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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第4章 バスク帝国編 若き皇帝の花嫁探し
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75.仮面舞踏会8

 バスク帝国の紋章のついた立派な馬車が、ラヴァーズフィールド領主ローガン侯爵の邸宅の正面玄関に停まる。先に降りていた着慣れない立派なタキシードを身に纏ったバーンがその馬車の扉を開けると、扉の中から裾がチューリップのように広がった美しいドレスを身に纏ったニーナが現れる。

 手を貸しゆっくりと馬車から降りるニーナ。続いてパンドラ、ユーフォリア、サリィの順に降りてくる。

 いずれも顔には目の周りを隠すヴェネツィアンマスクをしている。この祭りのドレスコードだ。


「ようこそいらっしゃいました。」


 そう告げるのは、この国の皇帝、アルベルト・エル・エリアス・ヴァーミリオン。

 アルベルトは玄関の階段の下まで降りてくると、ニーナの前で深く一礼する。その男が昨夜会った仮面の男と同一人物であることに気付き、ニーナは驚く。


「お前は!」


「ようこそいらっしゃいました、ニーナ様。バスク帝国皇帝、アルベルト・エル・エリアス・ヴァーミリオンと申します。」


「アル!まさかお前この国の皇帝だったのか!」


 その言葉に、辺りにいるアルベルトの護衛とバーンたちは、それぞれ違う意味でざわついた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「素敵なドレスですね!こちらでもご用意させていただいていたのですが、まさか昨日の今日でそんなご立派なドレスを準備されるとは思いませんでした。さすがはセントラール王国と言ったところでしょうか?」


「ん?ああ。パンドラとユーフォリアが、そんなものまで先方に用意させてはいけないと言って、急いで準備してくれたんだ。」


 館の入り口でアルベルトの後に挨拶をしたこの街の領主ローガンの案内で、アルベルトとニーナ、そして他のみんなが続く。ニーナだけでなく、セントラールの女性たちはいずれもすばらしいドレスを着ていた。そのドレスは、昨夜フェルナンデスが去った後、もう一度パンドラに遠隔通話リモートトーキンで舞踏会に誘われた事を話したところ、パンドラとユーフォリアが慌てて用意してくれたものだ。バーンたちの礼服も同じで、この準備のためにフィックスとの間を何回も転移門ゲートの魔法を使って行き来した。戦いでここまで魔法を使ったことはない。ある意味どんな強敵と戦うよりも大変だったと言えよう。


 その目的はパンドラ、ユーフォリア、サリィに奇術を見せる事。ニーナが一緒に楽しむこと。それに尽きる。そのために、むしろ奇術よりもすごい魔法を連発して準備をする。それがニーナだ。


「やっぱり昨日襲われた皇帝が影武者だったのは分かるとして、まさかお前がこの国の皇帝だなんて思わなかったよ。一般市民に紛れて祭りを見るなんて、よっぽど物好きなんだな。気持は分かるけど。」


 相手が皇帝陛下だと分かっても、昨夜と同じ態度を崩さないニーナ。アルベルトもそれに合わせて、昨夜と同じ話し方で対応する。


「私もニーナさんが、セントラール王国の王族の関係者だとは思いませんでしたよ。それにしても昨夜お誘いした時にはフラれてしまいましたが、こうしてもう一度お会いできて光栄です。」


 そうして一同は、大部屋に通される。扉を開けて中に入ると、そこにはいくつかの丸テーブルとそれを囲んで座る貴族たち。壁沿いには同じく着飾った騎士たち護衛の面々や執事、メイドたちがいた。アルベルトの姿を見ると、一同が立ち上がり、深く礼をする。

 領主ローガンはニーナたちをテーブルまで案内すると、部屋の正面まで行き挨拶をした。


「それでは皆様、セントラール王国からいらっしゃいましたお客様がご到着されましたので、これより今夜の宴を始めさせていただきたいと思います。今夜は特別に、昨夜トラブルによって途中で中止となってしまいました奇術のショーをここで開催させていただきたいと思います。それでは皆様、ショーが始まるまでの間、お食事をご用意いたしますので、会場にてご歓談ください。」


 そう言うとメイドたちが、それぞれのテーブルに慌ただしく料理を運び始める。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ニーナたちが座るテーブルには、ニーナ、パンドラ、ユーフォリア、サリィ、そしてアルベルトとロイが座った。バーンとインフェルノは、セントラールの騎士4名と同じテーブルだ。

 アルベルトのテーブルでは、改めて自己紹介が終わると、昨夜の襲撃事件に話は及んだ。


「昨日襲撃された皇帝陛下が、こんなにのんびりしていて大丈夫なのか?また襲われるかもしれないのだから、もっと警戒していた方がいいんじゃないか?」


「ハハハ、それなら大丈夫ですよ。昨夜は誰にでも集まれる街の広場でしたから、不審人物も侵入しやすかったかもしれませんが、今夜この館にいるのは、私と領主の関係者、そしてバスク帝国の貴族たちとその部下たち、そしてニーナさんたちだけですから。それにしても昨夜は、私の部下が危ないところを助けていただきありがとうございました。あれほど鮮やかな魔法は見たことがありません。もちろん帝国にも魔法使いたちはいますし、強力な魔法もあります。ですが瞬時に放たれる強力な魔法というのは初めてみました。」


「そうか?私もそう言えばクレープを初めて見たぞ。今日みんなで食べに行って来たんだ。美味しかったね?」


 一斉に同意するニーナの友人たち。(いやいや、クレープと魔法を同一レベルで話さないでくれ!)と、ニーナの会話にペースを乱されるアルベルト。

 横ではロイが苦笑いしている。昨日まではニーナたちの正体が分からず心配しながら観察していたが、ブルーノを助けてくれたと聞いたことと、セントラールから来た王族関係者という正体が分かり、今夜はその疑惑の目を解いて接することができるようになったようだ。


「やはりあの二人は、セントラールでも強力な魔法使いなのですか?」


 アルベルトが、隣のテーブルで食事をするバーンとインフェルノの事を聞く。するとニーナは、


「え?違うよ。あいつらは魔法使いじゃなくて剣士だよ。魔法は最近教えてやったんだよ。」


「え?」


 信じられないという表情で固まるアルベルト。逆にニーナから質問が飛ぶ。


「そんなことより、お前たちも特殊な力を持っているようだな。ロイ、お前が駆け出したあの速度。あれは普通の人間の身体能力を凌駕しているな?どうやってそんな身体能力を得た?普通に修行するだけでは到達できないレベルだろう?そしてアル、おまえの影武者をしていたあの男。最後に襲い掛かる暴漢の首を跳ねただろう?遠目ではっきりわからなかったが、持っていた片手剣は普通の剣だった。そして暴漢はフードの下に鎖帷子チェーンメイルを着ていたはずだ。鎖帷子チェーンメイルごと片手で首を跳ねるなんて、どういう力をしている?お前の部下はバケモノぞろいなのか?」


「な…、そこまでお見通しでしたか?!」


 ニーナのその質問に、アルベルトだけでなく、ロイも認識を改める。奇術見たさにやっと呼べたとか、さきほどのクレープの件とか、ちょっと変わり者なのかと思ったが、相当の切れ者のようだ。


「……。本当はあまり大きな声では言えないのですが、良いでしょう。先に踏み入った質問をしてしまったのは私の方ですし。ロイは、神殿にて覚醒試練を突破し、精霊の加護で人間の限界を超えた反応速度を手に入れました。肉体への負荷が大きいので、常にああいう状態にはなれませんが、一定期間限界を超えた超人的な身体能力を発揮できます。そして私の影武者をしていたブルーノは、魔力にも似ているのですが、剣気という気を使います。本人の類まれなる膂力に、剣気を刀身に流し込むことによって、あそこまでの切れ味が発生します。彼の剣法は刀にかかる負担も大きく、同じ剣をいつまでも使い続ける事はできないのですが…。もちろんこれは我がバスク帝国宮殿騎士団の、ほんの一部の力です。騎士団の中には、他にも特殊な力を持った騎士がたくさんおります。」


 アルベルトは、最後多少誇張して伝えた。確かに他にも特殊な力を持った騎士はいるが、その中で最も強いのがロイだ。現在ロイ以上の恐るべき力を持った騎士はいない。だがバスク帝国の力の全貌が掴めぬよう、霧に包むように言ったのは、アルベルトの皇帝としてのプライドがそうさせた。


「なるほど!どちらも初めて聞いたよ。やっぱり世界は広いな。そうすると、アル。お前もロイと同じで、神殿で覚醒試練というのを突破したのか?」


「え?!」


 その通りだった。アルベルトもロイと同じく、超人的身体能力を発揮できる能力を持っている。だがアルベルトはそれをニーナの前で見せていないし、帝国内でも知る者は一握りのはずだった。


「おっしゃる通りです。」


 アルベルトは素直に認める。おそらくニーナには、いろいろなことを見透かされている。だとしたら隠し事をするのは無駄な気がしたからだ。


「皇帝陛下自らそこまでの強さを持っているなんて、大したものだな。それで、バーンたちの魔法の話だったな。二人には私が魔法を教えてやったんだ。適正のある魔法を効率的に教えれば、短期間であそこまでできるようになるんだ。全然不思議なことじゃない。」


「私が教えたという事は…、ニーナさんは魔法使いなんですか?!」


 再びアルベルトとロイに、驚きの表情を浮かぶ。魔法を使うようになるには、長い年月と厳しい修業が必要と考えられているからだ。若くして簡単な魔法を使える者もいるが、それはまだ戦闘には不向きなレベルの魔法だ。だが昨夜見た一撃必殺の魔法を短期間で教えたほどの魔法使いというと、バスク帝国にいるどの魔法使いよりも優れた魔法使いである可能性が高い。…いや、間違いないだろう。バスク帝国には、ニーナレベルの魔法使いはいない。


「そうだよ。私は魔法使いだよ。帝国には魔法使いは珍しいのか?」


「いえ、いることにはいますが、特に攻撃魔法については、どちらかというと魔法使いが使用する魔法よりも、地下迷宮ダンジョンから発掘された魔道器マジックアイテムの方が強力な魔法を発生させることの方が多いです。ニーナさんの、いえ、セントラールの魔法について、一度深くお聞かせ願いたいですね。」


 バスク帝国より遠く離れたセントラール王国は、1000年以上戦争をしていないと聞く。土地的に侵略されにくいことと、おそらく人種的な闘争本能の違いがあるのかもしれない。強さこそ価値があるものという帝国の考えの中で、セントラールは大国ではあるが取るに足らない国だと思われてきた。その認識を改める必要がありそうだ。


「それは難しいな。だっておまえの国は戦争ばかりしているんだろう?人を殺す手伝いをするのはごめんだ。」


「そうですか…。そうですよね。国家の機密を早々簡単には…。失礼しました。」


 すこし落ち込んだ風のアルベルトを見て、ニーナは一言付け加える。


「だけど、お前が戦争をしない国にするなら、仲良くしてやってもいいぞ。」


 思いがけないことを言われ、驚いた表情をするアルベルト。そして静かな笑顔になり答える。


「ありがとうございます。ですが、それは難しいです。バスク帝国はセントラールと違って、国の周りには我が国土を狙ういくつもの敵国と隣り合っています。我々が侵略をしなくても、向こうから攻めてくるのです。抵抗のためにも戦争をしなくては、我が国は滅びてしまいます。」


「そうか。それは考え方だと思うがな。まあ私からどうこうしろとは言わない。お前はお前のやり方で国を幸せにすればいい。私は私のやり方でセントラールを守っていく。」


「…そうですね。」


 セントラールを守っていくという言葉に、アルベルトはやはりこの女性はただ者ではないのだと改めて確信する。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



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