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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第4章 バスク帝国編 若き皇帝の花嫁探し
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68.シュメール河を越えて

 翌朝、日が昇る前に俺たちは目を覚まし、出発の準備を始める。長距離の移動のため、少しでも早く出発をしたいところだ。

 俺たちが馬車に乗り込もうとする時、隣に停まっている冒険者の幌馬車では、ローズが馬に回復魔法ヒーリングをかけていた。


「昨日もたくさん走ってくれて、ありがとねえ。今日も頼むよ。」


 ローズはそう馬に話しかけ、回復魔法をかける。馬の身体にキラキラとした魔力が流れる。恐らくそれで昨日の移動の疲労を、完全に回復させたようだ。


「馬にも回復魔法をかけるのか?」


 その様子を見ていたニーナが、馬車に乗り込むのをやめてローズに話しかけた。


「そうだよ。長距離の移動で、一番疲れるのは馬たちだからね。」


「確かにそうだな。でも私たちの仲間には、回復魔法を使える者がいないんだよね…。」


 そう言われてみれば、俺たちの知り合いに回復魔法を使える者がいなかった。ニーナが使う魔法は、肉体の時間を無理やり怪我をする前の状態に戻すやり方で、失敗すると記憶まで失ってしまったり、最悪の場合、精神と肉体の同調が切れてしまう事もあるのだと言う。(俺はニーナに2回助けられたが、もしかしたら植物人間になっていたかもしれないと思うとゾッとする。今後は大けがをしないようにしたい。)パンドラの生命力吸収・付与は、単純にエネルギーのやり取りをするだけの魔法らしい。肉体の疲れを癒したり、怪我を治したりする魔法とは違うのだそうだ。


「長旅では馬の疲労も大きいし、馬が怪我をしてしまうと全く移動できなくなってしまうからね。だから私は長旅には、回復魔法は欠かせないと思うんだけどねえ。」


「なるほど…確かにその通りだ!おい、バーン!インフェルノ!お前たち、ローズに回復魔法を教えてもらえ!」


「なんで、そんな安直な事言うんだよ?!」


「そんなに簡単にできたら、世話ないよ!」


 俺もローズも、そんな簡単に覚えられることじゃないと言ったのだが、ニーナは本気だった。


「そんな事言わずに教えてよ。バーンも死ぬ気で覚えろ。」


 ニーナがあまりに真剣だったため、覚えられるかどうかは別として、ローズも快く引き受けてくれた。

 他の冒険者たちの許可をもらった上で、その日の移動はローズに俺たちの馬車に乗ってもらうことになり、馬車の中で回復魔法を教えてもらった。


 一言に回復魔法と言っても、種類があるのだそうだ。神官系の回復魔法は、神に祈り回復させてもらう。これには深い信仰が必要とされる。もう一つは魔力系の回復魔法、いわゆる白魔法は、己の魔力を消費して回復させる。それは人体に流れる霊力の流れを読み、魔力を送り正しい流れにする。また怪我などの治癒魔法の仕組みはまた違っていて、肉体構造を理解し、魔力を使って再生を促す。人体の細胞の中には人間の体の設計図があり、その細胞を活性化させることで怪我をした部位を復元させるのだそうだ。

 俺たちに信仰する神があるわけでもなく、ローズが使うのも魔力系の回復魔法だったので、ちょうど都合が良かった。

 ローズに魔力を流して回復・治癒する魔法を教えてもらうが、結局俺たち二人はなかなかうまくできなかなかった。もちろんそんなに簡単に覚えられるものでもないそうなので、今後も気長に練習を続けるようアドバイスをもらった。だが有り余る魔力を持て余しているニーナは、ローズが説明するそばから使えるようになっていた。言うなればニーナは、回復魔法を使おうと思えばいつでも使える能力を持っていたけれど、使い方を知らなかっただけともと言える。今後はニーナから教えてもらいながら回復魔法の修行もすることになった。


 その後も移動中には、指輪を使わずに遠隔通話リモートトーキンの魔法を使う修行や、最初に教わったそれぞれの攻撃魔法の修行を続けた。やはりまだ回復魔法は俺たちには使えないのだが、遠隔通話リモートトーキンは習得したし、俺たちの魔力はさらにアップしてきたと思う。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 荒野を横断し、着いた先の街で見たのは、向こう岸が見えない海のようひとても広い大河だった。このシュメール河を渡るとバスク帝国の領地だ。俺たちは、馬車ごと大きな船に乗り、向こう岸まで渡る。

そうして1時間ばかり船に揺られ、俺たちはバスク帝国領サントロペスの街に辿り着いた。

 帝都に向かう冒険者たちとはここでお別れだ。


「本当にお世話になりました。」


 ジュリアとイアンは、深々と頭をさげる。それに対し、ニーナが尊大な態度で返答をする。


「まあまあ、代わりにローズに回復魔法を教えてもらったから気にするな!」


「お前は何もしてないだろ!」


 誇らしげな顔のニーナに、俺がツッこむ。


「部下のした事は、私がしたも同然だからな!」


「俺まで部下なのか……」


 インフェルノは困惑する。確かに俺はニーナの騎士にはなったが、全然関係のないインフェルノまで部下呼ばわりするからだ。まあニーナなりのジョークなのだろう。インフェルノはそれ以上肯定も否定もしないし、ジュリアとイアンも笑っている。


「でも本当に、イアンの命を救っていただいた恩は忘れません。もし帝都に来る事があれば、ぜひ冒険者ギルドへお寄り下さい。何か力になれる事があれば、いつでもお声をかけて下さい。」


「ありがとうジュリア。もしそんな時があったら、よろしく頼むな。逆に君たちが、セントラールに来る事があったら俺たちを訪ねて来てくれ。」


「はい!」


 そうして俺たちは冒険者たちと別れ、北東に向けて出発した。



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