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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第4章 バスク帝国編 若き皇帝の花嫁探し
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71.仮面舞踏会5

 広場の中央には一段高くなったステージがあり、それを取り囲むように人だかりが出来ていた。さらにその人だかりの外側では人の往来があり、広場の外周には数多くの露店が出ていた。

 ステージを完全に人だかりがおおっているわけでもないため、少しでも人が少なくて見やすそうな場所を求めてニーナは動き回る。じわじわと前に行くと、160cmのニーナの背でもステージ上がはっきりと見える好ポジションをついに見つけ、そこで立ち止まる。

 後からついてきた仮面の男4人組もそこに合流すると、一同はステージ上で行われている脱出劇を観覧する。


 ステージ上では奇術師の男が、大げさなアピールをした後、ステージ中央に無造作に置かれた箱の中に入っていった。アシスタントがその箱のふたを閉めると、ステージ上にサーベルを持った二人の男が登場する。男たちはサーベルをぶつけ合い、チャリンチャリンという金属音を鳴らす。アシスタントが指示をすると、男二人が突然先ほど奇術師が入った箱の中にサーベルを突き刺した。

 客席からは悲鳴も聞こえた。ニーナはワクワクした表情で、拳を握りながらステージ上を見つめている。

 男たちはサーベルを手放すと、突き刺さった箱を指さし、中の奇術師の男が大変なことになっているというアピールをする。観覧客は緊張しながらステージ上を見守る。

 続いてアシスタントの指示で、男たちはサーベルを引き抜く。そしてそのサーベルが本物であることを客席に向けてアピールする。しかしサーベルには血がついていない。

 男たちはその後退場し、ステージ上にはアシスタントと箱が残される。アシスタントはカウントダウンを始める。


「3…、2…、1…、」


 客たちもそのカウントダウンを一緒に数え、そして「0!」と言う声と共に箱のふたが上に飛び、中から奇術師の男が立ち上がる。箱から出てきた奇術師の身体には一切傷はなかった。

 会場は歓声に包まれる。


「おおー!すごい!あの男は肉体を鉄のようにしたのか?それとも瞬時に治癒魔法をかけたのか?でもあの男から魔力は感じないな。どういう事だ?!」


 箱の中でどうなったのか想像するニーナ。


「いや、おそらくあの箱の中には舞台の下につながる抜け穴があって、剣が刺さる時は舞台の下に避難していたのでしょう。そして剣が引き抜かれ、カウントダウンが終わるまでの間に再び上がってきたのでしょう。」


 とアルベルトは、純粋すぎて驚いているニーナに、ネタばらしをする。


「え?それじゃいかさまじゃないか!」


「それが奇術イリュージョンっていうやつだよ。」


 と、バーンもアルベルトと一緒に冷めた顔でステージを見ながら言った。


「なーんだ…。」


 ひどく残念そうな顔で、頬を膨らませるニーナだった。


奇術イリュージョンを見るのも初めてですか?」


「初めてだ!なんだか楽しいな!」


 それでもニーナは楽しんでいるようで、笑顔で答えた。

 次の奇術が始まる前に、会場がざわつき始める。会場の観客の視線の先は、広場中央のステージではなく、広場の隅に設けられた階段状の観客席の一段上にあるステージに現れた仮面を付けた二人の男だった。


「あれは誰だ?」


 ニーナがアルベルトに質問する。


「ああ、あれはこの国の皇帝ヴァーミリオン様と、この街の領主ローガン様ですね。皇帝陛下は、この街までこのお祭りを見るために帝都からやって来たそうですよ。」


「へえ~。」


 観客と一緒にその二人を見つめるニーナ。

 今夜も広場の観客たちから拍手で迎えられた二人は、次に始まる奇術の観覧をしようと客席最上段にある屋根付きの特別席に着席する。

 ハーフマスクの領主と違い、皇帝(の影武者をしているブルーノという名の宮殿騎士)の姿は、頭から首回りまで布で覆われ、顔全体を完全に隠す真っ白な仮面の上に王冠を付けている。完全に中に誰が入っているか分からない衣装だった。


「あれじゃあ、どんな顔か分からないなあ。せっかくこの国の皇帝の顔が見れると思ったのに…。あんな服装してたら、中身は誰でも一緒だよ。」


 そんなニーナの一言に、ビクッと反応するロイ。


「ハハッ、まあ仮面の下は誰か分からないというのがこのお祭りですからね。」


 と、アルベルトが言うと、


「まあでも立ち姿から、お前たちより背が高くて、体も鍛えているのが分かるな。あれはなかなかの剣の使いだぞ。」


「確かに。単純にリーチの長さで負けているし、パワーもありそうだ。あれでスピードがあれば俺でも危ういかもしれん。」


 淡々とブルーノの戦力を分析するニーナとインフェルノに、ロイはさらに不安を増す。そこにアルベルトが返事をする。


「皇帝陛下自身が剣の達人だなんて話は、聞いたことありませんね。周りが強ければ、陛下自身が強くある必要はないでしょう?まあ、皇帝陛下が護衛も付けずに簡単にこんな観衆の前に出てくるとは思えませんし、あれは影武者かもしれませんよ。しかし、よく立ち姿だけで強いと分かりますね?」


 しれっと壇上の皇帝が影武者であることを、バラすアルベルト。だが自身の剣の腕は否定する。

 ロイはそんなアルベルトの言動がどんな真意があるか分からず、黙って静観する。


「影武者か…。そうかもな。立ち姿って、それだけで強い者は独特のオーラを身に纏ってるだろ?なあ、バーン。」


「ああ。俺はインフェルノみたいな説明はできないが、あの男が強そうだなと言うのはわかる。そういうあんたら二人も、そこそこの腕だろう?」


 そう言ってバーンは、アルベルトとロイが腰から下げている剣をチラ見する。

 それは装飾が施された華美な鞘に納められており、ぱっと見は貴族の式典用の飾りの剣だ。だが二人のそれが実剣であることをバーンは見抜いていた。

 ロイは、その発言に内心焦るが冷静を装い、沈黙を守る。そしてアルベルトが、得意のはったりでごまかす。


「いえいえ、これはそこらの男性たちと同じように模造剣ですよ~。もし本物だったとしても、今日は仮面舞踏会。僕たちの正体が剣士だとか冒険者だったりしても、内緒ですよ。フフフ。」


 先に詮索をさせないよう釘を刺す。バーンは「なるほど」と答えると、それ以上は質問してこなかった。


「さあさあ、次の奇術が始まりますよ!」


 アルベルトはそう言って、話題を目の前で行われてる催しの話に戻し、その話は早々に切り上げた。

 ステージの上では、次の奇術の準備が進められていた。ステージに二つの箱が用意されている。

 ニーナがワクワクしながらアルベルトに尋ねる。


「次は何が始まるんだ?」


「多分ですが、あっちの箱の中に奇術師が入ると、今度は箱ごと爆破するんだと思います。そしてもう一つの箱から生還するという奇術じゃないかな?」


「爆破されたら死んじゃうじゃないか!…いや、分かったぞ!転移魔法で脱出するんだろう?」


 ニーナがキラキラした目で予想するが、バーンは(お前じゃないんだから…)と内心思いつつ奇術のタネを予想する。


「床の下に空間があるなら、さっきと同じで床下を通ってもう一つの箱に移動するんじゃないのか?」


 その一言にニーナは絶句してバーンを見ると、一言「その手があったか…。」と、呟いた。


「まあいい。この目で見届けてやろう!」


 タネが分かってもまだワクワクしているニーナは、腕を組みながら次の奇術が始まるのを待つ。そして次の奇術が始まる前に、またしても皇帝のいる観覧席の方からざわつく声が聞こえてきた。

 ニーナたちも視線をそちらに移すと、皇帝のいる場所の下の観覧席に黒い煙が立ち込めていた。火事だろうか、それとも演出だろうか?戸惑う観客のざわつきが響く。


「なんだ?あの邪悪な気は?演出じゃないな?」


 ニーナは、その煙がただの煙ではなく邪気を帯びたものだと気づき、アルベルトに問う。アルベルトは焦った顔をしていた。


「ロイ、何も聞いていないな?」


「はい」


 二人は状況を見守る。

 その時、皇帝の下の客席の煙の中から、騒ぎに乗じて皇帝のいる観覧席へ登ってゆく二つの影があった。左右から登った二人の男は、ゆったりとしたマントの中から、両手に持つ鎧通しジャマダハルと呼ばれる幅広の刺突用の特殊な剣を現す。そして二つの影は、中央の皇帝の所へ駆けだした。

 皇帝は領主を守るように前に立ち、その腰に下げていた細身のショートソードを抜き構える。

 二人のマントの男は、剣を構える皇帝に襲い掛かった。襲い掛かる鎧通しジャマダハルを払いのける形で、何度も剣と剣がぶつかり合う。激しくぶつかり合う金属音が響く。二本の剣を突き出したマントの男たちは、奇妙な体裁きで襲い掛かる。そのゆったりとした衣服によって自らの姿勢を隠し、さらにその剣筋を把握させにくくしている。そして左右から襲い掛かる合計4本の剣の前に、1本の剣で立ち向かう皇帝は押されていた。


 今日まで何も起こらなかったため、警備も緩くなっていた。そして煙で客席の様子はよく分からないが、その煙によって客席にいた警備兵も混乱し対応できずにいるようだった。


「さすがに2対1ではブルーノでも分が悪い、ロイ!」


「ハッ!」


 戦況を把握し、すぐにロイに加勢に行くことを指示するアルベルト。そしてアルベルトは尋常ではない速度で駆け出した。それは人が駆ける速度ではなく、まるで獣だった。

 走り出したロイに驚くバーンとインフェルノだったが、その直後ニーナとアルベルトの会話の後、すぐに姿勢を構える。


「もう一度聞くが、あれは演出じゃないんだな?」


「ええ。恐らく、何者かに皇帝が襲撃されています。」


「バーン、インフェルノ!加勢してやれ。絶対に外すなよ!」


 ニーナのその言葉を瞬時に理解し、バーンとインフェルノは右手を上げ同時に唱えた。


火球ファイヤーボール!」「斬撃球ブラストボール!」


 二人の放った魔法は、皇帝を襲う二人の悪漢にそれぞれ直撃する。その瞬間、マントの直撃した箇所が凹むのが見えた。二人は下に鎖帷子チェーンメイルを着こんでおり、その一撃で止めまではさせてはいなかった。だが、皇帝の影武者をしている宮殿騎士ブルーノの前で、姿勢を崩し油断を見せた悪漢二人は、その一瞬が命取りとなった。素早く降られるブルーノの剛剣は、鎖帷子の上から二人の首を跳ね飛ばす。次の瞬間、真っ赤な鮮血が飛び散った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おー!命中したな。練習しといてよかっただろう。」


 ニーナはバーンとインフェルノにそう話しかける。


 皇帝を襲った暴漢は皇帝により迎え撃たれ見事に敗北、事態は収まったように見えた。階下の煙も薄まってきており、大きな混乱も無いように見える。それは、あっという間の出来事だった。

 目の前で起きた出来事を、信じられないといった表情で見つめるアルベルト。


「ま…まさか、魔法…ですか?…こんなに鮮やかな魔法は見たことがない!」


 (セントラールは大した戦力を持った国ではないと認識していたが、こんなに強力な魔法使いを有していたのか?こんなに若い者でここまでの使い手がいるならば、総戦力は想像に難くない…。認識を改める必要がありそうだ…。)

 アルベルトは心の中で、そうセントラール王国についての評価を改める。


「ニーナさん、あなたたちはいったい…?」


 アルベルトがそう口にした時、


「この祭りの参加者は、みんな正体は内緒なんだろ?」


 ニーナは笑ってそう答えた。

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