74.夢の中の再会
ユーフォリアは、今日もカフェサリィに行く準備をしていた。
ユーフォリアはカフェサリィで週5日働いて、残りの2日休みをもらっている。だがユーフォリアはカフェサリィで働いている方が楽しく、休みはいらないくらいだと感じていた。
店長のサリィは、用事があればいつでも休んでいいと言われているが、毎日休みなしで働いている。サリィはまだ11歳なのだが、農村の子供は小さいころから休みなく家の事を手伝っているので全く問題ないという。
だからユーフォリアも休まず働きたいとパンドラに伝えたが、却下された。働きすぎてしまうと、今感じている楽しい気持ちがなくなってしまうと言われた。だからユーフォリアは週5日を楽しもうと思った。
貴族の娘が街で働く事をよく思わない者もいる。だが父ブライトンは、ユーフォリアがカフェサリィで働く事に快く賛成してくれた。病気で寝込む前にしていた習い事も、全て止めてしまった。
店の開店資金も、ユーフォリアの父に出資してもらった。お金のことはパンドラに全て任せているが、もし利益がでていなくても、おそらく父がなんとかしてくれる。だからこれは本当の商売ではなく、貴族の娘のお遊びみたいなものかもしれないなとも思っている。
そうは言ってもパンドラは、働いた分の給料を出してくれると言っていた。初めての給料では、父に何か買ってあげなければいけないなと思っている。
カフェサリィはお昼時になると、毎日満員で混雑する。だが吸血従者の女の子たちは疲れ知らずで働いてくれるため、ユーフォリアは好きな時に休憩をさせてもらえる。
スタッフの昼食は、こういう飲食店ではありえないくらい珍しく、奥の休憩室のテーブルで1時間くらいかけてゆっくり食べる。吸血従者たちは食事はいらないらしいため、サリィ、ユーフォリアと、パンドラがいるときはパンドラも一緒に食べる。ユーフォリアは、みんなで食事をとるこの時間が大好きだ。
店には、時々知り合いがやってくることもある。先日はニーナとバーンとインフェルノがやってきたため、みんなで客席で食事を食べた。今日も、同じメンバーで食事をしていた。
バーンとインフェルノは言い争いをしているようで、でもそれは見ていて仲がいいんだなと感じさせる言い争いだった。バーンさんにもよい友人がいるんだなと思った。そういえばこのインフェルノという人は何か目的があって旅をしていた気がする。そうだ。妹を目覚めさせるために旅をしているんだった。忘れていた。私は夢の中でフローレンスに会いにいかなくてはいけない。そうだ、私は今夢を見ているんだ。今こそフローレンスに会いに行くべきだ。
ユーフォリアがそう思った瞬間、周りの景色が一変した。そこは緑に囲まれた庭。真っ白な4階建ての館の横にある、よく手入れされた庭だった。そうだ。以前ここでユーフォリアに出会ったんだ!ユーフォリアは薄れている記憶を遡り、前回フローレンスが座っていたテーブルの場所に駆ける。
フローレンスは、やはりそこに座っていた。
「フローレンス!」
そう呼ばれた彼女は、ユーフォリアに気付くと驚いた顔をして答えた。
「ユーフォリア?!」
椅子から立ち上がるフローレンス。ユーフォリアはそこに駆けてゆくと、フローレンスに抱き着いて再会を喜んだ。
ユーフォリアを抱き返すフローレンスは、次第に泣き始めた。ユーフォリアはそれに驚き、フローレンスの頭を軽くなでながら「どうしたの?」と、優しく問いかけた。
「ううっ…、ユーフォリア…、会いたかった…。最近お兄様の声も聞こえなくなって、ずっと一人だったから……」
一人で寂しい思いをしていたのだろう。フローレンスはユーフォリアの胸に顔を伏せて泣いていた。ユーフォリアは、これまで会いにこれなかった自分が、すごく申し訳なく思えた。
「なかなか会いにこれなくてごめんね。伝えたい事がたくさんあるの。」
ユーフォリアはそう言うと、フローレンスが泣き止んで落ち着くのを待ってから、二人で椅子に座って話始めた。
「ごめんなさい、取り乱しちゃって。また会いに来てくれるって思わなかったから、すごく嬉しくて。」
少し泣いて落ち着いたフローレンスは目の下を少し赤くしていたが、そう言うといつもの笑顔で笑った。
「寂しかったね。ごめんね。フローレンスに会いに来てなかった間、いろいろあったんだ。」
「うん。」
「ここは、私とあなたの夢の中だっていうことは分かる?」
「うん。」
「私、最初は、あなたは私の夢の中の人だと思ってたの。でも違った。あなたは私と同じ世界の遠くの国にいて眠っていて、夢の中で会ったのね。」
フローレンスは黙って頷く。今自分の身体がどういう状態になっているのかは分からないが、ここが覚めない夢の中だという事は薄々感づいていた。
「私、あなたのお兄さんに出会ったの。」
「えっ?!」
ユーフォリアのその言葉に、フローレンスはひどく驚く。ユーフォリアと、兄インフェルノの間に全くのつながりが見当たらなかったためだ。住んでいる国も遠く離れており、お互いの国に知り合いもいない。
「あなたのお兄さんから聞いたんだけど、あなたはなんとかっていう悪い術を使う亡霊に眠らされたらしいの。それでお兄さんはその亡霊に、あなたを目覚めさせるには私が住むセントラール王国にある龍の宝珠が必要だってそそのかされて、やって来たの。結局その龍の宝珠で亡霊が蘇って、私の友達の魔法使いの女の子がその亡霊をやっつけたのね。それで、その私の友達のニーナ様は、本当にすごい魔法使いなの。ニーナ様はその後、あなたを助けるために、バーンさんっていう剣士の人と、あなたのお兄さんの3人で、今あなたの国に向かっているわ。だから待ってて。もうすぐ助けに行くから!きっとあなたは目覚めるから!」
ユーフォリアのその言葉を聞くと、フローレンスは何とも言えない表情を顔に浮かべた。それはさし込んだ希望に対し、静かにうれしさが湧き上がってくる感情。
「ほ…んと、なの?わたし…ここから出られるの?」
言葉を振り絞る。それに対しユーフォリアは、力強く頷く。
「そうよ!あとちょっとだけ待ってて!」
「うん!待ってる!ありがとう!私が目覚めたら、あなたに会いにいくわ!」
「そうね!」
そして二人はとても良い笑顔で笑い合った。
「ねえユーフォリア。私の友達になってくれる?」
「何言ってるの?私たちは友達よ!」
「それじゃ……あの……、ユーちゃんって呼んでもいい?」
「いいわよ。それじゃフローレンスは、フーちゃんね!」
「うん!」
二人はとても楽しそうに笑った後、今日もまた、お互いの兄弟の愚痴や、両親の愚痴などに花を咲かせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めると、ユーフォリアはいつもと同じ自室のベッドの中にいた。
ユーフォリアはゆっくりと上体を起こし、今見た夢を振り返る。
夢の中で会ったのは、自分の妄想が作り上げたフローレンスではなく、現実の世界にいるフローレンスだと確信した。
あの後、飽きることなく二人は話し続けた。必ず助けに行くと約束した。恐らく夢の中で強く意識すれば、彼女の夢に辿り着けるのだと分かった。だとしたらニーナたちを彼女の夢に案内することもできるかもしれない。ちょうど今日、ニーナと会ってバスク帝国の祭りに行く予定だ。その時に今見た夢の話を伝えよう。ユーフォリアはそう思い、ベッドから出る。いつも朝はなかなかまどろみから抜けきれないのだが、今日ばかりは目覚めと共にはっきりと覚醒していた。
部屋の窓からは、明るい朝日が差し込んでいた。




