72.仮面舞踏会6
アルベルトは、お互い仮面を付けている以上、ニーナたちの正体についてそれ以上尋ねることはできなかった。
「フフフ、その通りですね。お互い仮面を付けている間は、祭りが終わるまで詮索しないのがルール。それではニーナさん、あさって祭りが終わったら、改めてお会いしていただけませんか?お互い仮面を外して。」
「え?ダメだよ。祭りが終わったら急いで出発しないといけないんだ。」
「え………?」
アルベルトは皇帝襲撃を救ったニーナたちに、聞きたいことがたくさんある。先ほど使った魔法の事、セントラール王国の事、そしてなによりニーナ自身の事を。だがアルベルトが改めて会う約束を取ろうとしても、ニーナの予定が合わないらしい。
「………そ、そうですよね、旅の途中に寄っただけだって言ってましたもんね…。そうだ。明日はまだいるんですよね?明日の夜は祭りの最後に各地で舞踏会があるんですが、一緒に踊ってくれませんか?」
「ダメだよ。明日は友達を呼んでみんなで観光するんだ。」
「………そ、そうですか…お友達が来るんですか…。」
沈黙。そして再びアルベルトが口を開く。
「とりあえず、先ほどはこの国の皇帝陛下を救ってくださりありがとうございました。この国の民を代表してお礼を述べさせていただきます。」
「いや、こちらこそクレープをありがとう!ところで、どうやらさっきの騒ぎで奇術も中止みたいだな。それなら私たちは、そろそろ帰るよ。」
皇帝襲撃に伴い、急きょ今夜の奇術の見世物が中止となったようで、舞台の上は片づけを始めていた。市民の中には怪我人はいないようだったが、街中で行われた殺し合いを見て気分を悪くした者も多く、広場は不穏な空気となっていた。そんな場の空気を察知して、今夜は早々に帰る者も多かった。
ニーナもバーンとインフェルノを連れて宿屋へ帰って行った。
広場から少しずつ人が減ってゆく中、アルベルトは立ち尽くす。
彼が振り返って襲撃のあった観覧席に視線を移すと、そこにあった黒い煙はもうほとんど消えていた。
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襲撃されたブルーノ救出のために駆け出したロイは、目の前に起きた出来事に目を疑った。
超人的な身体能力を持つロイは、矢のかけるほどの速さでブルーノの元へ駆けた。ブルーノはすでに交戦中であり、間に合わないかもしれないという不安を抱えながらも、人ごみをかき分け、走る。
だが突然、後ろから飛んできた"何か"がロイの頭上を追い越し、ブルーノを襲う暴漢二人に炸裂した。その一撃が決め手となり、ひるんだ暴漢二人にブルーノの剛剣が止めを刺す。ロイが辿り着く前に、勝負は決したのだった。
その光景を見た後、ロイはその"何か"が飛んできた方向を見る。その方向の先は、人ごみで見る事ができないが、自分が駆けだしてきた場所の方向だった。
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その後、言葉少なに領主の邸宅に戻ったアルベルトとロイは、別に帰っているブルーノの状況を確認しに行く。幸いなことに、ブルーノは衣装の下に薄手の防具を身に着けていたため、何度か浅い攻撃を受けてはいたものの無傷だった。
「無事でなによりだ、ブルーノ。ご苦労であった。」
「いえ、自分は任務を全うしたまでです。」
労うアルベルトに、一礼して答えるブルーノ。すぐ横に居た領主エドワード・ローガンも礼を言う。
「ブルーノ様には私の身も守ってもらいました。ありがとうございました。足手まといになって申し訳ありません。」
「いや、やつらは私を狙っていたのだ。ローガン卿を巻き込んでしまって、こちらこそすまない。もっと警護を厳重にすべきだった私の落ち度だ。私を許してくれ。」
「もったいないお言葉。大変恐縮です。」
「それにしても襲撃者の正体は、何者だったのか分かるか?私の命を狙う者と言っても、心当たりが多すぎるのだが。」
「ええ、特殊な武器と体術を使って降りました。恐らくですが…。」
ブルーノがそう答えようとした時、部屋のドアをノックする音が響く。「構わん、入れ。」というアルベルトの声の後、ドアを開けて入って来たのは、ロイ、ブルーノと同じく、アルベルトが帝都より連れてきた宮殿騎士の一人、フェルナンデスだった。
「陛下、お帰りなさいませ。今日こそ、お目当てのお妃候補とは、出会いになられましたか?」
「うるさい黙れ!それどころじゃなかったわ!ブルーノたちが襲われたのだ。」
「それは大変でした。ですが、全員ご無事のようで何よりです。あー、それなら私の要件は後にした方がよろしいでしょうかね?」
「よい。話せ。」
「はっ。本日、セントラール王国の通行証を持った旅行者が、この街に入ったそうです。その者たちですが、どうやらただの観光客ではなさそうで、通行証にはセントラール国王直筆のサインが入っており、馬車にもセントラール王家の紋章が入っていたと番兵からの報告がありました。セントラール王室の者である可能性がありますので、明晩の舞踏会へ来賓として招待すべきかご相談に参ったのですが…。」
「呼べ!」
フェルナンデスが最後まで言い切る前に、アルベルトは即答した。
おそらくそれはニーナたちの事だ。そんなにたくさんのセントラール人が同時にここまで来るとは考えにくい。だとしたら、ニーナともう一度話す最後のチャンスだ。アルベルトには、話し足りなかった事がたくさんある。
「分かりました。今からその者たちの宿泊先を調べ、招待状を渡してまいります。」
「フェルナンデス、お前自ら招待状を渡してこい。そして何としてでも来てもらえ!そのために相手が条件を出して来たら何でも応えろ。そうだな、旅行であれば舞踏会用の衣装など持ってきておらぬであろう。こちらで衣装等も準備すると伝えろ。衣装と待合室などの準備も怠るな!最上の接待で出迎えろ!」
フェルナンデスにとっては寝耳に水だった。他国の王室の者が来ているなら、声を掛けるだけ掛けておきますか?という質問をしただけだったのだが、なんとしてでも連れてこいという返答をされるとは思わなかった。しかも相手が条件を出して来たら応えろと言う。剣術で無理難題を言われるならまだ分かるが、そういう指示に対して自分がどれだけ応えられるだろうか。フェルナンデスは「分かりました。」とだけ答えて、早々に部屋を退場した。
フェルナンデスが部屋を出ると、ロイはアルベルトに話しかけた。
「陛下。もしかして、ニーナさんですか…?」
「間違いあるまい?ニーナさんとお連れの二人の部下たちだろう。明日はご友人も来ると言っていたな。なんなら全員招待しても構わないだろう。改めて今日の礼を伝え、今日見せられた魔法の事も聞かせてもらいたいな。お前は彼女たちを呼ぶことに反対か?」
「いえ、最初は何か企んでいるのではないかと疑っていましたが、どうやら本当にただの観光のようですし、陛下を狙っているわけでもなさそうです。だとしたら、私も今日見た魔法について、詳しく聞いてみたいです。」
二人の会話に、領主ローガンが「おお、お二人とご面識があられるのですか?」と言い、アルベルトは「少しね。」とだけ答えた。そして、
「ローガン卿。そういうわけですので、急いで招待の準備をお願いしてもよいですか?」
と、翌日に迫った舞踏会の話をしつつ、今日起こった襲撃事件についても情報の交換を行い、改めて調査をすることとした。




