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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第5章 北国の眠り姫
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87.セドリック・カロネオン伯爵の苦悩2

「そんな事より貴様、朝からどこへ行っていたのだ!」


 セドリック・カロネオン伯爵は、部屋に入って来た息子にそう怒鳴った。


「少し用事があって。ところで父上。一つお願いがあるのですが。」


「こんな忙しい時にお前の願いを聞いている暇があるか!」


 苛立ちを隠しきれないセドリックは、再び右腕で机をたたく。ドン!という音に、インフェルノは先ほどの音もこれかと納得する。そして父に拒絶されながらも、自分の話を続ける。


「ノーズの森の開拓事業は、父上が進めているのだと聞きました。それを中止してもらいたいのです。」


「何を言っている?今はそれどころではない!モンスターが出て大変なのだ!」


巨大ムカデギガントセンティピードでしたら、先ほど討伐してきました」


「は?」


「昨日連れてきた俺の客の一人剣士バーンと、先ほどノーズの森へ行って来たのですが、その際巨大ムカデギガントセンティピードを退治してきました」


「何を言っている?三メートルを超えるゴーレムをも破壊した魔物の事だぞ?」


「そうです。そいつです。つがいでいたのですが、もう一体は四メートル近くありました」


「な……?本当に?」


 セドリックはやっと息子が話している魔物の話が、自分の話している魔物の話と同じだと理解する。だが信じられないという顔で唖然とする。剣術に長けているのは知っていたが、巨大モンスターを倒すほど息子が強いことは知らなかった。


「あ、俺の客の一人魔法使いニーナから鎧と魔法の剣をもらいまして、その剣を使えば巨大ムカデギガントセンティピードも大した敵ではありませんでした」


「そ……そうなのか?」


 その剣がすごいのか、それとも息子の腕がすごいのかは分からなかったが、とりあえずこれで目先の巨大ムカデギガントセンティピード討伐という困難は解決したのだろう。黄金級冒険者に依頼するはずの大きな問題があっけなく解決して、セドリックはホッと肩をなでおろす。


「それはご苦労だった。それで、ノーズの森の開拓の中止だったか?それは無理な話だ。これまでも莫大な費用がかかっている。それを回収しなくてはならんのだ」


 そう答えると、息子インフェルノは言葉を失う。なぜ突然開拓事業に口出ししてきたか分からないが、金銭的なところまではどうにもならないことは分かっているのだろう。


「私は今、連合国議会と帝国との不可侵条約を結ぶために忙しいのだ。私の仕事に口出しをするな」


 口出しするなと言いつつ、セドリックは珍しく自分の仕事内容を息子に話してしまう。今までこんなことはなかったが、魔物退治や仕事に口出しをしてきた息子に対して、何か思うところがあったのかもしれない。

 すると息子は驚くことを口にした。


「バスク帝国との不可侵条約ですか?それでしたらニーナに頼んで、バスク皇帝に直接話してもらいましょうか?」


「は?どういうことだ?」


「話すと長くなりますが、国に帰る途中バスク皇帝と知り合い、ニーナがバスク皇帝と友人になったのです。俺も面識があります」


「はあ?おまえ、ふざけているのか?私はバスク帝国の新皇帝アルベルトという男の話をしているのだぞ?


「はい。その男の話です」


 もちろんこんな話をふざけて話す息子ではない事は、セドリックが一番よく知っている。


「ほ、本当に新皇帝と面識があるのか?どんな男だ?」


「悪い男ではないです。誠意をもって話せば分かってもらえると思います。それに、ニーナからの頼みならば意外と簡単に了承してもらえると思います」


「おまえ、期待だけさせて何かの間違いだったというのならば許さんぞ」


 信じられない話を聞いているようだったが、インフェルノの顔は真剣そのものだった。


「急ぐのであれば今からニーナを呼んできましょうか?」


 セドリックは詳しく話を聞きたいと思い、そうしてくれ、と答えようとしたところ、突然部屋の中に長方形の扉の大きさをした、黒い物体が現れる。

 そしてその黒い扉からすっと黒髪の若い女が現れると、何事もなかったのかのようにその黒い扉は消えた。


「呼んだか?」


「ニーナ!」


「この若い娘が、バスク皇帝と友人になったという魔法使いか?いったい今のはどんな魔法だ?!見たことも聞いた事もない……」


 驚く父親にインフェルノは説明をする。


「今のは転移門ゲートという魔法だそうです。空間と空間を繋げる扉のようなもので、いわゆる瞬間移動を可能にさせる魔法です」


「挨拶が遅くなってすまないな。昨日より世話になっている、ニーナだ。そんなことよりアルと連絡を取りたいのだったな?ちょっと待ってろ。遠隔通話リモートトーキン。もしもしアル?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 朝になりユーフォリアと別れたフローレンスは、再び夢の中の庭で一人、椅子に座り考え事をしていた。


 一人になったフローレンスは、せっかく迎えに来てくれた兄を拒絶してしまったことに対してひどく後悔をしていたが、それと同時にそれと同じくらい目を覚ます事への恐怖感を感じていた。

 フローレンスにとって、現実世界はとても窮屈に感じていたのだと思う。

 フローレンスは伯爵家の長女として生まれてきた。母は自分が幼いころに亡くなっていて、父と兄の三人家族として育った。将来家を継ぐべき兄に対し、父はとても厳しく接していた。時には暴力をふるう姿を見て、フローレンスはいつも怯えていた。自分は年頃になればどこかの貴族家に嫁ぐことになるであろう。そんな自分に対して父の愛情はあまり感じられなかった。

 兄は自分に対してとても優しくしてくれるが、それが無理をさせているようでいつも心苦しかった。

 あまり不自由を感じたことはないが、逆に喜びを感じたことも少なかったように思う。

 それがフローレンスにとっての現実世界だ。


 そしてある日、この夢の中に囚われ、ここから出られなくなった。

 ここはとても孤独で、寂しい世界であったが、現実世界のような不安や苦しみはない、穏やかな世界だった。

 孤独であったが、時々人の声を感じられることもあった。恐らくそれは現実世界で眠る自分に話しかけてくれる人の声だったのだと思う。病気の自分に対し、みんな優しい言葉をかけてくれるため、それはとても暖かいものとして感じられた。

 さらに最近では、この孤独な夢の中にユーフォリアが来てくれるようになった。

 自分と同い年の彼女とは、気が合った。それまで自分の友人と話したことのないような、兄弟の愚痴や家の不満などを話すことがとても楽しかった。

 そんなだから現実世界より今の方が楽しいと感じているのかもしれない。


 このままいつまでも、みんなに心配をかけていてはいけない事は分かっている。

 でも今は、目を覚ますことへの勇気がない。


 その時、フローレンスの目の前に、黒い四角い扉が現れた。

 そこから自分と同じ年頃くらいの、黒い髪の女性が出てくると挨拶をしてきた。


「やあ。はじめまして、私は魔法使いのニーナだ」


 その名前はユーフォリアから聞いていた。他の誰にもまねできない魔法で魔物を倒したり、みんなを助けたりしているという。


「は、はじめまして!」


 フローレンスは、慌てて椅子から立ち上がり挨拶をする。するとニーナは手をかざし、魔法を唱えた。すると空中に横長の長方形の映像が現れる。


「昨夜の様子は、こんな感じで全て見させてもらったよ。それでフローレンス。おまえは目を覚ます事に怖がっているみたいだな。私なら無理やり目を覚まさせることもできるんだが、無理しなくてもいい。それよりお前のためにお前の兄ががんばっている姿を見てもらいたいと思うんだ」


 空中に浮かぶ映像には、今いる場所と同じ景色が広がっていた。正確には青い空、庭の向こうの景色も見える。それは現実世界の自分の家の庭だった。

 今フローレンスが座っている場所に、兄と昨夜連れてきたバーンが座っていた。

 二人の目の前には、コロボックルのポポロがいた。二人と会話しているようだ。信じられなかった。ポポロは自分の友人だが、メアリーやメイドたちに紹介しようとした時、見えないと言われた。ポポロから、コロボックルは半妖精のため、霊感が弱い人間には見えないと言われた。だからその後ポポロの事は自分だけの秘密だったが、兄とバーンにも見えるようだ。二人がポポロと話すところを見ていると、なんだか自分一人の孤独を共有してもらえているような気がした。


 その後ニーナは寝不足で眠いと言って、椅子に座ったまま眠ってしまった。

 フローレンスは遠視窓リモートヴィジョンに映る兄たちの姿を、夢中で見続けた。

 インフェルノとバーンの二人は、ポポロに案内してもらい、森の中に棲む巨大ムカデギガントセンティピードを見つけると、どこからともなく取り出した魔法の剣で倒した。全身鎧を身に纏った兄の剣からエネルギー弾のようなものが出た時には、興奮して大きな声を出してしまった。ニーナがそれで目を覚ましてしまい、謝るとニーナは笑っていた。フローレンスはスクリーンに映る兄の姿に、今まで見たことがあるどんな観劇よりも感動してしまった。

 

 その後館に戻った兄は、父の部屋に向かった。兄は父に対し、ポポロたちコロボックルが住む森の開発を中止してくれとお願いをした。

 ポポロは、棲み処を奪われても文句を言わず去ろうとし、その際自分の棲み処を奪う人間たちのために巨大ムカデギガントセンティピードを倒す手伝いをしてくれた。 兄はそんなポポロたちの棲み処を奪うことを止めさせたいのだ。フローレンスは映像を見ながら、完全に兄に共感し応援していた。

 そして兄と父の会話にニーナの名前が挙がると、ニーナは椅子から立ち上がった。


「ちょっと行ってくる」


 そう言って先ほどやって来た時と同じ黒い扉を出現させると、その扉から映像の中の父の部屋へと移動していた。


「この若い娘が、バスク皇帝と友人になったという魔法使いか?いったい今のはどんな魔法だ?!見たことも聞いた事もない……」


 突然転移門ゲートの魔法を使い部屋に現れたニーナに対し、セドリックはそう呟く。驚く父親にインフェルノは説明をする。


「今のは転移門ゲートという魔法だそうです。空間と空間を繋げる扉のようなもので、いわゆる瞬間移動を可能にさせる魔法です」


「挨拶が遅くなってすまないな。私はニーナ。昨日より世話になっている。そんなことよりアルと連絡を取りたいのだったな?ちょっと待ってろ。遠隔通話リモートトーキン。もしもしアルベルト?」




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