ。
崖の上にいる敵の姿は未だ見えず、何体いるのかも分かっていない。近くの木陰に身を隠す。
「毒矢を使うほどの知能のある魔物がいるなんて、聞いてないぞ?」
「オレも知ラナカった」
のんきな返事をする案内人ポポロ。だが、聞いていなかったとはいえ、準備ができていなかったのは自分のミスだ。実戦の場で、聞いていないからといって許してもらえるはずがない。
バーンたちは木の陰から崖の上の様子を確認する。数体の人影のようなものが見えた。
「今マデ、コウイウ戦略を練レるホドの知力を持ッタ魔物はイナカッたハズだ。コノ森に何かが起キテる」
ポポロの言葉に不安を覚える。崖の上では、先ほどの第二射でも仕留めきれなかったバーンたちの止めを刺すために、再び敵が姿を現した。小型の体型はおそらくゴブリン。弓を構えるゴブリン弓手の横には、木の杖を掲げるローブ姿のゴブリンがいた。
「ヤバい!ゴブリン魔導士?」
バーンがその正体を理解したと同時に、ゴブリンによる魔法の攻撃が放たれた。
「魔法の矢!」
魔法の矢の魔法は、例え木の陰に隠れていても必ず命中する魔法だった。もちろんその魔法を初めて目にするバーンはそのことを知らなかったのだが、本能的に危険を察知し木陰から飛び出すとフレイムソードを構え、自ら目がけて飛来した魔法の矢を叩き落した。
フレイムソードの一撃で霧散するゴブリンメイジの魔法の矢。
ちなみに同時にインフェルノに目がけて放たれた魔法の矢は、インフェルノの持つ魔法の首飾りの効果によって炸裂する直前に打ち消される。バーンのように打ち落とす準備もできていなかったインフェルノは冷や汗を流す。
「バーン、ここは地形的に不利だ。一旦撤退しよう!」
横にいるインフェルノからそう言われ、毒矢の激痛に耐えるのに必死なバーンは大きく頷くと、二人同時に走り出した。射程圏内を外れた二人への追撃はなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「コレが毒消シ草だ。ヨク噛ンデから飲ミ込め」
川辺までたどり着き休憩している二人の所に、ポポロが森の中で自生している毒消し草を採って来てくれた。バーンはにがいのを我慢しながら、それを飲み込む。
「ポポロがいて助かった。森の中に入るような事があったら、薬草の知識も必要なものだな」
インフェルノがポポロに礼を言う。バーンは毒が辛いのか、ひどく汗を流しながら大人しくしている。
「トリアエずバーンが回復スルまで休モう。落チ着イたら、サッキの奴ラを倒ス方法を考エよう」
「すまないな。なんだかお前がリーダーみたいになってしまったな」
インフェルノがポポロに謝っている間、具合の悪いバーンは声も出せずにいた。一同はその場で休息を取りながら、毒消草が効いてバーンが回復するのを待った。




