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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第4章 バスク帝国編 若き皇帝の花嫁探し
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70.仮面舞踏会4

 嫁候補を探すため、仮面を付けて正体を隠し、お供の騎士ロイと二人で街へ繰り出したバスク皇帝アルベルト。なかなか好みの女性と巡り合えずにいた祭りの6日目の夜、アルベルトは黒い髪の少女ニーナと出会った。


「初めましてニーナさん。ニーナさんは、お一人ですか?」


「ん?いや、今連れの者を置いてこのクレープ屋を見に来たんだが、よく考えたら財布は連れが持っているんで、どうしようかなと思ってたところだ。」


「へえ、クレープ…。」


「そう。クレープ…。」


 二人の会話にアルベルトの横に居たロイがハッとして「あ、買ってきます!」とクレープ屋の列に並ぼうとする。だがそれを「あ、いや、俺が行こう!」とアルベルトが制止、「しかし…、」と躊躇するロイをしり目にニーナは、


「私イチゴのやつね!」


 と、ちゃっかりアルベルトにリクエストをした。


「了解しました、姫君!」


 と、この国の皇帝は、初めて出会った少女のためクレープ屋の列の最後尾に並ぶのだった。


 勢いでアルベルトにクレープ屋の列に並ばせてしまったロイは、判断を間違えてしまったかと悩んだが、この女性に対し自分がクレープを買って来てもアルベルトの得点にならないであろうし、アルベルトがこんな酔狂なことができるのも今日限りであろうと思い、結局引き留めるのを思いとどまった事をよしとした。


 しかしその結果、アルベルトがクレープを買ってくるまでの間、なぜかニーナとロイの二人がその場に取り残される。

 ロイはアルベルトと違って町娘に興味があるわけでもないため、特にロイから話すこともなくその場に無言で立っていると、ニーナの方から沈黙を破ってロイに話しかけてきた。


「あれはお前の主人なのか?」


「え?!何を?!」


 主従関係を隠し友人として振舞っていたつもりだったが、何もかもバレているような指摘をされ、ロイは大いに焦った。これまでずっと上手くいっていたため油断していたかもしれない、自分に軽率な行動がなかったかと後悔しつつ、その場は必至で取り繕う。


「ハハ…、私とアルは、幼いころからの親友ですよ。私はこんなしゃべり方のため、私がアルに仕えているかのように誤解させてしまいましたかね。申し訳ありません。ご覧のようにアルは積極的な性格でして、消極的な私をこの祭りに誘ってくれたんです。」


 焦りからか、言葉数が多くなってしまうロイ。


「ふーん。お前もたくさん話せるんだな。さっき大人しかったから無口なのかと思った。」


 なんだか心中を見透かされているようで、ロイは背筋に何か冷たいものが走るような気がした。


「それと、主人と思ったのは言葉遣いじゃなくて、雰囲気なんだけど。まあ私の勘違いだったみたいだ。悪かった。」


 この女、どこまで分かって言っているんだ?!ロイの緊張は、さらに高まる。

 今仮面を付けて街で遊んでいるアルベルトが、この国の皇帝だという事は絶対に秘密だ。帝都から遠いこの街でアルベルトの顔をはっきりと知っている者はいないであろう事と、仮面によって隠されている事、そしてまさか皇帝が町民に紛れてるなんて誰も考えないであろうと思い、アルベルトのお遊びを許している。だが、もしかしてこの女はアルベルトの正体に気付いているのではないか?だとしたらなぜバレた?そしてこの女の目的は何だ?

 沈黙の中、アルベルトの頭の中は思考がフル回転をしていた。

 今回アルベルトの護衛は、ロイたった一人だけである。大国の皇帝の護衛をしてそれはあまりに少なすぎるが、ロイは帝国の騎士団の中でも最強と言われるほどの剣の使い手であり、1000人の大群を相手にしても負けない自信がある。そしてアルベルト自身も達人であり、騎士団の中でも彼に勝てる者は数えるほどしかいない。だから街へ出ても大丈夫であろうという、絶対的な自信はあった。

 そうは言ってもアルベルトの命を狙う者は多い。若輩者のアルベルトが帝位を継いだことをよく思わない者たち、アルベルトの叔父のシュバイケン大公爵などはあからさまに不機嫌な顔をする。戦争を続けている山間部に住む蛮族たち、帝国からの独立をたくらむ地方貴族、侵略によって家族や土地を奪われた者たち、数え上げたらキリがない。

 そんな者たちが正面から来るのであれば剣を持って対抗するが、恐ろしいのは死角からやってくる飛び道具や、毒や暗器による暗殺だ。ロイは改めて気を引き締めると、辺りに注意を払う。


 ロイのそんな心中も知らず、アルベルトは笑顔でクレープを3つ買って来た。


「わーい!ありがと!」


「ニーナさん、お待たせしました!ほらロイも。」


 そう言って、アルはクレープを二人に手渡す。


「私の分まで、すいません。」


 頭を下げるロイにニーナは、


「ほら、そういうとこ。」


 と、指摘する。ハッとなって、ロイはニーナを見る。何と言い訳しようかと考え、返答する前にアルベルトが口を挟む。


「何の話?」


「いやね、彼がお前の部下みたいだって言ったの。そしたら必死で否定するから、私も謝ったんだけど。」


「ああ、こいつね。昔からこうなの。堅苦しいけど許してやってね。」


 笑顔でロイの肩を組みながら、答えるアルベルト。ロイが自分からは何と言えば怪しまれずに済むか必死で考えていると、ニーナはそんなことお構いなしにクレープを食べ始めていた。


「美味しい!」


 唇の横に白いクリームを付けた顔で、満面の笑みを浮かべながら初めて食べたクレープの感想を言う。その反応にアルベルトは、とても嬉しそうな笑顔で答える。


「喜んでもらえて良かった。ニーナさん、クレープを食べるのは初めてですか?ニーナさんって帝国の人ではないんですよね?」


「ああ、私はセントラールから来たんだ。クレープは、食べるのも見るのも初めてだ。この国には美味しい食べ物がたくさんありそうだな。」


 初めて見た時からニーナの髪色が気になっていたが、出身について尋ねると、予想通りの答えが帰って来た。


「なるほど観光ですか。でもわざわざこんな遠くにまで来られるなんて珍しいですね。実は僕たちも帝都からこの街まで観光に来ているんですよ。」


「私は観光じゃなくて、たまたま通りかかったら祭りがやってただけなんだけどね。」


「え?そうなんですか。それではどこへ?」


「おーい、ニーナー。」


 そんな会話をしていると、そこへお茶を飲み終わったバーンとインフェルノがニーナを追ってやってきた。ニーナが手に持っているクレープを目にし、「あれ?お金渡したっけ?」というバーンにニーナは、「ああ、この男に買ってもらったんだ。」とアルベルトを紹介する。

 バーンたちの姿を見て、(あちゃー、男連れか。)と、内心ひどくがっかりするアルベルト。

 そんなアルベルトにバーンはお礼を言う。


「すいません、ニーナがお世話になっちゃって。」


「いえいえ。それで、ニーナさん、どちらがあなたの彼氏なんですか?」


「へ?」


 ニーナの視線が、アルベルトから、バーンとインフェルノを順に見る。その直後ニーナは爆笑する。


「アハハハハ!どっちも違うよ。二人とも私の部下だよ。」


 不満そうな顔をするインフェルノが「やはり俺も部下なのか…。」とぼやく。だが、それ以上否定もしない。


「部下…ですか?」


 そう言ってアルベルトは、二人を改めて観察する。

 一人は黒髪で、おそらくニーナと同じセントラールの人間だろう。だが祭りに似つかわしくない無骨な川鎧を身に纏い、衣服も汚れている。部下と言うより奴隷と言っても差し支えないような恰好をしている。

 もう一人は金髪の白人種で、この国か北方連合の辺りの出身だろう。仕立ての良い服を着てはいるが、よく見るとこちらの男の服も汚れている。ニーナの着ている美しい衣服と比べると、その旅の汚れが目に余る。

 そう。よく見れば、ニーナと釣り合いの取れそうもないいでたちの男たちだったのだ。そんなニーナの言葉にホッとするアルベルト。しかし後ろのロイの視線は鋭い。ニーナが何者なのか?この二人の男は何者なのか?一人緊張感を漂わせていた。


「そう。部下だ。こっちがバーン。こっちがインフェルノ。私たちはインフェルノの国へ行く途中なんだ。」


「そうでしたか。私はアルと申します。こちらの連れはロイです。どうぞよろしく。」


 丁寧なあいさつを受け戸惑うバーンは、「ど、どうも…。」とぎこちなく挨拶を返した。

 その時、ワーッという歓声が聞こえる。


「なんだ?」


 と、目を輝かせて歓声の方を気にするニーナ。


「今夜も始まったな。毎夜、広場で奇術イリュージョンの見世物が行われているのですよ。」


「えっ!見たい!見る!」


 そう言ってニーナは広場に駆け出して行った。

 取り残される4人の男たち。それぞれ顔を見合わせて沈黙した後、アルが言った。


「我々も行きますか。」


 一同は、こくりと頷き、ニーナの後を追って広場へ歩き出した。

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